第六話 お義姉様の悪巧み
七話と分けたのでかなり短い上に中途半端です。すみません。
明日にもう一話投稿しますので。
・ハルカ視点
リマがドナドナされるのを見届けた後、俺はとある宿を訪れていた。
王都の端の端、と言っても北の貴族街でも南のスラム街でも東の正門付近の商店街でもない、西の一番個性のない平民街のなんの変哲も無い宿屋。
こんな場所だからこそ、秘密組織のような人間は潜伏しやすい。
いつもの合言葉を店主に告げて目的の人物の部屋へ案内してもらう。
その部屋の扉にノックを敢えて五回叩く。すると一人でに扉が開く。が、まだ入らない。そのまま待つ事十秒ほど。突如、部屋から途轍も無い勢いで何かが飛び出して来た。
「おっとうっっとくぅーーーん!!!」
即座に神聖術の障壁を目の前に展開する。
「ぷゴアッ!」
飛来した何かは眼前に形成された障壁に激突し、奇妙な悲鳴を上げながら撃墜された。
「腕を……上げたね……義弟……く……ん……」
「喧しい」
飛来物の正体である深緑色をした髪の少女は、度し難いノリを展開してカクリと事切れた。
◇
「いやあ悪かったね。ボクとした事がハシャぎ過ぎた。
とはいえ、誰にも何も告げる事なくどこぞへと行ってしまった義弟に久しぶりに会えたんだ。
そんな哀れなこのボクに、ハグくらい受容してくれたって良いんだぜ?」
宿の部屋の中、テーブルを机を挟んで紅茶を啜りながら、義姉貴はパチリとウィンクを決めた。
「……嫌味か」
「そうだね、嫌味だ。でも、これぐらいは許して欲しいな。
君が重症を負ったと聞いてお見舞いに行ったのに病室がもぬけの殻だったあの時の私はもっと嫌な思いを味わった」
「……ハア。分かったよ。悪かった。
エイナさんの事だから俺に言う前に話してるもんだと思ってたんだ」
降参だとばかりに俺は頭を下げた。
一年前、序列二位の話を承諾した俺は入院を中断して直ぐに王都へ向かった。
中断、といっても入院の方はあくまで万全を期して続けていたものだった為あまり問題はなかったのだ。
問題は、他のメンバーがほとんど誰も俺の動向を知らなかった事。
エイナさんが事前にあんな説明をしてるもんだから俺を知る他のメンバーにはもう話が行っているものとばかり思っていたのだ。
半年後にヒュノが学院まで追いかけて来た時に初めて聞いた。知り合いから行方不明扱いされている、と。
さてそれで、今目の前に居る少女(と言っても俺より三つ上なのだが)、俺の義姉である『ラル・エメドナ・ウィルノート』も当時随分慌てたらしい。
序列八位の彼女は、迷宮探索メンバーの指揮の任務から帰還した後、俺が大怪我をしたと聞いて、と言ってもその時はもう殆ど完治していたんだが、お見舞いに直ぐさまとんで来たらしい。
エイナさんは俺が王都へ向かった後直ぐに自分の任務にあの支部を離れたそうで、誰も事情を知る者が居なかった所為で一ヶ月程真剣に捜索したんだとか。
明らかにエイナさんの所為なのだが、俺も悪い。
この監視の任務が俺でなくとも可能で、彼女の説明に凄まじいまでの矛盾があったとしても、俺が一声誰かに言っておけばよかった。
「とは言え、なんでそんなに探したんだ?
病院もちゃんと手続き踏んで出て行ったし、本部にも任務の記録が残ってる筈だ。
騒動になる訳がわからないんだが」
序列五位なら「どうせどっかで元気に死にかけてるんだろ」とか言って気にもしない事だろう。
確かに黒星もそこそこ……かなりあるが、それなりに生き汚いって自負はあるし、俺が一人で居ようともそこまで心配される覚えはない。
そう指摘すると、義姉貴は何やら慌てだした。
「いやほら、その、アレだ。
あんな大仕事の直ぐ後に新しい任務があるだなんて思わなかったんだ。
私の方もしばらく休暇だったから、二人でウィルノート家に帰れるかなーとか思ってたのに……」
「俺あのお義父さんに嫌われてるっぽいからあんま帰りたくないんだけど……っていうか慌てる理由になってなくないか?」
「……!
さて、この話はもう良いだろう。それより勇者召喚の話だ」
露骨に話を逸らしたな。
まあ、そっちが本題だから良いけど。
「それにしても珍しいね。
ハルカが自分から厄介事に首を突っ込むなんて」
「親友が巻き込まれてるからな。
一人じゃどうにも出来ないみたいだし仕方ない」
「ネムの事だね。
こちらとしてはあの私欲の権化供を全部粛清して彼女を女王に立てた方が早いと思うんだが」
「確かにそうだが、クァードやテオとガチで戦うのはキツイ。だから今の所は穏便に行こう。
どうせその為の策があるんだろ?」
「勿論だとも。
城の人間を全て出し抜いて見せようじゃないか」
ニヤリと笑って、義姉貴は得意げに頷いた。
深夜に書いたので前回の後書きとか滅茶苦茶に間違ってましたすいません。ちゃんと改稿しました。