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精霊術士カノ  作者: 海埜ケイ
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旅の準備


 旅立ちは、それから一週間後になった。

 旅についての心得や、目的地についてシワサギからみっちりと教えられ、アフレは旅に必要なものを揃えてくれた。



 いよいよ明日は旅立ちの日ということで、カノはベッドの上で持ち物を広げて確認しながら、背嚢に詰めていった。


「背嚢に、寝具と下着三日分、タオル三枚、竹筒の水筒二本に三日分の非常食。お金は銅貨100枚か……」


 お金に関しては、アフレから教わったが、価値観が違うせいもあり、高いのか安いのかまだ分からない。


「辻馬車が銅貨20枚が妥当で、宿は一泊15枚、ただの丸パン一個で銅貨2枚必要。シショウは一人前の精霊術士なら合間合間の町で路銀を稼げるって言うけど、未成年でよそ者の私でもできるのかなぁ?」


 食器洗い程度なら、元の世界と同じ感じだろうしできると思う。


「えっと、後はシショウから貰った本二冊とまとめ本が一冊。地図とコンパスは外ポケットのすぐ出る位置に入れてる。……うん、OKかな!」


 背負ってみるとかなり重いが、辻馬車に乗るまでなら。と思いながら頑張ろう。

 カノは背嚢から地図を取り出し広げると、どこからともなくフウが姿を現し、カノの肩に乗った。


「ん? フウも地図見たいの? いいよ、一緒に見よう」


『みよう!』


 フウはカノの真似をした。

 見た目はシマナガエのようにふわふわと丸っこい体形をしているが、色はメジロのような深緑をしている。愛嬌があり可愛い容姿に、カノだけではなくアフレやシェリィもメロメロになっている。

 ジッとフウのことを見つめていると、フウは体ごと首を傾げた。


『あしたはたび?』


「そうだよ」


『どこへいくの?』


「えっとね、明日から私たちが目指すのは霊峰山スピリアから南西にある国、聖泉国シャリアス。水の大国みたいだけど、どんなところなんだろうね。イタリアのヴェネツィアみたいなところだったら良いね」


『ゔぇねち~?』


「うん、私の故郷……というか世界にある国の一つ。町に水路がたくさんあって綺麗な町なんだよ」


『きれいなまち!』


「そう。……正直、まだ信じられないなぁ。半引きこもりの私が、異世界にいて、しかも世界を救うために旅をするなんて、どこのライトノベルかって話し」


『のべる?』


「うん、だけど、決めたんだ。結局、私が元の世界に帰る方法だってあやふやなんだし、目的もないまま世界を放浪するんじゃなくて、カルロイラさんやユアルさんの友達の役に立ちながら旅をした方が、効率がいいんじゃないかなってさ」


 一週間前のシワサギの言葉で、カノは物事を重く考え過ぎるのは止めた。できるできないではない。やらなければいけないことからコツコツやっていこうと。

 カノにできることは精霊術。まだ契約と精霊の力の一部を借りることしかできないが、旅をしていく間に精霊との解約の術を学ぼうと思った。


(シショウは“一人前の精霊術士”じゃないから解約の術は知らないって言うけど……)


 カノは思い浮かべる。

 この一週間、シワサギの肩にミズノがこっそりと乗っているところを何度も見たことがある。試しに、ミズノ本人に聞くと、「シワサギはね、ミズノの声は聞こえないけど、ミズノはシワサギの声が聞けるんだよ。だから、シワサギが契約の呪文を唱えた時にこっそり契約しちゃったの。ミズノ、シワサギのこと大好きだもん」と暴露話を教えてくれた。

 シワサギには、この暴露話は話していない。話したところで信じてもらえるか分からないし、何よりもミズノがそれを望んでいないように見えたからだ。

 言葉は交わせないが、二人の相性は抜群のようでシワサギもミズノのことを嫌っているようには見えないし、もしかしたら契約していることに気が付いているのかもしれない。


(けど、それを否定するのはやっぱり、シショウが金のブレスレットを持っていないからなのかな?)


 いつ填めたのかは覚えていないブレスレット。お風呂に入るとき以外は常に付けているようにシワサギから厳命されているが、カノはこっそりと寝ている時も外している。

 寝相が悪いカノは、腕を頭や横に振るったりするので金属が体のどこかにぶつかり、朝起きると地味に痛いのだ。

 金のブレスレットを擦っていると、ブレスレットの内側に妙な窪みが五つ空いていることに気付いた。


「何これ?」


 指先が触れると、窪みに緑の光が集結し、まるでビー玉を填め込んだような形に収まった。


「………本当に何これ」


 胡乱な目を向けていると、肩に乗っていたフウがふわりと羽を羽ばたかせて緑のビー玉の元へ行き吸い込まれた。


「!?!? フウ」


『なぁに~~』


「良かった、無事?」


『ん~~。ここ、ねごこちがいいの~~。おやすみぃ~~………』


 ビー玉に耳を近付けても、特に寝息は聞こえない。


「……精霊用のベッドかな?」


 そう思っておくことにする。

 カノは考えることを放棄した。




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