初めてのおしごとです!
「うーむ…」
俺は頭を抱えていた。
ここは冒険者ギルド。エルフィナさんの勧めもあって無事冒険者として登録したのだが、考えもしていないことがあった。
冒険者に登録されれば各地のダンジョンに挑戦できるのだが、
「まさか、そのために金が要るとは…」
そのための金とは、ずばり入場料である。
各地のダンジョンは冒険者ギルドが管理しているみたいなのだが、管理するということは当然にそこに費用というものが発生するわけで、その費用を賄うためにも入場料が必要というわけだ。
そして、その入場料が意外と高い。
上級ダンジョンともなれば、一般的な市民の年収くらいはざらで、中級でもかなりかかってくる。
初級、入門はそれに比べたらかなり安いのだが、そういったダンジョンに収入の足しになるようなものがあるとは思えない。なんせ、入門ダンジョンは行楽地の一つになってるくらいだし。
これで、俺の考えは根底から覆されてしまった。
俺はそこそこレベルも高く、エルフィナさんも「中級くらいなら楽に行けますよ!」って言ってくれたのだが、上級ダンジョンでないと稼ぎにならないのは明白だ。
仕方ない、ここはギルドに来ている依頼をコツコツこなすしかないか。
そうは言っても、ギルドの依頼も激しい奪い合いである。割のいい仕事は瞬時に受付票がなくなる。それを奪い合っての刃傷沙汰や裏取引まである。ギルドの登録手続きをしていたら、もう昼前。今更碌な仕事も残っていないだろうなぁ。
そう思いながら、仕事の受付用の掲示板を覗きに行く。
すでに受付表の数は少なく、内容も割に合わないものばかり。まあ、これじゃ誰も受け付けないだろうなぁと、その一枚を取ってみる。
「…ふむ」
俺は気になったその中の一枚を手に、エルフィナさんのもとへと向かう。
「あ、コーマさん。どうしましたか?」
そう聞いてくる彼女に、俺はその受付票を差し出す。
「えっ、この仕事を受けられるんですか?」
彼女が驚いたのも無理はない。その仕事の報酬は通常の四分の一程度でしかない。
しばし彼女は口を噤んだが、
「分かりましたっ。それじゃ、先方にお伝えしておきますね」
そういって早速、依頼主へと伝えに行ってくれる。
ようやく初めての仕事が決まった。
これが、俺の新たなる一歩の始まりだ!
そして、エルフィナさんに紹介された依頼主は、
「あ、あの、えっと、お仕事を引き受けていただいてありがとうございましゅっ」
最後のところ、噛んだな。
依頼主は俺よりも年下の女の子だ。緑色の髪をボブカットにまとめた、同じ翡翠色の大きな瞳が印象的な女の子だ。
彼女の名はカトリナ。町で道具屋を営んでいる少女だという。
彼女が依頼した仕事は、単純な護衛、まあ日雇いのボディーガードである。この町から少し離れた町まで荷物を馬車で届けなければ行けないのだが、このご時世、野盗や盗賊、魔物までもが現れる。町の外への配達となると護衛の一つもつけたくなるというものだ。
だが、彼女に報酬の低さを聞くと、どうやら父親が事故で亡くなったらしい。
そこで母娘二人で残された店を切り盛りすることになったのだが、跡を継いだばかりの母親が足元を見られて報酬を切り下げられてしまったようだ。
それでも、この仕事がこなせれば何とか信頼も戻るかも、と父親が残してくれた仕事を果たそうとしたのだが、どうにも手元に資金がない。
そこでダメ元で依頼を出したのだが、もしダメだったら彼女一人でも行くつもりだったらしい。
「でも、本当にこんなに安いお金で…」
と申し訳なさそうにするカトリナだが、
「いや、俺のほうこそ駆け出しの冒険者です。むしろ仕事をもらえてありがたいと思ってるんですよ」
そういうと、彼女は俺の手を取って、何度も「ありがとうございます!」と頭を下げた。
いや、こっちの方が頭を下げるべきかと思うけど、まあいいかな。