表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊術士カノ  作者: 海埜ケイ
17/19

謎の少年



「……面白くないなあ」


 突如、上空から聞こえてきた声と同時に、カノは突き飛ばされていた。


「え?」


 目の前で爆撃が発生する。黒い黒煙の煙が上がり、煙が晴れると火傷を負ったシワサギが倒れているのが見えた。


「シショウ!」


 駆け寄ろうとしたが、服を引っ張られて停められる。直後、再び目の前で爆音が発生した。

 あのまま走り出していたら確実に当たっていた。

 ゾッと、背筋が凍るのを感じていると、走り出すカノを停めたカルロイラがゆっくりと歩を進めた。


『貴様……、何故生きている!』


 殺意を飛ばすカルロイラを、“彼”はつまらなそうに見下ろしている。

 月に模した何かに乗った彼は、日本人のような黒い髪、黒い瞳だけでも珍しいと思ってしまうのに、更に黒いマントとローブを身につけ、全身を黒尽くめで固めていた。

 彼は視線をカルロイラに定めたが、興味がなさそうに溜息を吐く。


「それを聞いてどうするの? また僕の邪魔をするつもり?」


『当たり前だ! 貴様の犯した罪は万死に値する! 二度と復活できぬように切り刻んでくれるわ!』


 牙を剥いて跳躍するカルロイラを、彼は蠅を追い払う風に手で叩き落とした。


『……グッ!』


「カルロさん!」


「それが、君の今の契約者?」


 彼の視線がカノに向く。カノはカルロイラを背に、ギュッと風の鎌を握りしめ彼と対峙した。今すぐ、逃げ出したくて堪らなかった。

 カルロイラを簡単に地面に伏してしまう力もそうだが、何よりも彼の風貌に恐怖を感じる。


(何でだろう、恐怖しか湧かない)


 ドクンドクンと心臓が早鐘のように打ち鳴らし、耳元で聞こえてくるのに比例して、彼の瞳は絶対零度のように冷たい。

 彼は何かを言う前に、跳躍してカノと鼻先を付き合わせた。


「君のような頭の悪い凡人が、ユアルの遺物を使うなんて、“お似合い”だね」


 何が?

 それを問う前に、カノは結んでいた髪を掴まれて焼き切られる。痛いや熱いの前に、燃えいく自分の髪に思考が停止した。彼の手がカノに迫り行くーーー。


「させるか!」


 寸前に、シワサギの鎌が彼に向かって振るわれ、彼は自然とカノから距離を取った。


「カノン! 大丈夫かい?」


「あ、ふれ、さん?」


 煤だらけの顔にあちこち怪我をしてボロボロになった姿のアフレを見て、カノは涙を流した。


「アフレさん、私……」


 アフレは何も言わず、カノを抱き締めて、シショウと共に彼を睨み付ける。

 更に師匠の前に、カルロイラが立ちはだかり毛を逆立てていた。


「……まあ、こんなヤツを放って置いても別に害はないか」


 彼が踵を返したのを、シワサギが待ったを掛ける。


「待て! テメエの目的は一体、なんだ! 何が目的でこの畑を荒らした」


「目的? それはユアルの遺物を受け継いだ人間がどんなものかを見たかっただけだけど……」


 彼は視線をカノに向けて冷笑を浮かべる。

「安心したよ」


 嘲るように言うと、彼の姿は黒い霧状に包まれて消えてしまった。

 先ほどまで頭上を漂っていた異界の民の姿もいつの間にか消えているので、脅威は完全に去ったと見て間違いないだろう。

 シワサギは鎌を消して、周りを見回した。

 焼き焦がれて使い物にならなくなった畑に、意気消沈中のカノ。アフレだけでなくトミーもボロボロだという話しだ。

 確かに脅威は去った。だが、こちら側が受けた被害は尋常ではないくらいに大きい。


「最悪だな……」


 誰に言う出もなく、シワサギはこの村の未来を悟るのだった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ