精霊術師カノの誕生!
風の精霊の頷きを見て、歌音はグッと腹に力を入れ、風の精霊に手を伸ばして両手を広げた。
「我、精霊術士歌音が問う。汝の力、世界への礎にならんことを願い給う、叶え給う」
何度も唱え続けた詠唱の言葉だが、風の精霊はその言葉に応えることなく、むしろ拒むように身体を左右に振った。
『それはだめ、なまえをおしえて』
「え、名前って……?」
瞬きを繰り返す歌音に、シワサギの方がハッとなった。
「おまえ、そう言えば異界の民だったよな!」
「え、そ、そうですね」
異界の民という言葉には慣れないが、歌音も召喚された身。異界の民と言うことで相違はない。
シワサギは小さく舌打ちする。
「なるほどな、だから精霊と契約できなかったんだよ!」
「ど、どういうこと……」
「いいか、精霊は“この世界のマナ”を司ってるんだ。だから、精霊が契約できるのは同じマナを体内に持つこの世界の人間だけ。おまえは異界の民だから精霊たちはおまえとの契約を避けてたんだよ」
「そ、そうだったんだ。……じゃあ、この子はどうして私との契約を考えてくれたの?」
『それは、お前がユアルのブレスレットを持っているからだろう。ユアルは風の精霊ウィリダムと契約していた。故に風の精霊との相性が良いのだろう』
「カルロさん!」
いつの間にか隣に立つカルロイラに驚きの声を漏らす。
「風の精霊ウィリダムといえば、最上級クラスの精霊だよな。……スゲエな」
『フンッ、伊達に“英雄”の敬称を貰ってない』
少し得意げになるカルロイラに、シワサギは「あ~~、そうだった」と一人愚痴り、襲ってきた異界の民を一閃した。
「おい、ガキ! それなら俺が名前をくれてやる! 我、精霊術士シワサギが拝命す、精霊術士見習いカノに精霊術士の証を与えん。マナよ、世界よ、祝福をーーーー!」
シワサギが水の鎌を空高くに掲げると、金色の光りが歌音の周りに降り注ぎ、歌音の左腕に填めているブレスレットに刻印を刻んだ。
「これは……」
「これで、お前は精霊術士シワサギの最初で最後の弟子――カノだ」
「カノ……」
「精霊術士カノ、それ以外の名はない。さっさと風の精霊と契約して、後始末を手伝いやがれ!」
「はいっ!」
歌音――カノはもう一度、風の精霊に向き直り、両手を広げた。
「我、精霊術士カノが問う。汝の力、世界への礎にならんことを願い給う、叶え給え!」
身体全体が熱い。
まるで沸騰しているかのように、胸の奥から沸々と熱いものが流れ出てくる。今までと違う、風の精霊の形状が変わっていく。
渦巻き状の物体から、緑色の鳥の姿になっていく。
「風の精霊………あなたの名前は『フウ』。私に力を貸して」
フウは甲高い声で呼応し、空高くに飛来した。カノは片手を空に掲げると、風の力が集まり、シワサギの持つ武器と似た風の鎌を形成した。
横目で、カノの契約の様を見ていたシワサギは舌打ちする。
「武器まで同じにすんじゃねえよ」
「弟子なんだから、いいじゃないですか」
カノはシワサギの横に並び、鎌を振る。鎌なんて今まで使ったこともなかったのに、不思議と手に馴染む。
迫り来る異界の民に向かって鎌を振るうと、糸も簡単に真っ二つになり霧状に消滅していった。使いやすい。
重くもなく、まるで身体の一部のように動いてくれる。
身体も軽くなったようで、一歩踏み出すだけで軽く一メートルは進む。上から向かってくる異界の民をシワサギと二人で的確に討ち、上空では、カルロイラ、ミズノ、フウの三人が順調に異界の民を消滅させていった。