第三話 入学までの経緯と学院長せんせー
今回は短いですが、このペースで行きたいと思います。
……作者の文章力で纏めきることが出来たらの話ですが……。
一年ほど前の事。
秘密組織【秩序の鎖】のメンバーであるハルカはある日唐突に支部に呼び出されていた。
前回の任務を数週間前、それもかなりの大仕事を達成したばかりだ。まだ治りきっていない怪我も残っている。
だと言うのに呼ばれた用件は、やはり次の任務についてだった。一ヶ月と間を空けずに新たな任務を与えられると言うだけならばまだ何度かあったので不思議はなかった。
ハルカが驚いたのは、その内容だ。
「学院に、通え?」
支部に行くと、短く、たったそれだけ告げられた。
一度聞いただけでその指令の意味が理解出来ず、つい鸚鵡返しをしてしまった。
目の前の女性、組織においてハルカの上司であるエイナ・アイゼノトスはハルカの面食らった表情を眺めてひとしきり愉快そうに笑った後その問いに対して首肯し、説明を始めた。
「そうだ。 と言っても勿論それだけじゃない。
学院に所属している生徒のとある人物を監視して欲しい。 本来なら捜査班の仕事なんだが、なにぶん若い奴が居ない」
「教師として送れば良いじゃないか」
「それだと動き難くて任務に支障が出るんだ」
捜査班は任務が与えられるようになるまで何年もの訓練が必要とし、単独で仕事をこなそうと思えば更に数年実戦を経験した者でないといけない。
あくまでも決まりなのだが、今回それが災いして学生として潜入出来る年齢の者が居ないのだ。
「で、戦闘班に白羽の矢が立った訳だ。
……今度は潜入任務か。アレの後に長期任務とか、マジで言ってんのか……」
「その『アレ』についてはすまなかったね。
けれど、今回はそんなに大変じゃないと思うよ?
学費は経費から出るし、実質無料で寮暮らしだ。むしろ休暇と思ってくれて良い」
女性曰く戦闘の可能性が限りなく低い安全な仕事らしい。教えている魔術はお遊戯みたいな物だが、気楽に学院生活を楽しんでこいとの事。
「アンタ以外にも年齢だけなら条件をクリアしてる奴も結構居るんだが……その、分かるだろう?」
「……ヒュノは?」
「今は別件で動いていて入学試験には間に合わない」
「じゃあ他に…………………………無理だな」
「わかってくれて嬉しいよ」
三十秒程考え込んでみるも、この件を任せられそうな者は思い浮かばなかった。
ハルカの所属する戦闘班には、序列しかり、評価の基準が純粋な戦闘能力の高さだ。
その為捜査班と違って単独任務を与えられるプロの中にも何人かハルカと同じ年の者が居る。
だが、その殆どが性格に難があり過ぎるのだ。
例えば序列がハルカの一つ下、十一位のとある人物に任せてみるとしよう。
持ち前のマイペースを発揮して本人の意思の有無に関わらず、何かしら騒動を起こし、間違いなく目立ってしまうだろう。容易くその光景が目に浮かぶ。
他にも、趣味に走って任務を後回しにしそうだったり、要らぬ喧嘩を買って最悪学院の建物を全壊させかねなかったりと致命的な問題を抱えた者ばかりで、任せられそうな者と言えばハルカを除いてあとたった一人しか居ないのだ。
そしてそんな彼女も別の任務で戻ってこれない。
「……」
「……」
完全に他の選択肢が無かった。
少なくとも、この時には思い浮かばなかった。
「……わかった。そんなに大変じゃないみたいだし」
結局、ハルカは渋々と頷いた。
そんなこんなで無事学院に入学し、他の生徒から嫌がらせを受けながら学院生活を送っているハルカは現在ーー
「どうしよう……」
ーー途方に暮れていた。
傍らで白目を剥いて気を失っている男を見て、もう何度目かも分からないため息をつく。
魔族は、人間より強い。
もちろん魔族より強い人間も居ると言えば居るし、碌に魔術も扱えない兵士十数人程度を相手にしただけで敗れる様な魔族も居ない訳ではない。
だが、基本的に、一般の認識として、殆どの場合、当たり前のように魔族は人間では敵わないし、学生の拳一発で倒せるような存在でもない。
つまり何が言いたいかというと、このまま魔族を縛って連れ帰れば余計な注目を浴びる事になってしまう。
例えこの魔族が想定より何段も弱かったとしても、自分が魔族を倒したという風評に偽りがない以上目立つ事に変わりはないのだ。
立場上、それだけは是が非でも避けたかった。
「放置するって手もあるんだが、シャアラが知ってる以上『何も無かった』じゃ通じないしなあ……」
シャアラ一人を逃してバレないように魔族を倒したのは良かった。
後はシャアラが助けに呼んだ学院長に誤魔化してもらうだけなのだが、どう説明するにしても怪我一つ負っていないのは不自然だ。
「魔族が間抜けで、かくれんぼが下手くそだった。
よし、これで行こう」
「行けませんよ」
やけくそになって出した結論は、背後からの声に即座に否定された。
凛とした、鈴の音にも似た高い、綺麗な声だった。
振り返ると、そこに居たのはハルカより頭一つ以上は背の低い少女。
白銀に輝く髪と瞳。
異常な程に整った顔ばせ。
長さは子供のそれと変わらないのにスラリと伸びて見える艶やかな肢体。
その完成された美しさは、本人の無表情も相まって、さながら神様の作った人形。そんな表現に見合うだけの容貌をした少女がそこに佇んでいた。
「……いつから居たの?」
「では問題です。
私はいつからあなたの後ろに居たでしょう?」
ハルカの問いに、あえて問いで返す少女。
その情動が分かりにくい顔に、うっすらと笑みが浮かんだ。
「そうだな……性格の悪さから考えて結界が解ける前だろうと言うのは分かる。
……もしかしてシャアラが学院に向かう前か?」
「ぶっぶー。
正解は『あなた達が山に入る前から』でした」
「くっそ性格の悪さを計り違えた!
って何着いて来てんだよストーカーじゃねえか!!!」
「良いノリツッコミです。 先生六十点与えちゃいます」
隣で魔族が倒れているこの状況に似つかわしくないやり取りが二人の間で交わされる。少女の相手に意図せず怜悧な印象を与える特殊な雰囲気はそこに無く、まるで旧知の友人同士のものの様に親しげで、和やかさだけがただただあった。
「さて、それは良いとして」
「おい、誤魔化せてないからな。
ストーキングについて弁明があるなら聞いてやるから早くしろ」
半眼で睨むハルカの訴え。しかし少女は何食わぬ顔で無視を決め込むと、どこまでも自分のペースで話し始めた。
「まず提案ですが」
「話を聞……」
「今回の件について、私がなんとかした事にしちゃいましょう」
「……!」
ハルカの叫びが、ピタリと止んだ。
少女が話し始めたのは、先程ハルカが散々悩んでいたこの魔族の件についてだ。
「私は偶々この山にとある用件で赴いていました。
その時、なんと山が結界で覆われてしまいます」
「……続けろ」
その話はハルカにとって無視できる内容で無かった為、いくつも浮かんだ文句を呑み込み、続きを促す。
その表情には変わらず不満が浮かんでいたが、少女は本人の要望通り無視を貫き通し、説明を続ける。
「怪しい魔力を感知して探してみれば、そこには魔族に襲われ震える生徒」
「ちょっと待て」
「その生徒に魔術が放たれようとしたその瞬間、私は生徒の前に割って入りその魔術を防ぐと、すぐにその魔族を吹き飛ばしてしまいましたとさ。
どうです? 良い出来でしょう?」
これならば一切の文句なく誤魔化せる筈だと胸を張る少女。
一部納得できない部分があったものの、そこへ湧き上がった個人的感情さえ無視すればハルカも素晴らしいと思えた。
「ふざけるな。完璧だよチクショウめ」
「あ、あの? ならば何故私の頭が掴まれ……痛い!
めり込んでます! めり込んでますってば!」
「魔族に襲われている生徒のところ、改変すべきだと思うんだ。 そうだな……その生徒は魔族から逃げようと懸命に山道を駆け回っていた事にしよう」
「却下します。 あ、待って分かりました手を放してから検討しましょう。 痛い、痛いですってば!
割れるっ軋んでるっ潰れるからぁあああ!!」
山の中に悲痛な少女の叫びがいくつも木霊した。
「………じゃあ、俺の希望通り生徒は逃げる途中だったって事で良いな?」
「女の子に対する扱いじゃないと思うんですよ。
私これでも学院長なんですよ?もっと敬意とかですね……」
返事がない。
そちらを見やると、少女痛そうに頭を抑えて蹲り、何やらグチグチと文句を吐き続けていた。
「良・い・よ・な!!?」
「分かりました!」
手をコキコキと鳴らしながらもう一度聞くと、少女、否、王立魔術学院長ヒュノ・シェルヴィーアはシャキッと背筋を伸ばして元気良く同意を示した。
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