アスタルさんの密かなボヤき
━━皆様、突然のご無礼をお許し下さいませ。
私は、小鳥遊 文香様と"契約"させて頂いております【悪魔】でございます。
アスタル、とでもお呼び下さいませ。
【悪魔】は、魂の提供者たる人間と"契約"を結び、その『願い』を叶える代償として、その者の魂を死後に貰い受ける事を生業と致しております…
多くの者は、欲望に忠実であり、様々な『願望』を【悪魔】にお求めになられます。
時には、やれ『世界を牛耳る為の能力を寄越せ』だの、『全ての異性を自分だけのものにしたい』だのと、実に下らない……コホン、長期的、かつ壮大な『願望』をお求めになる事もございます。
勿論、その様な"ご契約"ですと、アフターサービスも出来うる限りさせて頂いております。それなのに、どういう訳か『願望』を達成されない内に"死期"をお迎えになられる者ばかり…全く、人間と云う下等生物は……
コホン、失礼致しました。その様な中で、文香様の『願望』は、非常に珍しい事案でございました。
それは、『お兄様をお姉様に変えて欲しい』というとても【悪魔】に魂を提供する代価とは思えない内容だったのでございます。
しかも、文香様の魂は、【悪魔】にとりまして、非常に高い水準の魔力の源となり得る素材でございました。
更には、その『願望』の対象となる文香様のお兄様もまた、文香様と同等、若しくはそれ以上の魂をお持ちになっておられたのです。そこで、私は不肖の愚兄にその事実を伝え、文香様のお兄様との"契約"を勧めた次第でございます。
しかし、まさか我が愚兄があの様な"契約"を結ぶとは…
しかも、何処から嗅ぎつけたのか、我らが天敵の【天使】共に気づかれてしまうとは、致命的ともなり得る事態になってしまったのでございます。
確かに、【悪魔】は何時でも【天使】共や【神】を殲滅する事を視野に入れております。ですが、今はまだその時ではございません。
とりあえずは傍観しようとしておりましたが、まさかあれほどに早く【天使】共が接触してくるとは想定外でございました…
ですから、お二人を監視する為に我々の拠点に移って頂いたわけでございますが、いつの間にか【天使】共まで住み着くとは…
更には我が愚兄が【天使】とじゃれ合う始末━━
恐らくは、【天使】を油断させる為の策略、であるとは思われますが…
どうも今回の"契約"は通常の様には立ち行かぬ様でございますね…
ですが、数百年ぶりに、楽しめそうな予感も感じております。
ああ、もうこのようなお時間ですか…長々とご無礼を申し上げました。何卒ご容赦のほどを…それでは、私は業務に戻らせて頂きます。
━━━………
くそ忌々しい【天使】共め、いずれ貴様らの喉元にこの牙を突き立ててくれるとしよう…それまでせいぜいはしゃいでいるといい━━
今回は、出番の少ないアスタルさんに思う存分語って頂きました。まあ、いつもと違う雰囲気ですが、ご容赦下さいませ。




