竜王がやってきた
空にイグニスの姿が見えてから少しすると、街のほうが騒がしくなってきた。
「ねえご主人様、街にドラゴンがやってくるって普通に考えたら大混乱になると思うけど、街には伝えてるのよね?」
「昨日領主には伝えているし、ギルドマスターのハインツにも伝えているから大丈夫じゃないかな」
「領主は昨日息子が事件を起こしてそれどころではないと思うのだけど。あとギルドマスターも色々後処理で大変なんじゃないかしら?」
・・・そういえば領主であるフォード・レストホルンは昨日の事件で殆ど燃え尽きていた気がする。息子が裏組織に属していて姿をくらましたのだ。仕方あるまい。ギルドマスターであるハインツは昨日の後処理、俺達に対する報酬の準備それに王都のギルドに届ける手紙の作成がある。
竜王イグニスが街へやってくることを知っているアトシュを纏める二人が共にまともに動けない状況なのだ。
さて、重要案件が各所へ伝達されていないとどうなるであろうか。
「これ多分伝わってないから大混乱必須だな。下手すればイグニスに攻撃しかけるんじゃないかな」
「…街が無くならないといいわね。」
ユイとそんな会話をしていると、街の方から火の玉や水の玉が飛んでくるのが見えた。
まだやっと姿を捉えることができる程度の竜王に対して超遠距離から魔法による攻撃が始まったようだ。
「あの距離だと攻撃というより挑発だよなあ・・・」
ちまちま攻撃を当ててこっち来てくださいと言っているようにしか見えないんですがそれは。
「多分怖くなった新兵辺が打ったんだと思うわ。そもそも見た目レッドドラゴンなのに火の魔法打つ時点で慌ててるのがよく分かるわね」
そう、話している間にイグニスの距離が近づいており、今では体の形や色がある程度認識できる。肉眼でこれなのだから、望遠系のスキルを使えるものがいればより早く詳細な情報が行き渡っている可能性もある。
「今の魔法程度じゃイグニスがどうこうなるわけでもないし、直ぐに攻撃も止むだろう。領主かギルドマスターが伝えてくれる可能性もあるから、少し様子見しつつイグニスを待とうか。」
「イグニスさん怒らないですかねー」
「イグニスは短期じゃない。多分大丈夫」
「街が無くならないといいんですが・・・」
いつの間にか練習をやめたメンバー達が俺の近くに集まって来てアトシュの街を心配する。
イグニスを信じることしか今の俺達にはできない。赤い竜は直ぐそこに迫っている。
少しすると予想通り魔法による攻撃が止んだ。
『ケイよ、何故我は攻撃されたのだ?』
イグニスがすぐ近くに着地すると当然の質問をしてくる。
着地の際に風圧を抑えるのに失敗したのか強風が吹き付けクレハが転んだ。怪我してないよね?
「ん、大丈夫」
「クレハちゃんちょっと見せてくださいね。・・・うん、大丈夫そうですね」
どうやら怪我は無いようで一安心だ。
「おいイグニス、着地の時は気をつけてくれよ。皆が怪我をしたら大変じゃないか」
『うぬ。すまぬ』
分かればいい。次から気をつけてくれたまえ。
『我、一応竜王なんだが…』
竜王だろうが許しません。
「そうそう、攻撃の件だけど警備兵に連絡行ってなかったみたいだ。大した攻撃じゃなかったし問題ないだろ?」
『あの程度かすり傷にもなりはせぬが我の威厳が』
「威厳も何も、竜王を知っている人は殆ど居ないんだから無いだろう」
今まで存在を隠してきて何を言っていることやら。
『・・・竜王を世界に知らしめるいい機会か』
「それはお前一人の判断で決めていいのか?」
『ぬう・・・。勝手にやると水と光が煩そうだ』
とりあえず、勝手に変な行動をするのはやめてくれ。
『ところで、本来の目的であるそこの奴隷達の権限移動はどうするのだ?このまま領主の息子を脅せばいいのか?』
「その件だけど、昨日片付いて二人共俺の奴隷になっているよ」
昨日領主であるフォードの息子のフレデリックと一悶着あり、そのお詫びとしてアイラとクレハの奴隷の主人を俺に移動している。
『既に解決しておったのか。それなら何故我を呼んで説明しなかったのだ。わざわざ来る必要なかっただろうに』
アイラの召喚術で呼び出せばイグニスに状況説明できたな。うん、ごめん。
でも謝るのも癪だし、それらしい理由を付けてごまかしてやろう。
「上には竜王が来ると伝えているから実際に来てもらわないと俺が嘘つきみたいだろ」
『その時は我を呼び出して説明すればよかったであろうが』
「因みに、呼び出されたときのサイズは?」
『今の契約主の魔力だとそうだな。クレハと言ったか、その獣人に抱えられる程度であろうな』
クレハが抱えられる程度だとぬいぐるみみたいなものか。ぬいぐるみサイズで竜王の威厳とは。
「今のままだとイグニスさんまともに呼び出せなさそうですからねー。そのサイズで1時間が限界ですよー」
さすが竜王というべきなのか、維持コストが凄まじい。燃費が悪いともいう。
「実際は召喚獣として使えないな。ただの時間制限付きの話し相手にしかならないのか」
本当に役に立たない竜王だ。
『一応竜王だからな?我の魔力では仕方あるまいて』
「腐っても竜王というところか。今後のアイラに期待しようか」
完全な竜王の能力はかなり役に立つからアイラには頑張って魔力を増やしてもらおう。そのために俺も頑張ってスキル成長系スキルを育てないとな。
『なんか我の扱い雑じゃないか?』
「気の所為だから安心してくれ」
『成程、気の所為だったか安心したぞ』
この竜王ちょろい。
「さてイグニスの役目はこれで終わったし、巣に帰ってもらおうか」
『やっぱり雑ではないか!』
「いや今は騒がしくないけど、これ以上ここに見た目レッドドラゴンがいれば街の中が大騒ぎになる可能性があるからな」
一般人から見たら竜種は災害と変わらない。下手な魔族と同じ力を持った上位個体なら災害級どころか天災級だ。
『そこまで言うなら仕方あるまい。今日は大人しく帰るとするか』
「イグニスさん。今度はちゃーんと呼びますからねー」
『頼むぞ召喚主よ。可能なら一日一回呼び出してくれると嬉しいのだが』
召喚しているだけで魔力消費するし、アイラの魔力上げにも使えるから仕方ないが許そう。
「思っていたより竜王の扱いが雑ね。本当にいいの?」
『そこの娘よ、我とケイの仲だ、気にせんで良い』
そういえばユイとフィーアをイグニスに紹介してなかったな。帰る前に済ませてしまおうか。
「イグニス、帰る前にこの二人を紹介するよ。俺のパーティーメンバーのフィーアとユイだ。フィーアは槍が得意でユイは光魔術スキル持ちだ」
「フィーアです。イグニスさんこれからよろしくおねがいします」
「ユイよ。よろしくね」
『槍使いに光使いか。見たところ将来有望だな。ケイよ、いい仲間ではないか』
どうやら二人を鑑定したみたいだな。竜王から褒められたようで何よりだ。
「そういえば、イグニスは俺のことを鑑定しないのか?」
『ん?お前は鑑定阻害系スキル持ちじゃないのか?前に鑑定した時に見れなかったのだが』
俺のスキルに鑑定阻害するスキルなんてあったかな。
《コモンスキルの鑑定であれば私が無効化していますので、ご安心ください》
流石ナイ先生頼りになります。
《ユニークスキルの鑑定は無効化できない場合がありますので、その点だけご注意ください》
なにかあるかわからないし、そのうちユニークスキルで鑑定無効スキルを作っておくべきかな。俺のスキルは他人様に見せられないスキルの固まりだし。
「コモンスキルなら無効化できるけど?」
『やはり、無効化スキル持ちだったか。まあ、何のスキルを持っているのかわからないほうが戦闘は楽しいからな!また今度』
「嫌だ」
『まだ言い切ってないのだが・・・』
どうせ戦おうとかいう予定だったんだろ。
『まあ良い。我は帰るとしよう』
そう言うとイグニスの体が宙に浮かぶ。
竜種の体は鳥と違い遥かに巨大である。翼はあるが、あくまで空中でのバランス調整をするに過ぎない。鳥は空を飛ぶために色々と犠牲にしているが、竜種は空を飛ぶために殆ど何も犠牲にしていない。その理由は、下位竜種であれば魔素、上位竜種以上の存在であれば魔力を消費して空を飛んでいるからだ。
『いいか、今夜からでいいからしっかり我を呼ぶのだぞ!竜王とのお約束だ』
そう言い残して偉大なる竜王が空の彼方へと消え去っていった。
用事も済んだし、次はギルドかなー。
連休中に更新するはずがかなり遅くなってしまいました・・・。
そういえば、100万人のアーサー王復帰しました。
引退期間は2週間でした。
竜王の扱い?てきとーでいいのです。
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必要なら活動報告に誤字脱字コーナー作ります。




