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「ステップして撃って、すぐステップして撃って。そうそうそんな感じ」

「ゆ、指がつりそうです……」

「これも慣れるまでは仕方ないから繰り返して。スタミナゲージを意識して、回避できるように三分の一くらいまで減ったら基本は一旦やめる感じで」


 いつもとは違うゲーム。六角がFPSやバトロワ系のPvPはあまりやらないので、六角もやっているモンスターを狩るゲームを始めてみたのだが、なかなか苦戦している。

 最初のうちはほとんど俺が敵を倒してストーリーを進め、装備がそれなりに作れるようになったので、武器を試すがてら敵と戦っているが、最初に弓を選んだせいで苦戦している。

 どの武器を使うにしても慣れるまでは難しいが、距離感を意識しつつ左右に動きながら狙うという合わせ技に完全にテンパってしまっている。


「距離離れすぎてダメージでてないぞー」

「そ、そうは言ってもですね。尻尾があたりそうで」


 香坂の練習のためのクエストなので、俺はアイテムを集めたり、肉を焼いたりしながら様子を見ているため、かなり気楽だ。

 このゲームに関しては、六角の手伝いがてら和也と一緒にやっていただけなので、俺もあまり上手くはない。ちゃんとした指示はできないので、攻略を見ながらダメそうなところを言っていく。


「あ、今度は近すぎ」

「ああ……あ、ちょっと! こっちこないでください!」


 今度は近づきすぎて尻尾に巻き込まれる。吹き飛ばされて起き上がったところに追撃をくらい、逃げる間も無く体力はゼロになった。

 キャンプに運ばれる自分のキャラを見て肩を落とす。防具はまだ全然できていなくて、とりあえず欲しいスキルだけ発動させている状況なので、やられるのは仕方ない。

 クエスト失敗になるとまた最初からこのクエストをやらないといけないので、ここからは俺も手を出す。


 いざ、戦いに行こうとしたところで、ピンポーンとインターホンが人のやる気を奪おうとしているかのように絶妙なタイミングで鳴った。

 どうせロクでもない勧誘とかだろうし、出なくてもいいか。


「キャンプは安全ですから、私が出てきますね」

「あー……別に良いのに」


 俺が動こうとしないので香坂が代わりに出ようと立ち上がる。俺が止めようとする前に動き出していたので、今更止めても仕方ないかと小さな声で呟いて、ゲーム画面に目を戻す。



「きゃっ!? えっ? あれ……どうして?」

「こんばんは」

「あ、はい。こんばんは」


 香坂の驚いた声に嫌な予感がして、キャンプに戻るコマンドだけ入れて振り返ると、楽しそうに笑みを浮かべる彰が立っていた。

 ……面倒なことは立て続けに起こるってか。一昨日は和也で、今日は彰とか遭遇率高すぎるだろ。


「楽しそうなことになってるね。なんで黙ってたの?」

「お前が絡むと面倒なことが倍増するからだ。言わなくてもわかるだろ」

「やだなあ。僕は良い方向に進めようとしているだけだよ。悪い相手じゃなきゃ邪魔なんてしないって」


 相手が俺や鈴音に良くない影響を与えるような奴ならば、当然のごとく人の交友関係にすら手を出してくるのが彰の悪いところだ。悪い影響と言っても、非行に走るなんて重いことならまだしも、よくわからない彰の基準で決められるので厄介なのだ。


「服や髪だなんて気にしない悠人がなんで頼んできたのか不思議だったけど、椿ちゃんと出かけるためだったのか。それならもっと格好良い感じにしたのに」

「別にあれで問題なかった。いや、別にあれが良かったってわけじゃないけど」

「悠人は鈴ちゃんとそっくりだからね」


 たしかによく言われるけれど、自分ではそう思わないんだけどな。あの格好に関しては納得はいかないが、結果としては良かったから文句を言うつもりはない。俺でも簡単にできたから助かったし。


「あ、あの……お二人は仲が良いのですか? 学校では一緒にいるところは見かけませんでしたが」


 置いてけぼりにされていた香坂が横からおずおずと顔を出してくる。


「うーん……合鍵を持っているくらいには仲が良いよ」

「その合鍵はお前に渡したものじゃないけどな」

「使用人の物は主人の物って言うじゃん」


 言わねえよ。というか、使用人なんて普通いないから。

 彰が指に引っ掛けてくるくると回している鍵は、俺の親から彰の親に、そしてそこから彰の世話をしている杏花さんに渡ったものだろう。

 無駄に金持ちだからなあ。彰は跡取りではないが優秀だから予備として育てられてきている。その分、本家の力というのも願えば使えるくらいには優遇されているみたいだし、彰の父親も提携グループの社長だし。


「く、倉橋くんも、もしかして御曹司だったりするのですか?」

「いや、うちは普通の家。ただ、彰と仲良くなったから付き合いがあるってだけで」


 彰がおかしいだけで、うちは普通だ。なんでこんな奴が、公立の小学校に転校してきたのかというところが謎ではある。


「そうそう、これ持ってきたんだ。テスト勉強用の教材ね」

「そのために来たのか。杏花さんにありがとうって伝えといてくれ」

「使用人の手柄は主人の手柄って」

「言わないから。お前はさっさと帰れ」

「せっかく来たからゆっくりしたいけど、二人の邪魔しちゃ悪いもんね。じゃあ、またね。椿ちゃんも」

「あ、はい。また学校で」


 彰が部屋を出ていけば、嵐が過ぎ去ったかのごとく静けさが訪れる。

 ドサっと勢いよく椅子に座り、マウスに手をかけたと同時に、タイムアップでクエスト失敗の表示が現れた。


「終わっちゃいましたね」

「あいつのせいでな」

「ふふ。仲良いのですね。ちょうど終わったので、私はこれから勉強します」

「はあ……別のゲームでもやるか」

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