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はじめてのほうしゅうです!

賊は風上からゆっくり迫ってくる。


一人、二人…やはり相手は十人。


途中、そいつらは二手に別れ、こちらを包囲するように動きを変える。


一方が大きく後ろに回り、一方が半月型の陣形を取りながら迫ってくる。


さて、どうするか。


このまま相手を遠距離から倒してしまった方が得策か。


俺が手にした石の礫を放とうとした時だった。


「う…、



いやああああああああああ!!!」


その瞬間、草原がぱぁっと昼間のように明るくなった。


原因はカトリナ。


彼女はその緊張に耐えられなかったのか、手にした魔法用の杖で顔を背けながら魔法を放っている。


バンバンバンと打ち上げ花火を水平発射するがごとく放たれる魔法の火球。


テンポよく、ピッチングマシーンから放たれるボールよろしく次々と放たれていく。


またその一つ一つが大きいのだ。


水平発射される花火の如く、といったがそれは比喩ではない。爆発範囲からその直径まで、色鮮やかな爆発が夜の草原を彩っていく。


「来ないで来ないで来ないでぇぇぇ!!」


当の本人は目をつぶりながらしっちゃかめっちゃか打ちまくってるし。


もはやその様子は地獄の花火大会。地獄の鬼も逃げまくる恐怖の花火連打だが、


ひゅっ!


一発の矢が後ろから飛んでくる。どうやら後ろから回り込んできた連中が慌てて打ったようだ。的を全然捉えられていない。


「あっ…」


しかし、その一発で彼女は腰を抜かして座り込んでしまう。


自分に向けて殺意あるものが放たれた。それだけで彼女は怯え竦んでしまったようだ。


あれだけの火力を持ちながらも、そこは普通の女の子だとむしろ安心してしまうが、そうも言ってられない。彼女によって蒸し焼き状態にされた連中は大丈夫だが、まだ無傷の連中が半分残っている。


さて、ここからは俺の出番だな。


カトリナが腰を抜かしたのを知ってか知らずか、連中は勢い良く突っ込んでくる。


しかし、俺も奴らを活躍させてやる気はない。


ちゃりっちゃりっと手にした石が音を鳴らす。


そのうちの一つを選び、俺は一人の男の顔面に向けて振りかぶって投げつける。


それは正確に、あたかも石が男の顔面に吸い込まれるようにそのむき出しの鼻を狙い撃つ。


「うがっ!?」


最初に石で撃たれた男が悲鳴とともにもんどりうって崩れ去る。


「なっ!?」


仲間の男が驚愕の声を上げるが、そんなことをしていて良いのかといわんばかりに俺はそいつに向けても石を投げつける。


「ぶひゃっ!?」


横を向いた形になった男の頬にクリーンヒット。ああ、こりゃ何本か歯がいったなご愁傷様。


「えっ!?」


続けざまのことに驚く残り三人だが、ここで立ち直られるのも面倒だ。


俺はテイクバックを短くして、一、二、三とテンポよく石弾を投げる。


「おげっ!?」


「ぐえっ!?」


「ぐはっ!?」


テンポよく石が命中し、リズミカルに倒れてくれる野盗のみなさん。なかなかいいタイミングの悲鳴の上げ方だな。


最後はテンポを重視したのでちょっとコントロールが悪かったが、鉄の鎧をうまく凹ませて連中をノックアウト出来たのはいいことだ。


最後の男が倒れるのを見て、俺は温まりかけた肩を回しながらもう一度周りを確認する。


どうやら敵はいないようだ。


こうして、とても戦いと呼ぶことは出来ない一方的なその一幕は幕を閉じるのだが、


「………ふぇ」


隣ではへたり込んだカトリナの足元が少し面倒なことになっていたようだ。彼女の周りに広がったちょっと暖かそうな水っぽい何かの正体は彼女の名誉のために黙っていることにしよう、うん。


しかし、またその隣では、


もしゃもしゃもしゃ


この騒ぎにも動じず、馬が草を食っていた。


すげー根性だな、おい。




翌日、今度は無事に町へとたどり着いた。


彼女は無事に納品を済ませられた。その時、向こうも随分驚いていたし喜んでいた。「これで二代目は安泰だなー」って、それはまだ気が早い気もするが。


そのあと、やらなくてはいけない仕事が残っていた。それは、昨日襲ってきた野盗の皆さんを役所へご案内することだ。


俺にやられた奴らは元気に罵倒をまくし立てていたが、カトリナにやられた連中の方は、見事に怯えきっていたな。まさか、あんな風な仕打ちを受けるなんぞ夢にも思っていなかったんだろう。


それはともかく、ここで嬉しいことが起こる。


報奨金の受け取りである。


その金額の意外な多さに驚いていたのはカトリナ。


報奨金は日本の価値で言うと二百万程度にはなる。


二人で分けて一人百万程か。


彼女は「こんなにもらっていいんですか?」と目を丸くしていたが、どうやらこいつらは最近付近で暴れまわっていた連中らしい。


組織的に荷馬車を襲う連中で、警備の連中もなかなか手を焼いていたところに今回の確保。


役人にとっては大した手柄らしく、それに比べたら二百万なんか軽いものらしい。


そういえば、町に着くまでに荷物を崩していたのもよく見ればこいつらだったしな。似たようなことをいて荒稼ぎしていたんだろう。


そんな事件を解決しつつ、俺たちはカトリナの客に見送られながらその町を後にする。


今度は何事もなく、陽が落ちる前に町に帰り着くことができたのだった。





「へぇ、そんなことがあったの」


俺からの話を聞いてセルフィナさんが言葉を返した。


今回の仕事の話をしながら俺は酒場で夕食をとる。彼女が用意してくれていた夕食は結構豪華なものだった。


こんなに豪華なものは、と思ったが、彼女の好意を断るわけにもいかない。今回は初めての仕事のお祝いという事でこの食事をいただこう。


「でも、野盗が出てくるなんてねぇ」


と彼女が言うと、


「いや、大体予測できてましたから」


「そうなんですか?」


との声。その声はセルフィナさんの物ではない、最近知り合った少女の声。


「カトリナ?どうしてここに」


と聞くと、


「今日は初めての仕事のお祝いだからって、お母さんとご飯を食べに来たんです」


カトリナの後ろにはもう一人、女性の姿が見える。少しウェーブの掛かった長い髪が印象的な女性。カトリナのお母さんでラトリアさんだ。


「でも、何で野盗が来るなんて思っていたんですか?」


カトリナは少しむくれた視線でこっちを見てくる。


「いや、カトリナみたいな娘が護衛そこそこにあんな高価な荷物を持って歩いていたら誰でもそう思うぞ?」


そう返事を返す。


「何でですか?」


まだ彼女は納得がいかない様子だ。


「どうしてって、鏡を見てみ?」


と言うと、彼女は懐から化粧用の鏡を取り出して自分の顔を見てみる。


「見ましたけど?」


でも納得がいかないらしい。


どうやら彼女は自分がかなりの器量良しであるという自覚がないらしい。みたらお母さんも相当な美人。それだけでも人は寄ってくる上に高価な魔法道具の数々。これを野盗たちが狙わないはずがない。正しく鴨がネギをしょって歩いている状態だ。


「まあ、いいじゃないですか。今日はお祝いということで」


上手いところでフォローを入れてくれるエルフィナさん。


こうして俺の、冒険者としての初めての仕事は無事に終えられたのだった。


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