お、も、て、な、し・・・し、た、く、な、い・・・
『陛下、わざわざ御運び頂けますとは━━』
最敬礼をもって出迎えるアスタルに向けて、手をヒラヒラと振りながらニコリと笑顔を向ける【幼女】・・・
『あー、堅苦しい挨拶などよい・・・元気であったか?アスタル、ちゃん・・・ぷぷぷ・・・』
必死に笑いを堪え・・・られていない【幼女】の姿に、僅かに肩を震わせたものの、冷静に無表情を保ち、顔を上げるアスタル。
『陛下、ご案内致します。こちらへどうぞ━━』
無機質な声で【幼女】を食堂へと導くアスタル。【幼女】を着席させると、一礼して、
『突然の御運び故に、愚兄が陛下をお待たせ致しますご無礼をお許しくださいませ・・・間もなく━━』
その言葉が終わらないうちに・・・
『いきなりどうしちゃったのよォ〜?ビックリしちゃうじゃない、るーしぃってばぁ・・・』
正装と思われるドレス姿のアモーネが姿を見せた。
『まあ、気紛れというヤツじゃな。しかし・・・その姿、相変わらず見事としか言いようのないオカマっぷりではないか?ふふっ』
この上なく楽しげな、鈴を転がしたような声で茶化す【幼女】・・・
アモーネは特に気を悪くする様子もなく、
『久しぶりなんだから御粧しくらいはするわよ〜♡最後に会ったのは聖魔戦争の時だったかしら〜?』
相手は、仮にも・・・いや、正しく【魔王】なのだが、全く動じることも謙ることも無いアモーネの口調も、【幼女】は意に介さない様だ。
『ならば、かれこれ2000年くらいは経つか?ここまで永くやり通せばオカマっぷりも板につくわけじゃな〜』
一見すると、ただの【悪魔】同士の軽い挨拶に見えるだろう。しかし、既に二人の間には何者の目にも映らぬレベルでの"意思"のせめぎあいが起きていた。
━━━何しに来たのよ、この【幼女】・・・
━━━全く、【天使】共と何を企てておる、このオカマめ・・・
『まあ、今日出向いたのは他でもない。何やら面白そうな【契約者】を手に入れた、と噂に聞いての・・・退屈しのぎに見に来てやったというわけじゃ』
そう、【幼女】としては、平和で平凡なのでやって来たという設定で。
『わざわざ見に来るほどの【契約者】でも無いんだけどね〜?』
そして、【悪魔貴族】としては、隠すつもりは無いけれど、詳細を伝えるつもりは無い、という雰囲気で。
勿論、お互いに本音など見せる訳もなく。
『【契約者】は只今、此方に居りません。今暫くお待ちいただく事になるかと存じますが━━』
そして、【悪魔執事】としては、大した存在では無いのだからさっさと帰れ、という口調で。
『おお、そうかそうか・・・ならば待たせてもらうとしようか・・・オカマと積もる話もあるからの』
そう言って、アスタルをチラリと見る【幼女】━━
アスタルは小さく肩を竦めるようにして、
『承知いたしております、間もなく準備も整いますので━━』
その言葉が終わるか終わらないかのタイミングで使役魔、パルが食堂に入ってきてアフタヌーンティーの支度を手早く済ませる。
『ほほう、コレは見たことの無い茶だな。人間界の紅茶なのか?』
お茶の香りに目を細める【幼女】。パルがそっと一言添える。
『人間界の茶のひとつ、"ジャスミン茶"でございます。陛下のお口汚しになるかと存じますが、一度ご賞味下さいませ』
カップを口に運び、無造作に一口飲み、【幼女】の口許が綻ぶ。
『中々のモノじゃな、余はこのような茶、嫌いでは無いぞ・・・』
これはかなりの高評価といえる。『悪くは無い』と言えばまずまず。『好きにはなれんな・・・』と言われれば論外。『嫌いでは無いぞ』とは、かなり気に入っている事を示していた。
『気に入ってもらえて何よりね・・・パル、お代わりを』
アモーネの言葉が出るか出ないかのうちに、【幼女】のカップは再び満たされていた。
『ふむ、見事じゃな。ウチの人影共にも見習わせたい位じゃぞ』
━━そんなこんな感じでのやり取りが進んでいる頃、真琴達はというと━━
「文香、パフェ行こうよ!」
「お姉ちゃんとなら何処でも行くー!」
「あ!ウチも行きます〜」
3人のお気楽者達は、寄り道なんて事をしていたりなんかしちゃったりしていた━━




