ライバル出現です!?
「盗賊ガンボ、ですか?」
「ええ、最近この国を荒らしている盗賊ですね」
俺はエルフィナさんと仕事の受付票のやり取りをしながらその名前を聞いた。
今日のギルドはいつにも増しての混雑ぶりである。しかし、意外にも仕事の受付表は残っており、俺でもそれなりの仕事を受け付けてもらうことが出来たのだ。
その原因を聞くと、その盗賊ガンボとかいうやつが原因らしい。
「でも、そんなにすごいやつなんですか?」
「ええ、なんでも話では隊商はおろか、銀行の荷馬車まで襲っている上に神出鬼没。何匹もの強力な魔獣を操り王国軍すらも寄せ付けない。
手下は千を下らず、奪ったお金は小国のそれにも匹敵するとかっ」
彼女はもっともらしく、途中で語尾が興奮しながら熱心に語る。
「でも、それと仕事が余っているのとどう関係があるんです?」
そう返すと彼女は立てた中指を揺らしながら、
「ガンボに掛けられた懸賞金って知ってます?」
「いや、知らないですけど…」
「これを見てください」
と、彼女はガンボの懸賞金の書かれたポスターを見せてくれる。
それを見て、俺は思わず声を上げる。
掛けられた懸賞金は日本の価値にして五千万。中々の高額懸賞金といえる。
しかし、この程度はそこそこ見かけるレベル。そこまで盛り上がるような数字でもない気がする。
俺のそんな顔を見てか、彼女は思わせぶりな顔である。
「今日、その懸賞金が二倍になったんです」
とすると一億か。
結構な金額になってるな。それならこの盛り上がりもわかる気もするが、
「それにね、まだあるんですよ」
「はい?」
「なんと、ガンボの蓄えた財宝の一部ーーー総額の半分が手に入るんですよ!!」
「…どれくらいの額です?」
「ガンボが蓄えた財宝は小国の財産より多いらしいです。つまりーーー」
彼女が示した数字はざっと二十億。
それの半分も手に入るのか。
「しかも、非課税!!」
「非課税?」
「そう、非課税!!」
つまり、十億まるまる手に入る計算。
そりゃ誰でも目の色変えるわな。
「そのガンボが次に狙うのはこの町からの銀行の荷馬車って言われてるんですよっ」
彼女の言葉は鼻息荒い。
確かに十億のチャンスが目の前に転がっているとなれば、普通の仕事なんかおっぽり出すわな。まあ、そのおかげで俺は割のいい仕事にありつけるのだが。
「でも、あんまり俺には関係ない話ですかねー」
「そうね、アンタには関係のない話ね」
なんか、険のある、というか嫌味たっぷりの言葉が返ってきた。
その言葉の主は滑らかにウェーブの掛かった金髪を腰まで蓄えた少女。赤い騎士風のドレスを動きやすくひざ上のラインでカットしている。
その足を隠すようにか、それとも脚線美を強調するようかの白い長タイツ。
大き目の青い瞳が気の強そうにやや吊り上がっている、かなり高飛車な感じの少女。
が、それに対する違和感は気のせいではない。
「……何よ」
彼女はかなり背が低かった。
エルフィナさんは結構背が高いほうだが、カトリナよりも明らかに低い。顔や雰囲気からして俺と同じか一つ小さい程度だろうが、背の方はもう。
「…アンタ、今わたしのこと背が低いって思ったでしょ?」
こっちを睨むように見上げてくる少女。どうやら自覚はあるらしい。
「---まあいいわ。アンタなんかどうせわたしとはレベルが違う人間なんだし」
嫌味たっぷりに鼻を鳴らす少女。唐突な嫌味にちょっと話についていけない。
「全く、あの人が言った通りね。
低レベルでスキル地図作成のみのへぼ勇者。いや、勇者以下の一般人だったっけ?」
含み笑いと共にこっちを小ばかににしてくる。しかし、言ってることは適格だから言い返しにくい。…まてよ。
「あんた、一体俺の事をーーー勇者失格の糞野郎とか、クソスキル一つの蛆虫以下のカス冒険者ってことを何処で知ったんだ?」
そう、俺は彼女のことを知らない。それに、スキルの事は一般には俺のスキルについては知られていない。あんまりにもショボ過ぎて。
「い、いや、そこまでは言ってないけど……。
まあいいわ。アンタ、アウナーデ公って知ってる?」
それを聞いて俺は思わず眉を顰めた。
アウナーデ公という名はよく知っている。それこそ嫌になるほど。
「その様子じゃちゃんと分かっているみたいね」
彼女はいやらし気に俺を見下す。まあ、身長は足りてないわけだが。
「アウナーデ公イリアスが言っていたわ。
勇者の中でも飛び切りの欠陥品がいる。そいつは人から見下されようが何されようが口答え一つ出来ない、女一人寝取られても何も出来っこない臆病者だってね」
「ーーーーーっ!!誰が勇者の中で万年いじめられっ子でグループ作りの時に毎回ハブられて、「おーい誰かこいつと組んでやれよー」って担任に半笑いで晒し挙げられるクソミソゴミ人間だと!!!?」
「そんな事誰も言ってないでしょ!?つか、アンタそんな事までされてたの!?」
「言いすぎですよ、モニタ」
俺たちの間に入ったのは、モニタと呼ばれたその少女の後ろに控えていた執事。黒髪を短くそろえ、黒縁の眼鏡に柔らかそうな笑みーーー人と状況によってはさぞ慇懃に映ったことだろうな。
「彼にもプライドというものがあるのです。それを素足で踏みにじるような真似は」
「なんか、半分くらいはこいつの自爆な感じもするけど…。
まあいいわ、今日はアンタの顔を見に来ただけだから。---どんな間抜け面をしてるのかね」
「---っ!」
俺が何か言い返そうとするが、
「失礼。主人は大変口が悪い。その無礼、従者の私、このオルトが代わってお詫びします」
深々と大仰に頭を下げるオルトと名乗った従者。そうされると何か言い返しにくいが、何か馬鹿にされた気がしないでもない。
「じゃあ、行くわよオルト」
踵を返すモニタ。
「---ああ、そういえばまだ名乗っていなかったわね」
彼女は思い出したように足を止める。
「わたしの名前はモニタ。イシュルマーデ公の一門よ。せいぜい覚えておきなさい」