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完成は終わりではなく、始まりの合図

「難しくはなかったですけど、大丈夫か心配しながらだったので少し疲れました」

「初めてだから仕方ないさ。思ったよりも早くできたから、この後少しゲームするか?」

「はい。楽しみです」


 動画を見ていたおかげもあって最後までスムーズに組み立ては終わった。さすがにケースの前面端子は迷っていたから教えたが、それ以外は説明書だけですんなりできていたのは本人の器用さもあってのことだろう。

 OSのインストールやその他諸々のセットアップは俺がやり、その間に香坂は晩ご飯の用意をしていたので、まだ電源を入れた姿は見ていない。


「な、なんですか? 顔がニヤニヤしてます」

「いや、気にしてそわそわしているから」

「すいません。やっぱり気になってしまって」

「もう終わっている頃だろうから見てくるよ」


 気持ちはわかる。楽しみにして頑張って作った物を、完成間近でおあずけにされているようなものだ。食事もすでに終わって、休憩がてらお茶を飲んでいるだけなのでコップを持って部屋に戻る。

 ゲームのインストールも終わってデスクトップ上にショートカットのアイコンができているので、もう最低限の準備はできた。一旦パソコンの電源を切り、必要なものを準備する。さっきまでは自分が使いやすいようにキーボードとマウスは俺がいつも使っているやつでやっていたが、一緒にゲームをするなら香坂用も必要になる。キーボードとマウスも光るものが使わず置いてあったので、それを香坂用に取り出す。


「もう準備できたから入って良いよ」


 ドアの前で待機していたのかと思うくらいの早さで香坂が中に入ってきたので、椅子を引いて座るように促す。プレゼントを前にした子供のように落ち着かない様子で、手に取れるキーボードとマウスをいろいろな角度から眺めている。


「そこのボタンが電源だから、そこを押して電源を入れて」

「は、はい。じゃあ、いきます」


 ピッと音が鳴ってファンが回り始める。メモリとマザーボードと電源。ポイントごとにある光るパーツが、ケースのサイドパネルのスモーク越しに優しく光りを放つ。


「ふわあぁ……綺麗ですね」


 光るパーツは少なめなので煌びやかな見た目ではないが、ふんわりとした雰囲気が香坂に似合っていて良いと思う。設定で色がゆっくりと変わっていくようにしているので、色が変わるたびに香坂の口から声が漏れている。


「ありがとうございます。自分で考えたパソコンって、こんなに良いものなんですね」

「考えたり、出来上がった様子を見るのが楽しいんだよな」

「そうですね。また機会があれば作ってみたいです」


 作る機会なんてそんなにないから、次は少しずつ中身をグレードアップしたりとかくらいだろう。

 作るのは楽しいし出来上がりを見るのも楽しいが、結局性能は既製品でも変わらないので、この楽しみが薄れてくると、また何かいじりたくなってくる。ほとんど埃とかもなく意味がないのに掃除を始めてみたり、グリスを塗り替えたりすることもあるし。


「キーボードとかも含めていろいろもらいましたが、本当に良かったんですか?」

「使っていないものばっかりだったから良いよ。しまう場所には困ってなかったから置いていただけだし」

「それでも、これだけあれば結構な値段になると思うのですが……」

「捨てるよりは有効活用してるから。値段は全部新品で買えば七万くらいか。中古だから五万、買い取りに出したとしたら二、三万くらいかな」


 箱も残ってないし雑に使って傷とかあるのばかりだから、買い取りだとかなり安くなるだろう。


「うっ……申し訳ありません」

「いいって。これから使ってもらえるなら残していた意味があったってものだ。ご飯作ってくれたりしてるから、そのお礼ってことで」

「そ、それなら、これからも作らせてもらいますね。何かして欲しいことがあったらいつでも言ってください」


 自分で逃げ道を無くしてどうするんだ。まあ、ご飯は美味しいからありがたいんだけれども。ゲームをしていたらご飯が用意されていて好きなタイミングで食べられるって最高だ。無かったら無かったで今までやってきたわけだけど、同じように手間がかからないのなら食べた方が集中できる気もするし空腹感も感じなくて助かっている。

 二、三万円くらいでしばらく家政婦を雇えると思えば、むしろかなり俺が得をしているのではないだろうか。


「さっそくゲームでもするか。一応俺の設定と同じにしてあるからそこまで違和感はないと思うが、マウスとかが違うから少し慣れが必要だと思う」

「では、先に少し試しておきます」

「行けそうだったら言って。俺も少し慣らしておくから」





 十五分ほどでサクッと一戦が終わる。野良でプレイしたが味方に上手い人がいたことと、アイテム運が良かったのもあり、一回で勝利してしまった。チャットでお疲れときたので返事だけしてロビーに戻ると、横から肩を叩かれる。


「できそうなのでやりましょう」

「わかった。招待するから許可して入ってきて。それとVC繋げるからそのマイクに話しかけて」

「マイクで話すのですか?」

「俺はゲームするとき結構音量大きくしているから、イヤホン越しに話しかけられてもあまり聞こえないんだ」


 索敵のために足音とかちょっとした音が聞こえるかどうかが大事になってくる。やっぱり相手に気づかず待ち構えられていると勝つのは厳しい。隣にいたとしても戦闘中だと銃声でうるさいので、香坂がなにか話したとしても聞き取れるかわからない。


「あー、あー。聞こえますか?」


 マイクに向かって声を張る香坂が、そのまま俺の方を見てくる。直接聞こえてくる声とイヤホンを通して聞こえてくる声で、香坂の声が二重に聞こえてきて少し面白い。


「聞こえてるよ。もう少し声小さくても大丈夫」

「これくらいでも大丈夫ですか?」

「大丈夫。このボタンでVCのオンオフを切り替えられるから、聞かれたくないときとかはオフにして」


 隣にいるから咳とかくしゃみとかはオフにしても聞こえるだろうけど。


「じゃあ、最初はあまり俺から離れないようについてきて」

「はい。頑張ります!」

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