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アルシオ -アリス編ー  作者: 75
第一章 継承者
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その少年、アルシオ


「アルシオ!アルシオ、起きなさい!」

「んー…」


 母親の声により、夢の中にいた意識がどんどん現実に引き寄せられる。

 アルシオと呼ばれた少年は、まだ重い(まぶた)をゆっくりと開けると、優しく起こす母ジルの姿が目に映った。


「おはよう、アルシオ。早く顔を洗って、着替えておいで」

「おはよー…お母さん」


 ジルはアルシオの(ひたい)にちゅっと軽くキスをした。

 まだ眠いアルシオは、目を(こす)りながらベッドの上から降り、洗面所に向かった。鏡を見ると、白に近い金髪はぼさぼさで、海のような青い目はまだ眠そうにしている。

 ばしゃばしゃと顔を洗うとすっきりして、部屋に着替えに戻った。


 普段着に着替えると、(わず)かに日の光が入り込むカーテンをシャッと両手で開ける。

 途端、朝の日の光がアルシオの体を包む。眩しくて目を細めながら窓も開けると、心地よい夏風がアルシオの頬を撫でた。空は曇り一つない青空が広がっている。


 澄んだ空には雨の気配など感じられず、アルシオは「何をして遊ぼうかな」と心を弾ませ、食卓へと向かった。


「お、起きたか。おはよう、アルシオ」

「おはよう、お父さん」


 お茶を飲んでいた父アランは、起きてきた息子に笑顔を見せた。

 父の姿をアルシオはじっと見つめる。元冒険者であったアランは、とても(たくま)しい 鍛えられた筋肉を持っている。そのため、力仕事が得意な父親は、よく村の住人達に頼られている。

 アルシオは、いつか父親のように頼れる男になりたいと思っていた。


「どうした?アルシオ」


 じっと見つめてくる息子の視線に気づき、アランは首を傾げた。


「僕も早くお父さんみたいに、筋肉ムキムキになりたい」


 息子の言葉に嬉しくなり、アランはますます笑顔になる。


「そうか。じゃあ、もっと剣の稽古を頑張って、もっと家の手伝いを頑張れば、すぐに父さんなんか追い越すぞ」

「本当?」

「ああ、本当だ」


 父親としての願望(主に家の手伝い)も混ぜながら、アランはアルシオの頭を撫でた。

 そんな父親の心の内など知らない六歳の少年は、疑うことなく目を輝かせ、「もっと剣の稽古とお手伝いを頑張ろう」と決意した。


「じゃあ、そのためにもしっかりと朝御飯を食べないとね」


 朝食の準備をしながら、父と息子の会話を聞いていたジルは、テーブルの上にパンやサラダを乗せたお皿を置きながら、にっこりと微笑んだ。


 母親であるジルは料理上手で、いつもおいしい食事を用意してくれる。小柄で、いつも茶色の長い髪を緩い一つの三つ編みにして、顔の横側に垂らしている。そんな優しくおっとりした雰囲気を持つジルも、かつてはアランと共に行動する、冒険者だったらしい。

 しかし、普段からあまり怒らない優しいジルを見ると、アルシオは「本当に冒険者だったのだろうか?」と半信半疑であった。



☆☆☆☆☆



「よっこいしょっと」


 アルシオは抱えていた(わら)の束を置き、一息つく。

 大人にとって藁一束はそれほど重いものでもないが、六歳の小さな子供が持つとなかなか大変である。


「疲れたか?アルシオ」


 畑用の土を農作業用の荷台に入れながら、アランはアルシオを気遣った。


「ううん、まだ疲れてないよ」


 本当は少し疲れていたが、「疲れた」と言うのは体力が無いと言っているみたいで、アルシオはつい見栄を張った。


「そうか、アルシオはすごいな。でも父さんはちょっと疲れたから、少し休まないか?」

「…仕方ないなー」


 アランとアルシオは、並んで丸太に腰を掛けた。

 アランが汗を拭いている間、アルシオの目には父親の腰にある短剣が目に入った。


「作業のとき、邪魔じゃないの?」

「ん?…ああ、これか?」


 アルシオの指を()す方に目を向けると、アランは短剣のことを言われていることに気づき、(さや)に入れたままの短剣を膝の上に置いた。


「これは父さんの父さん…アルシオのお祖父(じい)ちゃんから誕生日にもらったもので、お父さんの一番大切なものだからな。身に着けておかないと、何だか落ち着かないんだ」

「僕のお守りみたいなもの?」

「…そうだな」


 アルシオにはいつも身に着けているお守りがあった。

 ピンク色の石がついたペンダントで、石には紺色のインクのようなもので、何か模様が描かれていた。

 物心ついたときから、「これはお守りだから、いつも身に着けておくように」と両親から毎日のように言われている。

 アルシオとしてはどういうお守りかは分からなかったが、ピンク色の石がとても綺麗なため、お気に入りとして毎日身に着けていた。


「僕もお父さんと同じ短剣がほしい」


 父がいつも帯刀している短剣はとてもかっこよく、アルシオも幼いながらも男として自分の剣を持つことに憧れた。

 きらきらと目を輝かせて短剣を見つめる息子の姿に、アランは微笑ましくなる。


「じゃあ、アルシオが今よりもっと大きくなって、もっと立派な男になったら、お父さんのこの短剣をやろう」

「本当っ!?」


 アランの嬉しい申し出に、アルシオは食い気味に尋ねた。


「お祖父ちゃんも(ひい)お祖父ちゃんからもらったみたいだからな。もしこの短剣がアルシオのものになったら、アルシオも自分の子供に渡してやれ」

「うん!分かった!約束する!」

「ああ、男の約束だ」


 アランは嬉しそうに返事をするアルシオの頭を撫でた。


「アルー!手伝い終わったー?」

「一緒に遊ぼー!」


 少し遠くで、近所の友達数人がアルシオに向かって手を振っていた。


「アルシオ。ここはもういいから、遊んで来い」


 アランはアルシオの背中を軽く叩いて、早く行くように(うなが)した。

 父親の言葉にアルシオは目を輝かせた。


「うん!行ってくる!」

「遅くならないようにな」


 アルシオは急いで友達の元に駆け寄り、アランはそんな息子の姿を見送ってから仕事に戻った。




☆☆☆☆☆




「お父さん、お母さん、おやすみなさい」

「おやすみ、アルシオ」

「おやすみ」


 ジルが朝起きたときと同じように、アルシオの額に軽くキスをし、アランはアルシオの頭を撫でた。

 アルシオは欠伸(あくび)をしながら、ベッドに(もぐ)る。


(今日のこと、()()()にも話さないとな…)


 目を閉じると、アルシオは(またた)()に夢の世界へと旅立った。


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