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アルシオ -アリス編ー  作者: 75
プロローグ
1/4

全ての始まり


 その日の夜は、とても静かで美しい夜であった。

 夜空を飾る下弦の月と星は、ただただ静かに煌めき、闇色に染まった森に薄っすらと光を落としていた。


 美しき月の光は、森の中に(たたず)む城の暗い回廊にまで注ぎ込む。

 その回廊に三人の男女が慌ただしく走っていた。


 先導を走っているのは若い男。白い髪に赤い目とそれだけで目立つ容姿をしていたが、一番目立っていたのは男の頭の上には白い兎の耳が生えていた。


 そして、その男の後ろを二人の女が必死についていく。

 一人は、艶やかな黒髪に意志の強そうな黒目をした美しい女性(ひと)。もう一人は、月の光できらきらと輝く金髪に澄んだ青い目をした可憐な女性(ひと)であった。


 男はある扉を開け、二人の女を先に中に入るよう促した。

 外を警戒しながら最後に男が部屋に入る。室内は窓もなく暗いため、男は魔法で手の平から小さな火を(とも)した。男を中心に少し明るくなった室内は、本棚が並び、書庫のようなところであった。


「ここまで来れば、しばらく追っ手は来ないでしょう」


 男は二人の女を気遣いながら、部屋の奥へ足を進める。


「どうしてこんなことに…」


 金髪の女は悲し気に顔を俯かせる。

 男も拳を握り、悔しそうに顔を俯かせた。


「……」


 黒髪の女は、顔を俯かせる二人をじっと見つめる。

 その顔は無表情ではあったが、どこか逡巡(しゅんじゅん)しているようにも思えた。


 そしてしばらくすると、黒髪の女は扉の方に目を向け、そちらに足を動かした。

 それを見た金髪の女が、慌てて黒髪の女の腕を両手で掴む。


「先生っ!一体どこに向かおうとしているのです!?」


 先生と呼ばれた黒髪の女は、視線を金髪の女に移す。


「…この手を離しなさい」


 黒髪の女は質問には答えず、手を離すよう静かに促す。

 

「嫌です!離したら、貴方は行ってしまうのでしょう?」


 金髪の女は、黒髪の女の腕を更に強く握った。

 どこに行くか聞いたものの、金髪の女には、黒髪の女が向かう先を分かっているようだった。


(わたくし)からもお願いいたします。どうかお考え直しください」


 男も黒髪の女に部屋から出ないよう懇願(こんがん)する。


「…わかった」

「先生…」


 黒髪の女が思い留まってくれたことに安心して、金髪の女が掴んでいた手を(ゆる)めたときだった。



 ドンツ!!



「きゃっ…!」


 黒髪の女は突然、金髪の女を突き飛ばした。

 金髪の女は小さく悲鳴を上げてよろめいたが、男がすかさず女を支えたため、女が転倒することはなかった。


 黒髪の女は、倒れかけた金髪の女に目もくれず、扉へと向かった。


「先生!お願い、行かないでください!行ってしまえば、貴方は殺されてしまう!!」


 男の腕から離れ、金髪の女は黒髪の女を必死に引き留めようとする。

 黒髪の女は金髪の女に背を向けたまま、静かに口を開いた。


「最後に其方(そなた)に言っておこう」


 黒髪の女はくるりと金髪の女に向き直った。

 そして、有無を言わさず声で金髪の女に告げた。


其方(そなた)は破門だ。もう(わたくし)の弟子ではない。私の(もと)にいる必要もない。もう…」


 黒髪の女はきゅっと口を(つぐ)み、そしてゆっくりと口を開いた。


「…私と共に、逃げる必要もない」


 金髪の女は、自分が何を言われたのか、すぐに理解できなかった。

 黒髪の女は、また扉の方に体を向き直す。


(これで、いいのだ)


 黒髪の女は自分に言い聞かせ、足を踏み出そうとした。


 パアッ…!


「なっ…!これは!?」


 突如黒髪の女の足元に、大きな魔法陣が展開して光り出した。

 突然のことに黒髪の女は驚き、振り返った。

 振り向いた先には、先程破門を(くだ)した金髪の女が両手をこちらに突き出し、ぶつぶつと何かを唱えている。


 男はハッとして、金髪の女の詠唱をやめさせようと動く。

 しかし、金髪の女が男を一瞥(いちべつ)すると、男の体は金縛りにあったかのように動けなくなった。


「この魔法陣は…まさか!!」


 黒髪の女は慌てて、詠唱を阻止しようと金髪の女に手を伸ばした。

 しかし、その手が魔法陣から出ようとすると、魔法陣が一瞬強く光り、黒髪の女の手を(はじ)いた。


「くっ……!」


 まるでここから出ることを許さないかのように、魔法陣の外側の陣が光り、見えない壁が黒髪の女を囲う。


「やめろ!其方…一体何をするつもりだ!?」


 金髪の女が詠唱を止める。そして、再度口を開いた。


「先生…ごめんね。やっぱり、私は先生を彼の元に行かせることはできない」


 金髪の女は淡々と言葉を紡ぐ。


「こんな方法でしか、先生を助ける(すべ)が思いつかない」


 魔法陣の光がだんだんと強くなっていく。

 光が強くなるのを見て、黒髪の女は焦って光の壁を叩いた。


「やめろ!私のことなど助けなくていい!この(じゅつ)を使えば、其方は…!」


 その言葉を聞き、金髪の女は微笑む。


「今までありがとう、先生。そして…



 …さようなら」



 金髪の女が別れを告げた途端、魔法陣が一際強く輝き、光が黒い女を飲み込もうとする。


 黒髪の女は、必死に金髪の女に手を伸ばす。



「アリス!!」



 伸ばした手は掴むことができず、黒髪の女はそのまま光に飲み込まれた。




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