ゴブリンの森
《ケイ様、起きてください。魔物が侵入してきました。》
異世界生活6日目の朝は最悪だった。
ナイの警報を受けて急ぎ目を覚ますと洞窟の入口からモンスターが入ってくるところだった。現れたモンスターはスモールバット1匹。小さいが吸血スキルで獲物を狩るハンターである。
『ウインドカッター』
丁度視界に入った所に風の刃を御見舞する。しかし、スモールバットはそれを紙一重で回避しお返しとばかりにこちらに向かって突進してきた。ある程度距離があったため外れた時の事は考えてある。
『ファイアウォール』
指定箇所に火の壁を作る魔法を俺とスモールバットの間に発動する。突進の勢いがあったのか、スモールバットは減速しきれずに火の壁へと吸い込まれる。火の壁へ吸い込まれてから10秒程してもスモールバットが現れないためファイアウォールを解除する。そこにはスモールバットがいた形跡は微塵もなかった。
「寝起き直ぐの戦闘はあんまりよろしくないな…。」
今回は直ぐに起きることができ、余裕を持って迎撃することができたが、起きるのが遅くなると無抵抗で殺されるかもしれない。また、個人魔法は発動時にイメージしないとその魔法が発動されない。その為、目の前に急に敵が現れたりしたらイメージができずに魔法が発動できない可能性もある。自由度が高いが故の弱点でもあるだろう。
《申し訳ありませんでした。蝙蝠系のモンスターの生息地と離れていたために事前確認が漏れていました。》
はぐれ蝙蝠ってやつかな。メタルじゃないから経験値少なそうだけど。
「俺もナイに丸投げしすぎて警戒怠りすぎたな。今後に生かせるようにしよう。」
平和な日本から異世界にやってきてまだ6日である。しかもスキル(ナイ)のサポートがあって超イージーモードだ。
ナイも俺のスキルだから自力とは言えなくもないけど、多少はナイに頼らなくても良いようにしておくべきだろう。
「それじゃ、朝食を食べてから出発しようか。今日からゴブリンの森だよね。」
《はい、ゴブリンの森はその名の通り、ゴブリン種が生息する森です。ゴブリン種は土属性のため、風属性の魔法がおすすめです。》
ゴブリンは土属性なのか。風属性で弱点が火属性だと森の木に炎が燃え移る心配はないようだ。それから朝食を食べながらナイにゴブリンの森について話を聞いていく。
纏めると、ゴブリンの森は徒歩で10時間程度の小さな森である。出現する魔物はゴブリン種が多いが極一部別の魔物が存在する。
ゴブリンには種類があり、所有スキルで名前が変わるらしい。例えば、スキルを持たない普通のゴブリン、剣術スキルを持ったゴブリン・ソルジャー、弓スキルを持ったゴブリン・アーチャー、魔術系スキルを持ったゴブリン・メイジが存在するらしい。また、稀に統率スキルを持ったゴブリン・ジェネラル、最上位のゴブリン・キングが現れることもあるそうだ。
因みにキングはいるのにクイーンはいないらしい。
朝食を食べ終わり、幾つか魔法の練習をしながら1時間程歩くと森の入口までたどり着いた。
「ここがゴブリンの森ね。」
目の前に広がる木々を見ながら呟く。ナイが言うには、俺の足で10時間程度で抜けられる森だからそれ程大きな森ではないんじゃないかな。樹海クラスじゃなくてよかった…。そんなことを考えながらゴブリンの森へと入っていく。
道なき道や獣道、というわけではなくある程度通りやすい道だった。恐らくこの世界の住民が通る時に使用しているのだろう。
30分ほど歩くと周囲から視線を感じるようになってきた。ナイが言うにはゴブリンに見られているらしい。そりゃ武器も防具も装備しない普通の人間がいれば襲うよね。俺でも襲うよ。一応周囲のゴブリンの種類だけナイに調査依頼しておくかな。
《すでに調査は完了しています。普通のゴブリンが8体、ソルジャーが4体、アーチャーが4体、メイジが1体です。今は見ているだけですが、程無く攻撃してくると思われます。》
凄い団体さんだった。近くに巣でもあるのかな?どうでもいいけど。とりあえず、ナイが調査した内容を元に作戦を考えるかな。まず、厄介なのは遠距離攻撃のアーチャーとメイジだろう。特にメイジは魔法攻撃の為、威力と範囲が分からない。
一応ナイにメイジの居場所は教えて貰っているから先制攻撃でメイジを潰すとしよう。アーチャー対策は風魔法で鎧を纏えば問題ないかな。残りの前衛達は流れで何とかなるだろ。さて、簡単に作戦を決めたし行きますか。
『ウインドカッター』
風の刃をナイの指示する方向へ飛ばす。
《ゴブリン・メイジの討伐を確認しました。ゴブリンが臨戦態勢に入りました。接敵します。ご注意ください。》
特に悲鳴は聞こえないが、うまくメイジを倒せたらしい。そんなことを考えながら次の魔法を発動する。
『ウインドアーマー』
体の周りを風が包むイメージで魔法を発動する。魔法が完成した直後に右手の森から矢が飛んできた。
飛んできた矢は思っていたより遅く、集中すれば完全に避けれるのではないかという速度だったが、今回は魔法の確認のため急所を外す程度に体をずらす。矢が体に当たる30センチ程手前で体を避けるように軌道を変えた。風の鎧でアーチャーの攻撃は無力化できたようだ。さあ次は前衛との戦いだ。
《右手よりソルジャー2、左手よりノーマルが4来ます。ご注意ください》
いきなり挟み撃ちか。残るノーマル1とソルジャー3が気になるが今は目の前の敵に注意しよう。まず顔を表したのは左手から来る普通のゴブリンだ。恐らく右手から来るソルジャーのための囮だろう。初めて見るゴブリンはサイズは人間の半分程度だが、緑色の肌をしており、棍棒を手に持っているいかにもファンタジーな生き物だ。いや魔物か。
「ギャアアアアアア」
3体の内の1体が叫びながら残りの2体と同時にこちらに迫る。
『ウインドカッター』
大きめに発動した風の刃で3体動時に首を飛ばす。いやだって、纏めて倒してくださいと言わんばかりに殆ど横並びで来るんだもん…。ゴブリン3体が魔素へ戻るのを確認しながらソルジャーが来る方向へと意識を向けると丁度剣を持ったゴブリン、ゴブリン・ソルジャーが飛び出してきたところだった。因みに、普通のゴブリンとの違いは武器だけだった。
「ギャア、ギャオ!」
叫びながら向かってくるけど何言ってるかわからないからね。
『ウインドカッター』
ゴブリンと同じように並んで迫ってきたソルジャーに風の刃を御見舞する。風の刃が当たったソルジャーの首が先程のゴブリンのように体とお別れをしながら魔素へと変わる。あっけなく挟撃を突破できてしまった…。さて、残りのゴブリンはどこだ。
《残りのゴブリンは逃走しました。》
あら、逃げちゃったの…。思っていたより弱かったから仕方ないのかな。ゴブリンとの初戦闘はこうして終わり、少し気を緩めた瞬間。
「きゃあああああああああ」
悲鳴が聞こえた。
「ナイ、今の悲鳴は?」
《人族の声です。》
人族、つまり人間の悲鳴って言うことかな。もしやファンタジーお約束の展開ではないのだろうか。可愛いヒロインがきっと俺を待っている!
「助けに行く、場所は?」
《悲鳴が上がった箇所へは右手のへ入り真っ直ぐ進むのが最短距離です。》
右手の森、先程ソルジャーが現れた森の中か。もしかして、さっき逃げたゴブリンが別の人に接触した可能性もある。そんなことを考えながら森の中へと走り出す。
少し走った先ですぐに開けた場所に出た。その場所にある馬車の近くに人がいた。2人ほどの男性がソルジャーと対峙しているところだったが、彼らの足元に女性が倒れているのが見えた。先程の悲鳴は彼女のものだろうか。そんなことを考えていると馬車の中から現れたピンク色の服をきた怪物が話しかけてきた。
「そこのお兄さん、よければ助けてくらないかしらぁ。」
ゴブリンより恐ろしいその怪物は人の言葉を話してきた。一応人間だよ?多分…ヒロインではなかったが。ヒロインであってほしく無いけどね!
全話でヒロインが出ると言ったな。
あれは嘘だ(ごめんなさい)。
この話を投稿後ここまで投稿している箇所の誤字脱字修正を行います。
リアルが忙しくなってくる時期ですが頑張ります。