フレデリックの奇行
「なぜ貴方がここに居るんですか?」
アイラとクレハを山の麓まで連れてきた所で二人の主人であるフレデリックが現れたのだ。
「自分の奴隷が心配で何が悪い。そして先も述べたように二人を渡してもらうよ」
そう言うとフレデリックは二人の腕を掴み引っ張る。主人であるフレデリックに逆らうことのできない二人は為す術無くフレデリックの馬車へと乗せられた。
貴族であるフレデリックに手を出すわけには行かないため、大人しく見ていることしかできなかった。
「さて、二人は僕が救出したんだから君への報酬はなしでいいな」
何を言っているんだこいつは。
「納得できないという顔だね、だけど僕は伯爵家の者だ。平民ごときが僕の言うことに逆らうなんてことありえないからな。僕が報酬は無しと言ったら無しなんだよ」
呆れた。こいつの中では全ては自分の事が最優先であり、他人はどうでもいいのだろう。
「報酬の件はギルドに相談させていただくので安心してください」
今の俺が言えるのはこれくらいだ。イグニスの事はこいつに伝えなくていいだろう。俺関係ないし。
「分かれば良いんだよ。おい、馬車を出せ!」
フレデリックは大変満足した顔で馬車に乗るとアトシュへ向けて馬車を出した。
「あいつ本当になんなんだよ」
フレデリックの馬車が見えなくなってからそうつぶやいた。
「まさか奴隷を自ら回収しに来るとは」
完全に想定外の動きをされてしまった。一応ハインツには伝えておくべきだろうが、何て伝えるべきか。
「あの、ケイ様?」
フレデリックについて色々考えていたら声をかけられた。
「ん?ああ、フィーアとユイか。そういえば、二人はどこに居たんだ?フレデリックが来ていたみたいだけど」
先程のフレデリックの反応を見る限り、二人と会っていた様には思えない。仮に会っていたらユイのことで一悶着あっただろう。
「フィーアさんが馬車が来る気配を察知したから隠れていたの。そしたらあいつが来るからびっくりしたわよ」
どうやらフィーアの感知練習は役に立ったようだ。
「フィーアありがと。ユイ見つかっていたら更に面倒なことになっていそうだったからね」
「いえ、ケイ様のお役に立てたのなら幸いです」
フィーアにお礼を言うと謙遜する言葉が帰ってくるが、顔は満面の笑みを浮かべている。
「ところで、フレデリック様がいらしていたのは依頼の件ですか?」
「ああ、どうやら俺に依頼料を払いたくなかったみたいで、自ら奴隷を回収して戻っていったよ」
簡単にだが先程のフレデリックとのやり取りを二人に伝えた。
「ありえない!冒険者ギルドを敵に回す気かしら」
確かに、今回の件は冒険者ギルドに喧嘩を売っていると捉えられても仕方がない。
「わたしの村でしたら冒険者ギルドが無くても何とかなりますが、アトシュくらい大きな街になると冒険者ギルドが無くなったら大混乱を起こすのではないですか?」
冒険者ギルドの役目として、街での雑用等の依頼を行うのが低ランク冒険者の役割であるが、冒険者としてメインとなる依頼は魔物の討伐である。
魔物は基本的に出現する領域から離れることはないが、稀に人里へ下りてきて街や村を襲うことがある。その為、冒険者が街を襲う魔物を狩る役割も持っている。しかし、それだけなら魔物が襲ってきた時のみに対処すればいい。
魔物を狩る一番の目的は魔物から取れる魔素である。魔素はこの世界でエネルギー代わりに使用されており、ギルドカードやパーティーカードで回収した魔素は冒険者ギルドを通して各箇所へ売られている。夜の灯や料理の際に使う高火力のコンロ等は魔素を使用しているらしい。
その為、冒険者ギルドを敵に回すということは街に魔素が供給されなくなる。最悪ギルドがその街から撤退すると緊急時の防衛は街の騎士や警備隊だけで対応しなくてはならなくなる。
過去に冒険者ギルドを敵に回した街が衰退や壊滅した例もあるらしい。
「まさかここまで馬鹿だとは思わなかったわ」
冒険者ギルドは王族、貴族と言えど平等に扱う事になっている。これはこの大陸における第5の勢力として認識されていることからも伺える。
「とりあえず、今日はここで野営をして明日街へ行こう。先にあいつがギルドに報告をされると厄介だから俺の魔法で朝一に街へ行ってハインツに報告しようと思う」
転移魔法を使えば街まではすぐだ。今はイグニスとの戦闘で消費した魔力が回復しきっていないため、二人と馬車を同時に連れて行くことは難しい。
「わかりました。では野営の準備を始めますね」
今日は野営と伝えた途端にフィーアが準備を始める。一応少しは準備していたようだが、フレデリックの登場で準備が中断されていたようだ。
「野営の準備を始める前にフィーアにスキルを渡しておくよ」
そう言いながらフィーアに魔力成長促進スキルを譲渡する。
「ありがとうございます。それでは準備してしまいますね」
フィーアも慣れたのかスキルの譲渡を行っても特に反応はなかった。少し寂しい。
「私も手伝うわ」
ユイもフィーアの手伝いを行い、野営の準備はすぐに整った。勿論二人が作った夕食付きだ。
「ごちそうさまでした。そうそう、二人に伝えないといけないんだけど」
食事を済ませるとアイラとクレハについて説明をする。勿論山の上にいるイグニスについてもだ。
「竜種の頂点、龍王ね。そんなのと戦って無事なご主人は流石だと思うけれど、そのイグニスって龍王のターゲットになっちゃうなんてね」
「まさかアイラが召喚術なんて持っているとは思わなかったからな」
フレデリックが何のためにレアスキル持ちの奴隷を購入していたのか分からないが。
「あいつのことだからレアスキル持ちの奴隷を持つことで自分の泊を上げようとしているだけじゃないかしらね」
確かにフレデリックならその可能性は大いにある。
「とりあえず、今日は早く寝て明日朝一でアトシュに向かうから今日は早めに寝ようか」
明日はフレデリックより先にアトシュに辿り着く必要がある為、少し早いが寝ることにした。
異世界生活29日目、俺達は日が昇ると同時に転移魔法でアトシュの近くまでやってきていた。
「ここから馬車で街に行こう」
空間魔術の使い手は少なく、転移魔法となると更に少なくなる。その為、周囲に見つからないように街から少し離れた位置に転移している。
「街についたら俺はすぐギルドに行くから二人は馬車の返却を頼むよ。店員に何か言われたらギルドの事を話してもいいからね。勿論俺と合流するまでに何かに巻き込まれそうになったら武力行使をしてでも逃げていいから。これも全部ギルドのせいにしておくからね」
今回の依頼の件で何か問題が起きたら全てギルドの問題にしておく予定だ。こんな依頼を押し付けたんだから仕方ないよね。
「わかりました。何かありましたら全力で対処しますね」
「私も何かあったら全力で魔法打つわね」
二人共やる気十分だけど何かあったときだけにしてね。
そんな会話をしていると馬車はアトシュの門にたどり着いていた。
早朝の為人がまばらな門をくぐると俺は馬車から下りてギルドへと向かった。
「おはようございます。ギルドマスターいますか?」
ギルドに入ると先日の受付嬢さんが居たため、ハインツを呼んでもらう。
「ケイ様、例の依頼の件ですか。わかりました。少々お待ち下さい」
フレデリックの依頼の件だと伝えると直ぐにハインツを呼びに行ってくれた。
「やあケイ君思っていたより早い気がするけど依頼は終わったのかい?」
何も知らないハインツがのんきに訪ねてくる。
「その依頼の件についてなんだけど、悪い話と悪い話どっちから聞きたい?」
勿論イグニスの件とフレデリックの件だ。
「えーっと・・・。良い方はないのかな?」
困惑しながらハインツが回答を述べた。残念、悪い話しかありません。
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