火龍王
眼の前に居る竜――火龍王イグニスは過去何度も見聞を広めるために人間を拐って会話をしていたらしい。
しかし、イグニスが人に与える食事が人用で無かったため、餓死してしまい仕方なく人を食べていたらレッドドラゴンの習性と言われるようになったらしい。
「お前レッドドラゴンじゃなかったのか。まさか火龍王だったとはな」
『龍王クラスになると見た目を自由に変えられるのだよ。この姿なら人に怯えられにくいであろう』
いや、ドラゴンに拐われるだけで十分恐怖なんですけどそれは…。
「その姿でも十分怯えられると思うぞ」
俺は拐われてきた二人を指しながら言った。
実際二人は馬車の影からこちらの様子を伺っている状態だ。
『成程、しかし我にも竜種としての誇りがある。人に怯えられないなら人の姿をするのが良いだろうが、そんなことしているのは風龍王位なものよ』
現代の風龍王は人に混じって生活するのが好きなようで自分も人の姿になって各地を旅しているらしい。龍王って変わり者が多いのかな。
「流石に竜種相手に普通に会話できるやつはそうそういないだろ」
実際俺も最初は怖かった。しかし、今は普通にイグニスと会話できている。女神印の恐怖耐性さまさまだ。
『確かに、我と普通に会話をできた人はお前が初めてだ。どうだ、我とここで暫く暮らしてみないか?それなら我も満足出来るしお前の目的だったあの二人も開放してやろう』
「魅力的な提案だけど断るよ。俺にも都合があるからね」
あまり二人を待たせたら心配してしまうかもしれないし仕方ないよね。
『それは困るな。それならあの二人を返すことは出来ぬよ』
「二人を返してもらうにはどうしたら良い?」
『それはお前も分かっているのだろう?我に勝利できればお主も含め全員解放してやろう』
龍王の所有物を奪い取るのだ。やはり戦闘になるのか。気配や魔法を遮断しても俺を見つけ出した奴相手に逃げ切れるとも思えないから、ここで戦う以外の選択肢はないか。
「分かった。お前を倒して二人を開放してもらおうか」
『我に勝てると思っているのか人間が。良いだろう我もこの姿で戦ってやろう。本気で戦ったらお主だけでなくあの二人も殺してしまうかもしれんからな』
二人に気を使ってくれるのは助かる。俺も二人に気を使いながら戦わないといけないな。
「手加減してもらえるのは助かるよ。こっちも期待に応えられるように頑張るよ」
そう言いながらイグニスから距離を取りながら魔法を発動する準備をする。
『面白いな人間。間違えて殺してしまったら勿体無いから先に名を聞いておこう』
「俺はケイだ。殺さないでくれよ、そして死ぬなよイグニス!」
そう言いながら風の刃をイグニスに放つ。威力はオークを殺した時の倍程度にしてある。
『面白い魔法を使うなケイよ』
風の刃を爪で弾き飛ばしながらイグニスが言ってくる。
「結構魔力込めたんだけどなあ」
『この程度風属性の上位竜であれば使えるからな。それでも人が発動できる魔法で簡易なものをこの威力に引き上げた者は少ない。面白いぞケイよ』
今の魔力で上位竜と同レベルらしい。ウインドカッターの威力を上げる術はそれ用のスキルを持っていないと出来ないからな。しかもそのレベルを一定以上に上げる事ができるのは極一部であろう。
「それならこれはどうだ!」
今度は先程より大きな風の刃をイグニスに向けて放つ。
『それなら効かないのわからないだろうが!』
そう言いながらイグニスは爪で風の刃を弾き飛ばそうとする。
『なっ』
イグニスは風の刃を完全に弾いたと思っていたのだろうが、俺が放った風の刃は放たれた片手の爪を全て切り裂きイグニスの鱗にも傷をつけていた。
「どうだ?対竜魔法は」
『対竜魔法だと?それはいったいどのような』
「そのままの意味だよ。竜種に大ダメージを与える俺の魔法さ」
実際に発動しているのは、俺が放つ魔法に対竜属性を持たせているだけだ。効果は俺のイメージ次第だから今回は威力を抑えている。もっと強くすればイグニスを両断することも可能だろうが、対竜魔法は魔力消費が激しいのでそうそう連発も出来ないし、そもそもイグニスを殺すことは考えていない。竜種のバランス崩れたら色々大変かもしれないし。
それに、イグニスを両断出来る魔法を放つためにはそれなりの魔力が必要となるので何発も放つことはできない。それほどまでにイグニスの防御力は高いのだ。実際、今つけた傷も爪を切り裂いて威力が落ちているとはいえ、鱗の一部が欠ける程度のダメージを与えたにすぎない。
『初めて聞く魔法だ。そのような魔法がこの世にあったとはな。とことん我を楽しませてくれるな。今度はこちらから行くぞ』
そう言いながらイグニスは巨大な赤い炎を吐き出した。火属性ドラゴン種のブレス攻撃というやつだ。
「おいおい、俺がこれを弾けなかったら丸焦げどころか塵すら残らないんじゃないか?」
放たれたブレス攻撃を対竜属性を持たせたエア・キャノンで吹き飛ばしながらイグニスに話しかける。
ブレスを吹き飛ばすついでにダメージを与えようとしたけどどうやら避けられてしまったようだ。
『お前なら打ち破ると思っていたさ。それに我のブレスを防ぎながら攻撃してくるとはますます面白いぞ』
「俺は楽しくないから早く終わらせたいんだけど」
『この姿とはいえ我の攻撃を防ぐ者は珍しいからな。つい楽しくなってしまうのさ』
人と話して知識を増やしたいと言っているが、戦闘になると戦闘狂になるのはやはり竜種だからなのだろうか。
『我のブレスが効かないとなるとやはりこれしかあるまい』
そう言いながら無事だった方の爪を振りかぶるが、先程と違いその爪は炎を纏っている。
「俺魔法が主体だから近接戦は勘弁してほしいんだけど」
竜の巨体からは想像もつかない速度で繰り出された爪を後方に転移する事でなんとか躱す。
『まさか転移呪文を使えるとは思わなかったぞ』
攻撃が空振りに終わったが俺を見つつ楽しそうに話しかけてくる。
「切り札の1つだったんだけどなあ…」
今の転移だけでそこそこ魔力を消費してしまったようだ。転移呪文は空間魔術スキルの中でも上位魔法でそれ相応の魔力消費となっている。
『強力な風魔法に対竜魔法、それに高位の空間魔法を使って倒れないところを見ると魔力量もかなりあるようだな。だが、所詮は人間よ魔力切れで戦えなくなるのが関の山よ』
イグニスはもう完全に油断しない状態になっている。恐らく次の一撃でこちらの魔力を殆どなくす算段なのだろう。
『ケイよ死んでくれるなよ』
イグニスの足元に赤い魔法陣が現れる。
《ケイ様ご注意ください。次の一撃は恐らくブレスに魔力を乗せた一撃になります》
ナイが俺に忠告を与えてくる。成程、ブレスに魔力を乗せて先程より火力を上げるつもりか。
一応エルフと獣人の二人は射線上にいないから仮に避けても二人に被害は殆ど出ないだろう。だが、二人を傷付けると依頼主に何を言われるかわかったものじゃないからな。
ナイ、行動するのに問題ない程度の魔力より少し多めの魔力量を残して出来る限り対竜属性を乗せたエア・キャノンを頼むよ。
《承知しました。ケイ様の魔力量を計算…。個人魔法よりエア・キャノンを生成、対竜属性を付与…。完了しました。》
『行くぞ!』
ナイが魔法を構築し終えるのと同時にイグニスがブレスを放つ。先程の赤い炎と違い青い炎だ。
風の塊と青い炎のブレスが衝突すると同時に風の塊がブレスを押し返しイグニスへと到達する。
『まさか我が渾身のブレスを弾き返すとは!』
「まだだ」
そう言いながらエア・キャノンで一瞬動きが止まったイグニスの片目を風の刃で切り裂いた。
『がああああああああああ』
片目を潰されたからかイグニスの悲鳴が響く。
「まだ続けるか?」
『い、いや、我のブレスも弾かれ、更に片目を持っていかれたからな。我の負けだ』
どうやら火龍王との勝負は無事終わったようだ。
因みにどれ位手加減されていたかというと。
《火龍王本来の姿になった場合のブレスなら周囲一体が塵すら残らなかった可能性があります》
だそうです。
今回戦ったイグニスの力は古代竜より少し弱い程度です。
竜種は見た目を変えるとそれにつられて力も変化します。(勿論最大値は龍王形態)
火龍王の名前をイグニスに修正しました。
もっと後で使う予定の名前を間違えて使ってしまった模様。
既に読んでしまった人は申し訳ないです。
昨日上げられなかったお詫びアップです。
次の投稿は仕事次第ですが3連休のどこかになるかと思います。
そろそろ日間ランキングのりたいな・・・チラッ(可能でしたら評価お願いします)




