ユイの過去と新しい仲間
「それは、この子が何故奴隷になったかということです」
フィーアはユイが奴隷になった理由を確かめたほうが良いという。成程、確かにユイが奴隷になった理由次第では彼女を買うことはできない。例えば犯罪を犯していた場合だ。万引き程度なら許容範囲かも知れないが、殺人を犯していた場合は流石に難しいだろう。
因みに、この質問に対して嘘をついていた場合も購入を考える材料となる。奴隷になった理由なんて奴隷商の老人に確認すれば一発でわかるのだから。
「私が奴隷になった理由ね…。良くある話だけど、私はとある貴族の末妹でだったの。でも、父の領地経営がうまく行かなかったみたいで、私を売ったお金で補填したってわけ。それに、食い扶持が一人分減ればそれだけ家に余裕ができるのよ。田舎貴族の娘が一人消えたくらいじゃ誰も不思議に思わないからね」
ユイは元貴族であり、親が犯したミスの尻拭いと人払いの為に奴隷商に売られたと言っている。一応貴族の娘であった為に、そこそこの値段で売れたとか。
「そう…なんですね…。両親に売られてしまうのは辛かったんでは?」
フィーアは完全にユイの言い分を信じた様で、ユイの過去に同情をし始めている。フィーアさんチョロいっす。
「そんなことないわ。実家にいたときも私は居ないのと同じ扱いだったから」
ユイは貴族の娘と言えばいい響きに聞こえるが、実際はユイの父は田舎の土地を持っているだけの貴族であり、母はユイの父が偶々手を出した女性だったらしく、家族の中でユイの母とユイの扱いは奴隷と変わらないものだったとか。
「食事もここに来てからのほうが食べれてるわね。母様は心配だけど、あの人も自分が生きるのに精一杯で私を売ることに賛成していたくらいだから…」
貴族であるが、父と母から見捨てられて奴隷となった少女、それがユイである。
「そんな事情で奴隷になってしまったのであれば仕方ないな。それなら、君さえ良ければ俺達と一緒に来るかい?」
自らの非で奴隷になったのでないならフィーア的にも問題ないだろう。むしろ買ってあげてくださいという目で見つめてきている。いや、犬猫拾ってきた子供じゃないんだからさ…。
「本当?オークションに賭けられてよく分からない人のところに行くならあなたのところに行くわ」
ユイも俺達についてきてもいいと考えているようだ。
「それじゃあ、奴隷商にユイを買いたいことを伝えてくるよ」
そう言って俺とフィーアは老人の所へと向かった。
「奥から2番目にある檻に入っていた子が欲しいんだけど大丈夫かい?」
老人の元へ行くと早速ユイを購入したい事を伝えた。
「ああ、あの貴族の親に売られた子かい?あの子なら売れるよ」
老人の反応を見る限り、ユイが言っていた内容は真実らしい。
「そう、その子だ。いくらになる?」
「あの子は可哀想な子だからね。それに、あんたらはクリスの知り合いじゃろ?あの子を少しでも幸せにしてくれるなら割引させてもらうよ」
老人がそう言って提示してきた額は80万バルだった。
「奴隷を買ったことが殆ど無いが、この値段はかなり安いんじゃないか?」
人一人の値段としては安いのではないか?勿論犯罪奴隷であれば安いのは理解できるが、仮にも貴族の娘がこの値段である分けがないだろう。
「この金額は彼女を仕入れた時に彼女の父親に払った金額だね」
つまり原価だ。それでもユイを仕入れてからの食費等の維持費は入っていないのだから破格であろう。ユイは80万バルで売られたのか…。ユイが家でどのような扱いだったのかよく分かる値段だ。
「もう引退するのにふっかけて儲かっても仕方ないからの。それに、オークションで売ったとしてもあの子がその値段以上になるとは限らないからね」
貴族の、それにスキルを把握できていない少女なんて大した金額にはならないのだろう。
「そういうことならありがたくその値段で買わせてもらうよ」
老人にお礼を言いながら支払いを済ませるとユイのいる檻に再度やってきた。
「ユイ、君はこれから俺の奴隷になる。これからよろしくな」
ユイに購入した旨を伝える。
「本当に私を買ってくれたんですね。ありがとうございます」
そう言うとユイは土下座をしてお礼を言ってきた。
「そんなに畏まらなくてもいいよ。俺はケイっていうんだ、これからよろしくな」
ユイに自己紹介をしながら、彼女を檻から出した。
暗い檻の中から出てきたユイは腰に届かない程度に伸びている真っ赤な髪に同じ色の瞳を持っていた。檻の中にいる時は暗くてよく見えなかったが、顔立ちは実年齢よりも幼い感じがする。身長はフィーアより少し小さいくらいで、体は痩せ細っているが食事をしっかり取り、脂肪をつければフィーアに負けない美少女になるであろう。やせ細っている今でさえ美少女と言える顔立ちをしているのだから。
「わたしはフィーアです。ユイさんよろしくお願いします」
「ケイ様とフィーア様ですね。よろしくお願いします」
「わたしも奴隷なのでそんなに畏まらないで下さい」
フィーアがユイに自信も奴隷だと伝えた。
「そうだったのね。これからよろしくね、フィーアさん」
フィーアとユイも仲良くできそうだ。
そのまま檻の前で奴隷契約を行い、ユイは正式に俺の奴隷となった。
「それじゃあその子のことよろしく頼んだよ」
店を出る時に老人からユイのことをよろしく頼まれた。頼まれなくても大切にするから大丈夫だ。
「今日は宿に泊まる予定だけど、宿に行く前にユイの服装を整えようか」
俺達は店を出るとクリスティーナの店に向かっていた。
「奴隷の私に服を買ってくれるの?」
「ご主人様は優しい方ですよ。奴隷のわたしにも優しくして下さいますから」
直接言われると恥ずかしいな。
「そういえば、俺達は冒険者をやっているけどユイはどうしたい?」
ユイには光魔術があるから戦おうと思えば戦えるけど、無理をさせる気はない。
「冒険者ね、私のスキルがわかれば良いのだけれども。スキルが分からないから今から剣や槍を覚えるしか無いけど、流石に今から剣や槍を覚えるのは難しわね…。いえ、それならいっそ弓なら…」
どうやら戦いたく無いという訳では無いようだ。
「ユイちゃんも冒険者として一緒にたたかってくださるのですか?」
フィーアもユイが一緒に戦えるとは思っていなかったのか、驚いているようだ。ユイのスキルのことを伝えていないからそれはそうか。
「ご主人様とフィーアさんが戦うというのに私だけ安全な所で待っていたり、見学している訳にはいきませんもの。私に何ができるかわからないですけどね」
ユイは一人だけ戦わないという選択肢を持っていなかったようで、自分にできることをやりたいと言ってくれている。
「ユイも戦ってくれるのか、ありがと。因みに、ユイのスキルなんだけど光魔術と状態異常耐性がそれぞれレベル1、歌唱がレベル3だよ」
ユイに先程確認したスキルを伝える。
「え?もしかしてご主人様は高度な鑑定スキルをもっているの?」
自分のスキルをいきなり言われたユイは困惑しているようだ。他人のスキルを見れるようになるのはレベル8からだからな。そのレベルの鑑定を持っている人はそうそういないのだろう。因みに、ブラッドウルフのスキルでわからないものがあったら困るので、今日の特技生成で鑑定スキルを上げてあるから今の鑑定スキルはレベル9になっている。
「ご主人様は色々できる素晴らしい方ですよ」
フィーアが目を輝かせながら俺のことをユイにすごく簡単に説明した。それが説明になっているかは分からないが…。
「そ、そうなの。それで、私のスキルだけど…、光魔術と状態異常耐性と歌唱だったかしら?」
「そうだよ。光魔術があるから無理に武器を持つ必要は無いと思う」
光魔術は光属性の攻撃魔法を使える他に回復魔法もつかえるスキルだ。回復魔法を使えるのは光魔術の他に水魔術スキルだけらしいし、光魔術の方がバリエーションや回復量が高いらしい。
「そうね、光魔術があるなら私も戦えるわ。私も冒険者として一緒に戦いますよ、ご主人様」
これで一緒に戦う仲間にユイが加わった。明日ギルドに行ってパーティー登録しないとね。それと、ブラッドウルフの件も今夜宿で伝えようかな。
そんなことを考えていたらクリスティーナの店の前にたどり着いていた。
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高木 京 (タカギ ケイ)
種属:人間(転生者)
冒険者ランク:B
パーティーランク:D
装備:火鼠のローブ
所有スキル
ユニーク:特技生成Lv--、案内者Lv--、個人魔法Lv--、消費削減Lv3、特技再使用Lv-、特技転送Lv-、物理魔法Lv-、育成魔法Lv-
コモン :魔術構築Lv-、鑑定Lv8、収納Lv1
フィーア
種属:人間(奴隷)
パーティーランク:D
装備:ミスリルの槍、ウォータードラゴンの鎧
所有スキル
コモン:槍術Lv6、魔槍術Lv1、料理Lv1、水魔術Lv1
鑑定不能:???
ユイ
種属:人間(奴隷)
所有スキル
コモン:光魔術Lv1、状態異常耐性Lv1、歌唱Lv3
新しいヒロインユイをよろしくお願いします。
今年も残り少ないですが、異世界スキルを読んで下さいありがとうございます。
また明日も投稿予定なので、お楽しみにしていて下さい。




