エコーリアの街
「あ、あの!」
真っ白な髪をした美少女が幌付き馬車の後ろから顔を出した。
「ちょっとフィーアちゃん馬車から顔を出したら危ないからダメって言ってるでしょう!」
クリスが顔を出した少女フィーアに注意するが、俺はその少女に見惚れていた。
「ごめんなさい。クリスさん。で、でもわたし街に着くまでに確認したくて!」
「確認?」
一体何を確認するのか気になったら声に出てしまった。
「全く、しょうがないわねぇ。フィーア、話しておくから馬車の中に入っていなさい。」
「は、はい!」
クリスが何かを諦めるとフィーアは馬車の中へ戻っていった。
「ここから話す内容で、もしも貴方の意に沿わない場合は忘れてちょうだい。」
そう言うと、クリスは語りだす。
「フィーアはね、とある村の生き残りなの。1人生き残って彷徨っていたところをワタシが拾ったのよ。」
成程、フィーアが奴隷として連れられているのはクリスに拾われたからってことか。奴隷商が奴隷を仕入れるのは当たり前だし、仕入れ方は色々あるだろう。それこそ1人彷徨っている少女なんて恰好の餌食だろう。
「でもね、ワタシは基本的に軽犯罪を犯して奴隷になった子たちを扱っているのよ。だから1人彷徨いている少女なんて、扱いに困っちゃうのよ。ワタシに対する評価も変わっちゃうしねぇ。」
軽犯罪を犯した犯罪奴隷を扱っている奴隷商が急に道で拾った少女を奴隷として売り始めたら確かに評価が変わるだろうな。
「それでね、あの子にどうしたいか聞いたのよ。そしたら、村を滅ぼした魔物を討伐してくれそうな人なら誰でも良い。何て言ったのよ。」
「それはつまり、それがどんな鬼畜な奴でもその魔物を殺せそうな実力があればあの子を手に入れられるってことだよな。そんな頭のおかしい条件本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫だとは思わないわ。それに、討伐対象の魔物もそこまで強くないのよ。それこそDクラスの冒険者なら簡単に討伐出来るわ。」
Dクラスの冒険者で倒せるのがどれ位なのかわからないが、クリス的には大したことがないらし。言ってる人が化物だからよくわからないんだけどね。
「それで、なんで俺に声をかけてきたんだ。」
「多分、ゴブリンを瞬殺したのを見て貴方ならその魔物を討伐出来ると思ったのよ。」
「その魔物がどんなやつなのかわからないけど、大したことないなら倒せなくはないと思うけど…」
「その魔物はね、ブラッドウルフって言うのよ。知ってる?」
《ブラッドウルフは体長約5mの狼です。ハウンドウルフの進化個体でハウンドウルフの群れを統率していることが多い魔物です。種属の固有スキルとして操血術を持っています。通常Cランク冒険者複数チームでの討伐対象となります。》
おい化物どこがDランクで倒せる魔物だよ嘘つくなよ。思いっきり強いじゃん!しかも群れかよ。でも、倒せばフィーアを手に入れられるのか…。
「ブラッドウルフは相当強いだろ。どれだけ少なく見てもCランクだ。それをDランクなんて嘘は良くないぜクリス。」
「うふふ。フィーア目的にブラッドウルフなんて余裕だなんて言われたら絶対渡さないつもりよ。」
つまり試していたってことか。そりゃそうだよな、実力の分からない魔物を余裕で倒せるなんて言うやつの実力なんて信じるわけがない。
「そ・れ・に、貴方ブラッドウルフと聞いて少し表情を変えただけで恐怖心や打算なんかも表に出てこなかったわ。」
「俺が一流の詐欺師だったらどうするんだよ。」
「その時はワタシの見る目がなかったってことよ。それで、フィーアの依頼受けてくれるかしら?」
「勿論。あんな美少女が手に入るなら魔物討伐くらい気合入れてやっちゃうよ。」
「そう言ってもらえると助かるわ~。それじゃあ、街に行ったらフィーアとの契約しちゃいましょうか。」
「いや、俺金無いからいきなり奴隷とか買えないぞ。」
「さっき助けてもらったお礼と護衛代だと思ってちょうだい。それに、さっきも言ったけどフィーアは商品として扱えないから値段もつけられないのよ。」
「成程な。ただ、今も言ったが俺は一文無しだ。フィーアを手に入れても生活するのに必要な物が一切ないからフィーアに不便させてしまう。」
先立つものがないうちに人数だけ増えても仕方ない。まずはある程度路銀が必要になってくる。
「それもそうねぇ。それじゃあこうしましょ。」
クリスが提案した内容は、エコーリアの街に着いたら冒険者登録をすること、10日以内にEランクまで上がること。2つの条件を達成した時に無償でフィーアとの契約を結ぶということだ。
「分かった、それで問題ない。Eランクまでいけばある程度はマシな稼ぎが出来るんだよな。」
「そうよ。Eランクなら2人の食いぶちと宿代くらいなら直ぐ稼げるわ。Dランクまでいけばかなり余裕ができると思うわよ。」
当面の目標が決まった。まずはEランク冒険者になることを目標としよう。
「期待して待っているわ。さて、そろそろエコーリアの街よ。」
クリスとの会話をしていたらいつの間にかエコーリアの街に着いていたようだ。
エコーリアの街はワンフォード王国の中でも交易都市として機能しているらしく、馬車の出入りが多い。ワンフォード王国では都市に入る際の税金は課せられない。街に入るのに金がかかるのを嫌がる商人が街に入らなくなるのを防ぐためらしい。
「それじゃあ馬車は一度ワタシのお店まで行くわね。その後冒険者ギルドまで行くといいわ。」
街の門を潜ってクリスの店まで向かう。クリスの店はエコーリアの街東部分にあった。エコーリアの街は全部で5つのエリアから構成されており、北エリアは一般階級の民家が多く並ぶ。東エリアは商業系の店舗が多く並ぶ。南エリアは市内農業エリアとなっている。西エリアは俗にいうスラム街だ。最後の中心エリアは貴族や大商人といったの上流階級が住むエリアとなっている。
冒険者ギルドは東エリア内にあり、クリスの店からもさほど離れていない。
「護衛はここまでね。助かったわありがとう。次はランクE冒険者になって訪れるのを楽しみにしているわ。」
「こっちこそ馬車に乗せてもらえて助かったよ、ありがと。」
そう言ってクリスと別れようとした時。
「あ、あの!」
馬車から降りてきたフィーアが声をかけてきた。
「また、いらしてくれるのをお待ちしております!」
そう言って頭を下げた。勢い良く頭を下げたため、美しい白い髪が宙を舞う。
「わかった。きっとまた来るよ。」
一言フィーアに挨拶をして冒険者ギルドへと向かう。クリスが「青春ねえ」とか言っていた気がするけど気のせいだ。
クリスに冒険者ギルドの場所を教えておいてもらったおかげで迷わずにたどり着くことができた。嘘です、少し迷いました。ナイありがとう。
冒険者ギルドに入り受付に声をかける。
「あの、冒険者の新規登録をお願いしたいんですけど。」
「新規登録の方ですね。畏まりました。こちらに名前を記入してください。」
そう言って規約みたいなことが色々書いてある紙とペンを差し出してくる受付嬢。紙に書いてある文字は見たことの無い文字だが読めた。異世界転生の不思議パワーだろう。そう思いながら名前を書くが不思議とこの世界の文字を書くことができた。うん、ファンタジー。
「ケイ様ですね。ありがとうございます。それではこちらのギルドカードに血を1滴垂らしてください。」
そう言って次は名刺サイズのカードと針を差し出してくる受付嬢さん。
言われるがままに指に針を刺し血をギルドカードに垂らすとギルドカードに文字が刻まれた。
【ケイ・人族・ランクF】
カードには簡単に俺の情報が表示されている。
「これで登録が完了となります。それでは、冒険者ギルドの説明をさせて頂きます。」
登録が完了すると、受付嬢さんが冒険者ギルドについて簡単に説明してくれた。
冒険者ギルドの依頼は自分と同ランクか1つ上のランクまで受注可能だがランクが下の依頼は受注不可である。依頼の中には指名依頼と言うものがあるが、受注は自由。
討伐系依頼はギルドカードが討伐した魔物の魔素を吸収し何を討伐したか判断している。魔法等による遠距離討伐でも魔素を吸収できるらしい。何故出来るかは不明らしい。
ギルドカードはデビットカードの様に使うことが出来る。これは大陸内の4国でも同様に使用可能でどこの店舗でも使うことが出来るとのこと。
最後に、ギルドカードは所有者以外使用することができない。使用する際微細な魔力を感知しているらしく、所有者が触れることで使用可能である。所有者が死亡した際は自動的に使用不可状態となるらしい。
「説明は以上となります。何か質問はございますか?」
「特に無いかな。早速依頼を見てみるよ。」
「承知しました。それでは活動頑張って下さい。」
受付嬢にお礼を言って依頼ボードへと歩きだす。
さあ、記念すべき初依頼はどんな依頼があるのかな。
はい、ということで1人目のヒロインフィーア登場です。
そして直ぐに退場です。
また出るので再登場までお待ち下さい。
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