召喚の理由とスキル付与です!
「お願いです勇者様方、魔王を倒し世界をお救いください」
いや、そう言われても。
真摯な口調でそう語りかける彼女にそう心の中で突っ込んだのは何も俺だけじゃなかっただろう。
先ほど俺たちのクラスが飛ばされてきた空間、何か神殿のようなところだったが、怯える同級生たちを前に、彼女は俺たちにやさしく語り掛け、害がないことを知らせた。そして、まだ落ち着かない俺たちを日の光が温かい一室へと案内し、温かいお茶なども提供してくれた。
それに安心したのか、みんなも徐々に落ち着きを取り戻しはじめ、ここがどこなのか、やれ異世界だのチートだのそれぞれに盛り上がり始める。
そしてそんな中、俺は一人ぼっちである。ぐすん。
銘々が盛り上がる中、部屋の扉をとんとん、と小さく叩く音がし、カラリと静かに入ってきたのは先ほどの少女だ。
見れば、飛び切りの美少女だ。銀色の髪が美しい、翡翠の瞳を持った少女。白磁のように透き通った肌に絵画のように整えられた容貌。しかし、少しはにかめば、あどけない朗らかさがある。
「あの、みなさまよろしいでしょうか?」
彼女の透き通った声に一同の注目が集まる。
柔らかい絨毯に土足という日本では考えられないシチュエーション。ある生徒は腰を下ろして、またある生徒は立ったまま、それぞれ気楽な態度で彼女のほうに向いた。
「この度はこのような不躾なお呼び建て、誠にもって申し訳ありません」
彼女がそう言って頭を下げると、誰もがなんとなく許しそうになる雰囲気。
「しかし、皆様方選ばれし勇者の力によってこの世界を救っていただきたいのです」
小柄な体とは似合わない力のある言葉。それに呑まれてか、普段口うるさいクラスの女子たちも反論せずに彼女の言葉を聞いている。
「あの、選ばれし勇者って言っても、俺らには何のことだがさっぱり…」
男子の一人がおずおずと聞くと、彼女はにっこりと花の咲いたような笑顔で、
「それでは皆様、これから配るカードをご覧ください」
そういうと、お供の人が俺たちに何かのカードっぽいものを渡していく。
ほぼ全員にいきわたったところで、
「そのカードをご覧いただきますと、ある文字が浮かんできます。それが、貴方たちにもたらされたスキルです」
彼女の言う通り、しばらくすると何かの文字が浮かんでくる。日本語や英語、漢字ではない、見たことのない文字。しかし、それが何なのか、なぜか俺には認識できた。
それを見ると、クラス中はにわかに盛り上がり始めた。
「おいおい、なんだよ俺、”竜殺し”って」
「あれー、なんだ”聖剣使い”かよ」
「あたし”重力魔法”って書いてある」
「あ、あたしはねー・・・」
それぞれが与えらえたスキルについて盛り上がる中、俺はそっとカードを伏せた。
「ねぇ、コーマはどうなの?」
香奈がひょこっと俺のカードをのぞき込んできた。
「い、いや、大したものじゃ…」
俺は思わず自分のカードを後ろに隠す。
「えー、いいじゃない。見せてくれても」
何とかのぞき込もうとする香奈に隠しきろうとする俺。見たら香奈の奴、”聖女”と”剣士”、”神聖魔法”のスキルも持ってるじゃねえか、畜生。
「ねーねー、見せてよー」
「嫌だって…」
食い下がる香奈に粘る俺。この根競べにどちらが勝つかーーー、と思ってたら、
「あ、こいつスキル一個しかねーじゃん」
他の奴に見られた。
「しかも、地図作成って」
「なにそれ」
「そんなのおまけのスキルじゃん」
「そんなの一つって、さすが、クソマサ」
口々に放たれる悪口と嘲笑。死にたい。
「…あの」
俺は思い切って彼女に聞く。
「今から、俺一人でも帰るってことはーーーー」
その心からの請願に、彼女は笑顔で、
「ダメです」
あっさり拒絶。
鬼か。
ああ、クラスの連中からの罵声が聞こえる。
「あ、あのーーー」
誰かが何かを言ってきてるが碌に聞こえやしない。
「……………………はぁ」
谷より崖より深いため息。
俺の頭はこれからの生活のことで一杯になっていた。