契約できません
歌音は夕飯時に、アフレにその事を相談してみた。
「ふーーん、精霊が反応を見せないねえ」
「何ででしょう。シショウにはあんなに懐いているのに、……ちょっとショックです」
「1日くらいでへこたれてるんじゃないよ。ここには何日だって居て良いんだから、成功するまで頑張りな!」
「……そう、ですよね。まだたったの一日目ですし、私、頑張ります!」
私は拳を握り意気込んだが、その数日後、私のやる気は急激に減少していた。ほぼ毎日のように詠唱を繰り返しても、精霊たちは応える素振りすら見せず、それどころかシワサギまでも来なくなってしまった。
一人で森の中にいるのは心細くて、シワサギの家まで言ったのに「精霊と契約できたら、来い。それまでは来るな」と門前払いされた。が、納得できるわけがない。
ドアを叩きまくって「シショウ!」を連呼していたら、ドアが少し拓き、顔面に精霊術士の教科書を叩き付けられて「うるさい、ガキ! 学びたかったらこれでも読んどけ!」と言われた。
最近、色々な人に顔面を叩かれているなあと思いながら、歌音は草の精霊のいる広場で、木に凭れながら教科書を開いた。
本の中身は宇宙語で、全く読めずにいると、どこからともなく現れた風の精霊が代読してくれた。
『せーれーは、けーやくしゃとこころをともにする。ゆうじんでありたにんでありりんじんである』
風の精霊の容姿は不思議なもので、白い渦状の形をしている。私が手を差し出すと、あっさりとその形状を崩し、別の場所にまた姿を現す。
「友人であり、他人であり、隣人かあ。何か難しいよね」
どこかの小説に載っていた一説みたいな文章に、歌音はお手上げ状態だ。
まずは友達になることから始めればいいのかと思ったが、人間の友達ですら少ない歌音に、人外の友達を作れと言うのはかなり難しい。
「しかも、友達の癖に他人って、意味分かんない」
指で文字を追うと、風の精霊が歌音の腕に絡みついたり、文章を指差す真似をする。
「草の精霊と契約を結ぶのって無理なのかなあ」
チラリと草の精霊の方を見ると、草の精霊は人の形に近い姿だ。顔はのっぺりとしているが、身体付きが女性らしくスレンダーで、風が吹くと口々に何か歌い出す。
歌音は地面に膝を付けたまま、草の精霊に声を掛けてみた。
「あの、草の精霊さん。私と契約してくれませんか?」
草の精霊は歌音の言葉が分かったのだろう。互いに顔を見合わせた後、何か囁き一人が歌音の元へ歩き出してくれた。
(まさか、願いが通じた!)
感動で胸が熱くなると同時に、顔の一点も熱くなった。思いっきり叩かれたのだ。
「ノオオォォ~~~~~」
草で叩かれると地味に痛い。両手で鼻頭を押さえていると、草の精霊は楽しげに笑っている。仲良くなれそうな脈が一切ない。
痛みに悶えながら歌音はしみじみ思った。