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レストホルン家2

「僕が依頼を掠め取っただって?僕は奴隷を迎えに行っただけだ」


 冒険者ギルドに依頼しておいてその言い分がまだ通ると思っているのかこいつは。


「フレデリック殿は冒険者ギルドで依頼を発行しています。依頼内容は貴方の奴隷を貴方のところへ届けることです。ケイ君は君に奴隷を受け渡しましたよね?それで依頼は達成となります。貴方が出向いたからと言って依頼が無効になることはありませんよ」


 冒険者ギルドに正式に受領された依頼を無かったことにはできない。領主の息子がルールを破るなんて以ての外だろう。


「フレデリック、今の話は本当か?」

「確かに冒険者ギルドには依頼したけど、僕が自分で迎えに行ったんだから依頼は無効でいいだろう!」


 こいつ何言ってるの?イグニスの元から助け出したのは俺なんだけど?


「依頼内容は竜種から貴方の元へ奴隷を助け出すというものですが、無事に竜種から奴隷を救出したと思いますけど違いますか?」

「僕の奴隷が勝手に逃げてきただけだろ。逆に聞くけど、そいつが竜種から僕の奴隷を救出したという証拠はあるのか?」


 なんだろう、凄く面倒くさい。完全にクレーマーだわこいつ。


「成程、確かに彼が連れ出したという証拠はありませんね」

「そうだろう。だから依頼は無効でいいはずだ」


 ハインツが証拠が無いことを認めてしまった。これでフレデリックが依頼に対して違反を犯したとは言い切れなくなってしまった。


「いえいえ、彼は竜種と会っていますよ。どうやらケイ君の事を気に入ったようで、できるだけ彼と繋がりを持ちたいとのことです」

「竜種に気に入られた?馬鹿なことを言うな!魔物に気に入られるなんてそんなことあるわけ無いだろ!」

「長く生きた古代竜レベルになれば有り得る話ですよ」


 その後もハインツが説得を続けるがどうやら納得はしてくれないらしく、フレデリックはごね続けた。



「はぁ・・・、わかりました。それでは冒険者ギルドアトシュ支店はこの街から撤退させていただきます」


 もうこれ以上相手にはしていられないとハインツが冒険者ギルドの撤退をちらつかせる。

 ちらつかせるだけだよね?目がマジなんだけど?


「ハインツ殿、流石に今の話は領主として聞き逃せない。今回の件は冒険者ギルドが撤退するレベルの話ではないと思うが?」


 ハインツとフレデリックのやり取りを聞いていたフォードが口を挟む。どうやら冒険者ギルドの撤退に反応したようだ。


「今回の件の表面だけを見ればそうでしょうね」

「表面だけ?つまりまだ裏があるということか?」


 どうやらフォードはフレデリックと違い人の話を聞く耳は持ってくれているようだ。


「先程、ケイ君が竜種に気に入られたという話はしましたね」


 ハインツがイグニスの件をフォードに伝える。勿論、龍王ということは伏せている。


「成程、つまり拐われた奴隷が召喚術のスキル持ちで、その竜種と契約を行っているから奴隷をそいつに渡せということか」


 要約するとそうなるな。


「ふむ。ならば奴隷をそいつに渡すからこの件は穏便に済ませてくれると助かる」

「父上!あの二人は僕の奴隷だ!こんな冒険者に渡すなんて勿体無い!」


 どうやらフォードは二人を渡すことで冒険者ギルドを街におけるように取り計らうつもりらしい。

 そんな父親の考えを読めない…。いや、自分のことしか頭にないフレデリックは必死に反対しているが。


「大体、その竜種だって本当に街に来るのかわからないだろ?あいつが嘘をついているに決まっている!」

「フレデリック、この街を守るのも領主であるレストホルン家の役割だ。明日やってくるというのならその時に奴隷の譲渡すればいい。もし、嘘であれば冒険者ギルドに対してそれなりの対応をしてもらうことになるが」


 そう言いながらフォードはハインツの顔を見る。


「そうですね。仮に件の竜種が訪れなかった場合は冒険者ギルドとしてそれなりの対応をさせてもらいますよ」


 ここまで言わないと納得してくれなそうなので、ハインツもフォードの言葉に乗る。


「ただし、冒険者ギルドも職員を危ない目に合わせるわけにもいかないので、この場で明日竜種が来た時に奴隷の譲渡を行っていただけると確約が取れない場合も同様に撤退させていただきます。」


 この街の戦力で古代竜の相手をするのは不可能ではないが、街が半壊するレベルらしい。ナイ先生に教えてもらった。

 古代竜で半壊なら龍王ならどうなることやら。良くて全壊かなー。


「良いだろう。私の権限で明日竜種が現れた場合フレデリックの奴隷をそこの冒険者に譲渡すると誓おう」


 フォードが奴隷の譲渡を宣言した。これでこの事態は丸く収まりそうだ。


「・・・だ」


 ん?


「いやだ!あの奴隷は僕の物だ!持ち主は僕なんだから父上にも決めさせないぞ!」


 遂にフレデリックは駄々を捏ね始めた。

 完全に子供のそれだ。


「我儘を言うな!それでアトシュが滅んだらどうするんだ!」


 フォードはアトシュの事を考えて行動している。聞いていたとおり偉そうだが、考えて行動出来る人間のようだ。

 何故息子はこうなった。


「それは・・・。そうだ!こいつを始末してしまえば良いんだ!それなら竜種も諦らめて帰るだろうからな」


 何を言っているんだこいつ。


「フレデリック殿。今の発言は聞かなかったことにしておきます。そんなことをすれば冒険者ギルドは完全にアトシュから撤退することになります」


 冒険者を始末しようと簡単に考える領主の息子が居る街では安心して冒険者ギルドを運営することができない。仮にフレデリックが手を出した場合は冒険者ギルドの撤退は確定だろう。


「何を言っているんだ。そんなことをしてみろ、冒険者ギルドが出ていくだけではすまないぞ。最悪国から犯罪者として処刑されてしまうんだぞ!」


 流石にフォードも今のフレデリックの発現は想定外だったようで少し慌てている。


「父上、そこのエルフは奴隷にしてしまえば良いんだ。僕が命令してあいつを始末したことを口外できなくしてしまえばいい。そうすればどこにも話は漏れないから安心だ。仮に竜種が来たらこいつは街を出ていったと伝えればいい。そうすればこの街も安心だ」


 成程、俺を殺してハインツを奴隷にすることで隠蔽しようと。力技だけど悪くはない案だ。残念なことに俺は死ぬ気無いけど。


「父上も反対しないし、いいってことだね。おいクロード、あいつを殺せ!」


 クロードと呼ばれたスキンヘッドが腰に刺していた剣を抜く。


「そこのエルフも少し痛めつけてやれ。そいつは殺すなよ」


 フレデリックが追加の注文をするとクロードは一歩前に出た。


「フォード様、この件は後でじっくりお話しましょうか」


 ハインツは軽くフォードを睨みつけると戦闘態勢に入った。

 狭い部屋の中だが、俺とハインツはクロードと距離を取る。クロードはその場から動かずこちらの様子を伺っているようだ。


「ケイ君、こんなことに巻き込んで申し訳ない。魔法を使って戦うから気をつけてくれ」

「俺も魔法使えるので援護しますよ。というより、魔法しか使えないので」


 相手は剣士、こちらは魔術スキル持ち二人か。人数では勝っているが狭い部屋の中だと剣士の方が有利かもしれない。


「成程、武器を持っていないと思ったら魔術スキル持ちだったか。それなら無理しない範囲で戦ってくれ。危ないと思ったら逃げることを優先して貰って構わない」


 ハインツは命を狙われていない為、俺を逃しても殺されることは無いだろう。最悪逃げてもいいとハインツが言った所でクロードが前に出る。

 初めての対人戦が幕を開けた


先日3年続けていた某100万人アーサーのソシャゲを引退しました。

おかげでよく寝れます。


今週中にあと2話投稿できたらいいな・・・

評価、感想ありがとうございます。

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