厄介なギルド報告
今あいつ何て言った?この街の領主の息子っていわなかったか?
「ユイ、もしかしてあそこで騒いでいる奴って」
「ご主人様の想像通り、あそこで騒いでいる男がフレデリック・レストホルンよ」
ユイに小声で確かめると、予想通りアトシュの街領主であるレストホルン家の息子だったようだ。
このままギルド内に入ってしまうと見つかってしまうだろうから明日出直そう。そんなことを考えついた時。
「今来られた方、こっち空いているのでどうぞ」
フレデリック・レストホルンの隣の受付嬢さんが俺たちを呼ぶ。流石にこれで帰りますは逆に目立ってしまうな。
「俺が依頼の処理をしてくるから二人はあっちのテーブルで待ってて。勿論ユイが背を向けるようにしてね。フィーアの処理もしちゃうからパーティーカード貸してもらえるかな?」
「わかりました。わたしのカードをお渡ししておきますね」
パーティーカードはパーティーリーダーのみ代理で提出できるシステムがある。パーティーリーダー以外では代理提出は認められていないが、今回は俺がパーティーリーダーなので問題無い為受け取っておく。
「ありがと。ユイは今回ブラックウルフを倒していないし、倒したゴブリンはエコーリアで処理してもらおうか」
「そうね、何かの拍子に名前出されても面倒だから私の処理はエコーリアでいいわ」
俺は二人と分かれて受付へ向かう。隣は未だうるさいが、こちらの要件を済ませてしまおう。
「エコーリアで受領した依頼の処理を行いたいんですけど」
受付嬢さんに今回の要件を告げる。
「承知しました。ではカードをお預かりしてよろしいでしょうか」
言われた通り俺の分とフィーアの分のカードを渡す。
「ありがとうございます。少々お待ち下さい」
受付嬢さんはそう言うと確認作業をする。
数分ほど待つと確認作業は終わったようだ。
「おまたせ致しました。ブラックウルフ討伐依頼の達成を確認しました。賞金はケイ様のカードに一括で入れていますので、ご自身で配分をしてください。」
パーティー依頼はパーティーリーダーに賞金の配分を任されている。パーティー内でのゴタゴタを受付でやられないようにするためだとか。
「それと、同時に依頼を受けていたブラックウルフ討伐の確認が取れませんでした。このため、依頼失敗とさせていただきます。」
しまった、ブラックウルフは魔族になっていたから魔素を吸収できていないんだ。
「えっと、ちょっとそれは待ってもらえます?」
「達成する目処があるのですか?」
一回失敗したんだろお前みたいな目で見ないでください。
「いえ、倒すことは倒したんですが…」
「他の冒険者に横取りされたとかですか?それでも依頼は達成となりませんよ?」
魔族の事を伝えたら面倒臭そうだよなあ…。受付嬢さんも俺の相手が面倒になってきたのか表情が…。
「いえ、横取りとかでもないんですよ。どうしようかな…。そうだ!どこか部屋とか借りれますか?」
部屋を借りてその部屋の中でブラッドウルフの死体を出せばいいだろ。
「部屋ですか?この件に関してじっくりお話がしたいということですね。そういうことでしたらギルドマスターも呼びますがよろしいですか?」
クレーマーと勘違いされているようだがギルドマスターが出てきてくれるならこっちとしても話が進めやすい。問題は俺の依頼報告が終わるのを待っている二人と離れてしまうことか。二人には申し訳ないけどもう少し待ってもらおう。
「わかりました。ギルドマスターも同伴でいいので話し合う部屋を設けてください」
「わかりました。それではギルドマスターをお呼びします。先に部屋へ案内いたしますのでこちらへどうぞ」
そう言って受付嬢さんが部屋まで案内してくれた。
10分程待つと受付嬢さんと若い男性が入ってきた。男性がギルドマスターなのだろうか、よく見ると耳が尖っているのが確認できる。エルフってやつなのかな?
《はい。エルフで間違いありません。エルフは長寿のため、見た目より歳を取っていると思われます》
やはりエルフだったようだ。さすが異世界エルフまでいるのか。
「初めまして、僕はこの街の冒険者ギルドのギルドマスターを努めているハインツだ。君が依頼のことで言いたいことがある冒険者かな?」
ハインツと名乗ったエルフはやはりギルドマスターだったようだ。表情は笑顔だが、裏で何を考えているのか読むことができない。
「初めまして。俺はケイって言います。今回は俺が受注している依頼で特殊な事態があったのでこうして個室を用意してもらいました」
「担当をしていた彼女から、君のギルドカードやパーティーメンバーのパーティーカードからブラッドウルフの魔素は無かったと聞いているけど?ギルドのルールでは確認が取れなければ依頼達成とならないことは知っているよね?」
ハインツがニコニコした表情を崩さずに圧を飛ばしてくる。受付嬢さんしっかりクレーマーとして伝えているよ!
「ええ、ブラッドウルフの魔素は俺達のカードには無いと思います。その件に付いて表では話せないのでこうして部屋を用意してもらったんです」
「ほう、その表では話せない理由は?」
「その理由を話す前に1つだけ確認なんですけど、ここの床少しだけ汚れても大丈夫ですか?」
案内された部屋は思ったより大きかったので、ブラッドウルフの死体を出しても大丈夫だろう。
「部屋が破損しなければ汚れ程度なら大丈夫ですが、それがなにか?」
「ありがとうございます。今"出す"のでちょっと待ってくださいね」
ギルマス直々に許可を出してくれたので遠慮なく出しちゃおう。
収納スキルからブラッドウルフの死体を壁に当たらないように取り出す。勿論床に優しく置くのも忘れない。壊しちゃダメって言われたからね。
「なっ!?」
ハインツの表情から笑顔が消え、驚愕に変わっている。
「成程、これが君の公衆の面前では言えなかった理由ですか」
真剣な表情でブラッドウルフの死体を見ながらハインツが言った。
「ええ、これを受付で出したら大騒ぎになると思いまして」
「その判断は賢明だったよ。魔族の死体なんて受付の前に置かれたら大騒ぎになっていた可能性があるからね」
魔族はめったに発生することがない。魔族が発生しないように魔物を狩るのも冒険者が受けている依頼の内容に含まれているからだ。
「それで、魔素は取れなかったんですけど、今回の依頼の扱いはどうなりますか?」
「魔族から魔素は採取できないから仕方無い。今回はこの死体で依頼達成扱いとさせてもらうよ」
どうやら無事依頼達成扱いにしてもらえるようだ。
「それと、魔族を討伐できる冒険者である君はAランクへの推薦をしておこう。後で今回の依頼達成の件と共に処理するように」
「承知致しました」
入り口に立っていた受付嬢さんがハインツに頭を下げる。
「それと、今後こういうことがあるか分からないんですが、仮にまた魔族を討伐した場合はどうすればいいですか?」
何度も魔族と遭遇するとは思えないけど今回みたいに怪しまれるのはちょっとね。
「そうだね。こちらとしてもルールが決まっていないから次回のギルドマスターの周回で提案してみるよ。それと、この死体はこちらで貰っていいかな?勿論、欲しい素材があれば剥ぎ取ってくれていい」
「いえ、特に欲しい素材は無いので大丈夫ですよ」
この死体を引き取ってもらえるなら助かる。収納のスペース取るんだよねこいつ。
「わかった。それならこの死体はこちらで全て引き取るよ」
別室から出てきた俺は先程の受付カウンターへ赴く。
「ケイ様、色々と申し訳ありませんでした」
受付嬢さんが、俺に謝罪してきた。
「いえいえ、それが仕事ですから気にしないでください」
実際俺みたいに死体がなければ証明できないだろうからね。
「処理が完了致しました。今回の依頼の賞金とハインツギルドマスターのAランク推薦が記録されています。既にエコーリアのアインギルドマスターの推薦がありましたので、あと1人ギルドマスターの推薦があればAランクになることができます」
どうやらアインがこっそりAランクの推薦をしていたようだ。
「以上となりますので、カードを返却致します」
「ありがとうございます」
カードを受け取り俺を待つ二人のテーブルへ向かう。フレデリックはまだ隣で騒いでいるのでユイには気付いていないようだ。相手をしている受付嬢さんお疲れ様です。
「ええい、もう君じゃ話にならない!ギルドマスターを出せ!」
今度はギルドマスターを巻き込むみたいだ。
変わる毎にやっていたら見にくいと思うので、
メンバーのステータスは一区切り毎に出すようにします。
休日出勤勘弁。




