答えは決まっているようなもので
「やった! 全部当たりましたよ!」
「上達が早いな。もう操作は問題なさそうだな」
トレーニングルームの止まった的に、自分も止まった状態でだが全弾ヘッドショットにあてることができている。これが動いている相手になるともっと難しくなり、自分も動きながらだとさらに難しくなるとは言え、全くの初心者が三日間軽く触った程度での成果とすれば十分だろう。本人が喜んでいるのであれこれ言うことはせずに誉めておく。
香坂はこの三日間、毎日三十分くらいトレーニングモードで操作を覚え、あとは俺のプレイを見ながらブロックで家を作ったりするサンドボックスゲームで遊んだりして夜の九時くらいに帰っていく。聞かれたら教える程度で、それ以外は少し気にかけながら自分のことをしているので、気まずい雰囲気になったりもなかった。
「やりたいなら普通にプレイしてもいいんだぞ?」
「一人でやるのは不安です。倉橋くんも一緒にやるならやってみたいですけれど」
一緒にやるのは良いんだが、俺の家でこのゲームを動かせるパソコンは香坂が今使っている一台しかない。ノートパソコンやタブレットではスペック不足でまともに動かないから、横で見てやることはできても、一緒にやるのは無理だ。
「和也と六角に言って一緒にやるってのは?」
「ここまで教えてもらったので、最初は倉橋くんとがいいです」
「……そうなるともう一台パソコンが必要になるから難しいな」
和也の家に行ってパソコンを使わせてもらうなんてことはできないし、もう一台パソコンを買うにしてもそんな金をポンと用意することはできない。貯金を使えば買えないことはないが、俺の金で香坂用のパソコンを買うのも変な話だし、香坂も気にしてしまうだろう。俺も新しいパソコンが欲しいわけではないからな。
「わ、私がパソコンを買うというのはどうでしょう?」
「それなら別に良いけど、そんな安くないよ。余っているパーツを使ってもあと五万くらいは必要になると思う」
「お金は貯めているので大丈夫です。お母さんに返そうとしても、必要になる時がくるから持っておきなさいって受け取ってもらえなかったので」
「金さえ問題無いのなら俺は止めないけど、大きな買い物になるから本当に使って良いか、自分自身と親に聞いておいたら? どうせ買うにしても土日の方が良いだろうから、急ぐ必要はないし」
「そうします。明日返事をしますので、土日は空けておいてください」
笑顔でよろしくお願いしますと言う香坂は、普段の柔らかな笑みとは違う、楽しそうな笑みに顔を背けてしまう。
あれ?一緒に買いに行くことになっている?たしかにパソコンについて教えたのは俺だし、俺と一緒にゲームするようのパソコンを買うのだから関係がないわけではないが、二人で買いに行くのか?
最寄駅の近くは電化製品を取り扱う大きな店がある。自作パソコン用の商品も置いてあるので、買いに行くにはもってこいの場所だが、駅前の人が多い場所に行けば、誰に見られるかわからない。
香坂と二人で歩いている姿なんて見られようものなら、週明けには学校で大騒ぎになるだろう。
「空けておいてくださいね」
「ん……ああ。どうせゲームしかやることないし」
俺が顔を背けて返事をしなかったから、香坂は顔を覗き込むようにして逃げ場をなくしてきた。
はあ……何も起きませんように。
和也にパソコンを作ってやった後に、知り合いからいくつかはパソコンのパーツはもらって補充している。基本は自分の予備用として置いているが、有効活用できるのなら使ってやった方が良いだろう。今持っているうちのほとんどは父さんがくれたものなので、人にあげたところで文句を言われることもないだろうし。
「パソコン買うとするならどんな感じにするかだけは決めておくか。それによって買うものも値段も変わるから、どうするかの判断材料にもなるだろうし」
「そうですね。何を基準に選んだら良いんですか?」
「いろいろあるけどな。とりあえずのことはできるようにスペックの良いのにするか、自分のしたいことに合わせてスペックを選ぶかだけど、今回は安くするためにもスペックはぎりぎりか少し余裕を持たせるくらいだな」
人によってはとりあえず何でも最高設定でやりたいっていう人もいれば、設定は下げるの前提でとりあえずプレイできれば良いっていう人もいる。俺としては設定は下げても良いがゲームをするうえで不満に感じない程度のスペックは欲しいが、香坂の場合は俺よりも少し下くらいのスペックでも大丈夫だろう。そのあたりは予算と実際の売値次第で決めるしかない。
だから、今決めるのはスペック以外の部分だ。見た目にこだわるのなら、それで値段も変わってくる。綺麗に光らせようと思うとパーツも選ばないといけなくなるので、どこまで光らせるかも大事な要素だ。
「まずは光らせ方だな。どのくらいが良い?」
「倉橋くんのパソコンと同じくらいですかね。どこまでできるのかわかりませんが、あまりギラギラとしたのは好きではないので、全体が光るというよりはポイントごとで光る方が良いです」
「それならマザーボードとメモリ、あとはCPUクーラーが予算内で買えればってところかな」
「ここですよね? このくらいがちょうど良いです」
俺のパソコンで光る場所や光らせ方を見ながら相談していく。ソフトで光り方を変えると、その度に香坂が驚いた表情で食い入るように見るので、本当に楽しみなんだろうなって思う。
俺もパソコンの構成を考えるのは好きなので、教えながら選んでいくのも楽しい。ある程度候補を見繕い、値段を確認すると五万二千円とそれなりの金額にはなってしまった。
「もっと安くしようと思えばできるけど、好きなものを作るのならこのくらいだね」
「結構しますね。余っているのも結構いただくみたいですが大丈夫なんですか?」
「要らないからってもらったものだし、俺も予備として置いているけど使う機会があるかはわからないから、使えるなら使ってやった方が良いだろ」
父さんなんかは困ったら中古で売って金の足しにしろとか言って持ってきたくらいだ。収納の中で眠り続けるよりは、人の手に渡ろうと有効活用された方が良い。
「では、お言葉に甘えさせていただきます。一日考えて明日来るときにはどうするかお伝えしますね」
「ああ、まあ焦らず考えるんだな」
でかい買い物だし、使わないならもったいないだけだ。一緒にゲームをするだけが目的ならパソコンなんてもったいない。俺だってこういうゲームしかしないわけではないので、遊ぶ分には一台で複数人ができるゲーム機のゲームをすればいい。
笑顔で帰っていく香坂を見れば答えはもうわかっているようなものだ。俺も準備はしておくか。