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ブラッドウルフ2

 ブラッドウルフと対峙するとこれまでの戦闘で得た情報を簡単に二人に伝える。


「あの体を覆っている赤い毛を血操術で操ることができるみたいだ。それを飛ばしてくる攻撃もあるけど、俺の防御魔法で対処できるから基本的には心配せずに攻撃してくれ」


 俺は二人に伝えつつ風の鎧を二人に纏わせる。


「防御力と回復力が結構あるから高い攻撃力で一撃を狙うしか無いと思う」

「さっき見ていたけど、ご主人様でも厳しいなら私達の出番はあまりなさそうかしら?」


 確かに普通に戦うのであれば二人の火力では難しいであろう。


「そうだね。でも、フィーアなら十分な火力を出せるかもしれない」

「わたしですか?あっ、魔槍術ですね!」


 フィーアの魔槍術で一撃で可能な限り魔力を注ぐことであの防御を抜ける可能性は大いにある。


「そうだよ。ここまで魔力を温存してあるなら全魔力を使えばダメージを入れることができると思う。ただダメージを与えても仕方ないから魔槍術を使うタイミングは最後の一撃にしよう。攻撃のタイミングは俺が作るから、それまでブラッドウルフの対応を頼むよ」


 フィーアにブラッドウルフを引き付けてもらい、その隙きにブラッドウルフの足を魔法で攻撃して機動力を奪う予定だ。

 俺一人で倒すこともできるだろうがブラッドウルフはフィーアの敵でもあるし、倒せる術を持っているのなら止めはフィーアにしてもらうほうがいいだろう。


「わかりました。ご主人様が整えてくださるチャンスを無駄にはしません」


 フィーアは俺の意図を汲んだようだ。


「私は回復役でいいのよね?」

「そうだね。フィーアに囮をしてもらうから、ダメージを受けた時に即時に回復できるようにしておいてくれ」


 ユイのライトアローでもダメージを与えるのは難しいだろう。それなら光魔術の回復魔法を使ってフィーアの支援をしてもらったほうがいいだろう。


「簡単だけど作戦も決まったし、行くよ!」


 簡単に作戦を決めたし、さあブラッドウルフ狩りを始めよう



 フィーアがブラッドウルフの前に立つ。


「わたしがお相手します!」

「GAAAA!」


 目の前に立ったフィーアを敵と認めたのかブラッドウルフの意識はフィーアに向いたようだ。


「いきます!」


 フィーアが槍を構えてブラッドウルフへと進み出る。対するブラッドウルフは血の針を飛ばすが、フィーアに施した風の鎧が軌道を変化させる。


「GUAAAAAA」


 遠距離攻撃は効かないと判断したブラッドウルフはフィーアに向かって走り出した。


「っ!」


 ブラッドウルフがすれ違いざまに爪で攻撃を行う。その攻撃をフィーアは槍で流すが、あの体格の狼の攻撃を受け流したためかダメージを幾分か受けてしまったようだ。


「フィーアさん!『ヒール』」


少しでもダメージを受けたら回復するようにユイには伝えてい為、ユイがすかさず回復魔法を発動する。

 ブラッドウルフ相手なら軽いダメージでも行動に影響が出て命取りになる可能性があるからね。


「ありがとうございます。ユイさん」


 治療されたフィーアは再度ブラッドウルフに向かい合う


「まだまだ行きますよ!」

「GAAAAA」


 どうやらフィーアの囮は機能しているようだ。再度フィーアに向かってブラッドウルフが爪を繰り出す。


「今だ!『ウインドカッター』」


 フィーアに接触する直前のブラッドウルフに向けてウインドカッターを放つ。


「GUA!」


 しかし、先程ウインドカッターを受けた感覚が残っていたのか、ブラッドウルフは咄嗟に風の刃を回避した。


「あれを避けるのか…」


 恐らく血操術を用いて無理矢理進路を変更したのだろう。


「ごめんフィーア、機を逃してしまった」

「いえ、でもあれを回避できるとなると厄介ですね」


 体の向きを強引に変化させて風の刃を回避する能力の高さは厄介だ。


「そうだね。もう一度同じように足を狙うからまた引き付けよろしく」

「わかりました」


 もう一度タイミングを見て風の刃を放つ準備をする。

 しかし、ブラッドウルフは魔法を警戒しているのかなかなか仕掛けてこない。


「来ないのであればこちらから行きますよ!」


 相手の攻撃を受けるために構えていたフィーアがブラッドウルフに攻撃を仕掛けようと前に出る。


「はっ」


 槍の間合いに入った瞬間にブラッドウルフの目に突きを繰り出す。体の防御力が高くても目は強化できない為、フィーアは目を狙ったようだ。

 しかし、ブラッドウルフは後ろに下がることでフィーアの槍を回避する。


「ナイスだフィーア!『ウインドカッター』」


 フィーアから離れる動作中に風の刃をブラッドウルフに放つが、先程と同じようにブラッドウルフが無理矢理耐性を変えることで回避する。


「GUAAAAAAAA」


 完全に回避したと思っていたブラッドウルフが悲鳴を上げる。そして、4本の足が体から切り離される。

 今回俺が発動したのはかつてゴブリン相手に練習していた追尾型のウインドカッターだ。ブラッドウルフの四肢を目標に足を落とすために威力を上げた風の刃を放ち命中させた。


「フィーア!今だ!」


 後はフィーアの魔槍術で首を飛ばすだけだ。


「はい!」


 フィーアは自身が持つ魔力を殆ど全て使用し魔装術を発動させる。


「はあああっ『魔槍術』!」


 フィーアの槍がブラッドウルフの首を捉えた。四肢を切り離された狼は頭部も切り離される。


「はあ…はあ…」


 魔力を使い果たしたフィーアは座り込みはしないものの、槍を支えにその場に立ち呆ける。


「やった…。やったよお父さん、お母さん…うう…」


 空を見上げ涙を流しているようだ。良かった。


《ケイ様ご注意ください!まだ》


 ナイが警告するのとそれは同時だった。

 フィーアの体が宙を舞い木にぶつかる。


「フィーアさん!」


 ユイが叫びながらフィーアの元に向かう。


「いったい何が…」

《ケイ様、まだブラッドウルフは生存しています。ご注意ください》


 四肢を落とされ、首も落とされた狼はまだ生きているらしい。


「あれで生きているのか。実は狼じゃなくてアンデットじゃないよな」

《血操術で脳に血を循環させることで生き続けているようです》


 魔族になったことで得た生命力が血操術により頭だけでも生存できるようになっていたようだ。

 フィーアが突き飛ばされたのは頭が勢い良くぶつかったからだろう。


「何ていう化物だよ。ユイ、フィーアは大丈夫か?」

「大丈夫よ。気は失っているけど治療は私に任せて」


 フィーアの元に駆けつけていたユイはフィーアを回復する。


「任せたよ。あいつは俺が倒す」


 フィーアをユイに任せてブラッドウルフの前にでる。


「GAAAAAA」


 いつの間にかに体と部位がくっついてたようだ。血操術で各部位をくっつけて治癒能力で回復したのか。本当化物だなこいつ…。でも魔力がなければここまでできないだろう。


《ブラッドウルフの魔力残量は半分以上残っています。魔力切れを狙うのは難しいかと》


 こっちの攻撃はダメージを与えるために魔力を多めに使うからな。さて、どうやって戦おうか…。対するブラッドウルフもこちらの様子を伺っている状態だ。近づけば風の刃が放たれるのだからだろう。


『ウインドカッター』


 暫く対峙し続けたブラッドウルフに追尾型する風の刃を放つ。

 ブラッドウルフは回避行動を取るために距離を取り駆け回る。しかし、追尾する風の刃は一度ロックオンした獲物は逃がさない。


「GYAAAAAAA」


 再度四肢を飛ばされるブラッドウルフは悲鳴を上げる。


「お前が操れるのは血だけだろう?これならどうだ『ヒートウインド』」


 四肢を失ったブラッドウルフの胴と頭を高温の風が包み込む。


「思いつきで使ってみたけど、うまく発動したかな?」

《問題なく発動しています。現在の風の温度は130度です》


 血を操るならその血を無くしてしまえばいい。血は水分が大半だからな。


「GYAAAAAAAAAAAAAA」


 ブラッドウルフは四肢をもがれたときより声を上げて苦しみ出す。

 まあ130度なんて熱すぎて俺は触れたくもないけどね。



 熱さに悶え苦しむ狼を暫く放置していると、やがて上げ続けていた悲鳴も途絶えた。


《・・・ブラッドウルフの死亡を確認しました》


 厄介だったが遂にブラッドウルフを倒したようだ…。


「そういえばフィーアは大丈夫かな?」

「大丈夫ですよ、ご主人様」


 呟いた俺のそばにフィーアがやってきた。


「あの、申し訳ありませんでした…。それと、ありがとうございます」

「あの状況で生きていると思わなかったから仕方ないよ。それにフィーアが無事でよかったよ」


 そう言ってフィーアの頭を撫でる。確認を怠った俺の責任もあるしね。


「ユイもありがとう」


 ユイの頭も撫でてあげる。回復だけとは言えブラックウルフとも闘った後だからね。


「どういたしまして。でも、もう限界よ…」


 どうやら魔力をほぼ全て使い切ったらしい。限界と言った所でその場にぺたんと座り込んだ。


「二人共お疲れ様」


 こうして、俺たちの目標だったブラッドウルフ討伐が完了した。


ここでブラッドウルフ戦、1章が終了です。

次の話から2章に入ります。

2章もよろしくお願いします!

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