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ひとつの事件のおわりです!

空に月が浮かんでいた。バルコニーから吹き込む風が心地よい。


今日は随分と疲れたものだ。


昼の諸事を思いだし、彼はグラスに入った酒を飲み干す。


さて、今夜は出来ればこのまま眠りにつきたいところだがそうもいかない。


夜には夜の用があるというもの。


彼はこれから行われるだろう雑事を思い、少しばかり気分を高揚させる。


ふと、気配に気づく。


やれやれ、この時間の事だとすると碌な報告でもないのだろう。彼は億劫な気分を押し込めながらそれに耳を傾ける。


「ガンボが討たれたそうです」


声には感情の起伏はない。しかし、そこには明らかな落胆があった。


「それで、後始末は?」


彼は飲み干したグラスに注ぐ新しい酒を選びながら聞く。


「…それが」


その声には明らかな躊躇がある。


「召喚士の方は自動魔法により処理されましたが、固定魔法の方は」


「そうか」


彼は報告を最後まで許さず、それを途中で切った。


彼は何気ない様子で酒を選んではいるが、影にはそれが何を意味するか理解できた。


「下がれ」


それだけ言うと、男は注いだ酒を片手にソファーにゆっくりと身を沈める。


気配は言い訳すら許されず唇を噛んで姿を消す。


ーーーそろそろ取り換え時か


彼は無能者に対するいら立ちを覆い隠すように一気に酒をあおった。




この日、俺は少し浮かれていた。いや、少しというくらいではない。大いに浮かれていた。


何せ、念願の報酬支払い日なのだから!!


あの後、盗賊ガンボ討伐の件はちょっとしたニュースになった。なにせ、あれだけ手を焼いていた盗賊がなんであれ討ち捕らえられたのである。この町でもその事でしばらく持ちきりだったくらいだ。


この世界にも新聞があり、当然の如く取材が来た。まあ、俺はモニタのお付きみたいな感じだったけど。それでもちょっとくらいは名前が売れたかな?


それに、何より楽しみが報酬である。前に聞いていた報酬は日本円でざっと一億円!それに、ガンボの隠していた財宝の一部、つまりこれまで奴が荒稼ぎした分の一部まで手に入る。その額ざっと十億円!!


もちろん、これは全部が俺の懐に入るわけではない。参加したメンバー全員で平等に分けるのが筋ってものだろう。


しかし、それでも一人頭二億円である。賞金そのものを足せば二億二千万!!


これで浮かれない者がいようか、いや、居るはずがない!


俺は今やまだかと楽しみに知らせをギルドに備えられた酒場の一角でワクワクしながらまっていた。


と、そこに待ち人来たり。この事を知らせにやってきてくれるのはエルフィナさん。さぞ彼女の顔もほくほくであろうとーーーー


「------」


何故だ。彼女の顔が暗い。


な、なんか嫌な予感がしてきた…。


「---ないんです」


…えっ?


「報奨金と財宝の取り分、でません」


「……あ」


俺は思わず耳を疑った。


「あの、それーーー」


俺は困惑しながら聞くが、彼女はもっと泣きそうになってる。


二人して顔を見合わせ、何か言おうにも言葉にできず時間だけが過ぎていく。


間の抜けた金魚のように口をパクパクするばかりでどうしようもない。


一体全体、なんでそんなことになったんだ。


「あいつらがガンボ自身じゃなかったってのが原因ね」


言いながら来たのはモニタ。


「どういう事だよそれ」


何か噛みつこうにも元気も出ない。おう、さすがに震えてきた。


その様子をみながら、彼女は神妙な面持ちでゆっくりと話し始める。


「あの時、あたしたちは奴らの基地に乗り込んで盗賊をほとんど捕縛したわよね」


「……ああ」


あの後、俺たちは転がっていた盗賊を改めて捕縛しなおしその数を確認した。


蓮本が召喚獣に食わせた一人とその後魔方陣に吸い込まれた蓮本以外の全員をちゃんと捕まえたか確認し、結果、全員の確保を確認した。


その後、基地になっていた洞窟内を捜索したのだが、まあかなりの金貨の量が出てきた日本円にして十億はありそうな金貨に宝の数々。


よくもまあ、これだけため込んでたものだと感心したが、これ以外の基地やアジトもありそうで、総額は幾らになるかわからない。


それと驚いたのは洞窟の一部に近衛下が固定魔法で捕まえたもののコレクションがあったことだ。


それは普通の動植物など存在せず、強力なモンスターの類も多い。それこそ火炎竜やビッグベアと呼ばれる巨大かつ強力な魔獣が取り取りにそろっていた。


そしてもう一つ驚いたのは人間のコレクションも多かったことだ。人間だけでなく、獣人からエルフまで揃えてある。若い女性や熟女といったものまで多くあり、こいつが何の犯罪に手を染めていたのかの格好の証拠であり、ついで大量の行方不明者の発見にも繋がったのは何とも皮肉だった。


そんな事に救世主たる勇者が関わっていた、というか主犯の一人だということになれば王国のメンツどころではない大問題である。


だからこそ闇に葬りたい事件ではあるかもしれないのだが、全く支払い0ってどういう事?


「この事件の討伐対象ってガンボよね?」


「…そうだけど」


「あたし達は確かに盗賊団は撃破したし、その時の資料からこの盗賊団がガンボの活動を引き継いだものだってことも分かっている」


そこまで言って、彼女は少し寂しげに笑う。


「でも、あたし達はガンボそのものを捕らえたのかしら?」


「…え?ちょっと意味が分からない」


「アンタの言い分も分かるわ。だって、あの時点でガンボ本人はこの世にいない。---内部抗争か何かであの二人か、それとも別の誰かに消されたか。それは分からない。でも、あたし達はガンボそのものを捕まえたわけじゃないのよ」


成程、そういうことか。王府はガンボそのものを討伐しろと言っていた。だからその活動を受け継いだ連中を幾ら捕まえたとしても報酬の対象にはならないというわけだ。


その事を理解した瞬間、俺はマジでガクッとうな垂れた。おう、マジで立てねぇ。


それを見てかどうかは分からないが、モニタはいつもの憎まれ口とは違う殊勝な態度で従者から受け取った袋を俺がうな垂れているテーブルの上にゆっくりと置く。


開けてみろというので中身を確認してみると、中には結構な額の金貨が入っている。多分、百万はあるぞ。


「いいのか、これ?」


思わず俺は聞いてしまう。いくらこいつがいいとこのお嬢様だって言っても、この額は流石に。


「いいんですよ」


オルトは優し気な声で言った。


「それは私たちがあなた方に支払うべき正当なる報酬です。


今回の事件では、多くの金融機関が襲われ直接の被害やそれを避けるために多大な費用を被りました。


我々としても被害は決して少ないものではなく、もし今回の討伐に失敗していようものならこの何十倍、下手をすれば何百倍もの被害を被ったのです。


それを未然に予防してくださったのです。我々としては報酬を支払うべき義務があるのですよ」


そう言ったあと、エルフィナさんにも同額程度入った袋を手渡す。


彼女は受け取れないと一度は拒否するが、それでは私が主人に叱られるというオルトに押されて強引に手渡されてしまう。


エルフィナさんはそれでもまだ躊躇していたが、折角の好意を無駄にすることもない。ここはありがたく受け取ることにしよう。


俺はモニタとオルトに礼を言うと、それを確かに受け取った。二人はそれを見て安心したように微笑むと、彼女はいつもの調子に戻る。


「ところで、あいつの事なんだけど」


「あいつって、例の?」


あいつとは当然、近衛下の事だ。


何故、勇者として旅立った筈のあいつらがこんな所で盗賊家業に精を出していたのか。聞きたい事は幾らでもある。


その話を振ったとき、モニタは少しバツの悪そうな顔をする。


「あいつなら、死んだわ」


「死んだ?」


「ええ」


俺はそうか、と小さく返した。何となくそうなる風には感じていたからだ。


「表向きは、病死って事になってるけどね」


確かに、異世界からの救世主が盗賊やっていて死にましたじゃいくらなんでも恰好悪いしな。


「あれは、殺されたのよね。結構、無残に」


俺がその話を聞くと、彼女は頭を少し掻きながら答える。


近衛下の死体は、王府の教会に吊るされていたらしい、口から喉を槍で貫かれた状態で。


死体の状態はそれほど経ってはいなかったようだが、その暴行の後はは凄まじかったようだ。骨という骨は砕かれ、四肢の関節は生きていればあり得ない方向に曲げられていたらしい。


肉の所々が焼けただれ、顔面のものも大きく本人の判別が難しいくらいの傷だった。


それほどまでの私刑に誰がかけたのか。


いや、誰が彼を引き出して暴行を加えたのか。


「まあ、大体目ぼしは付いているんだけどね」


モニタは詰まらなさそうに頬杖を突きながら言う。


確かにそうだ。逆にそこまでできる人間は絶対的にいない、ごく限られた者になるからだ。


おそらくはこの事件の口封じに殺されたのだろうが、それにしても方法がお粗末に過ぎる感じもする。


それでも一応はクラスメートだ。一応は冥福を祈ってやるか、一応は。


「それじゃ、そろそろ行くわね」


「ん?ああ」


随分と喋りこんだとゆっくりと席を立つモニタ。まだこれから回るところがあるという。


それじゃ、と背中越しに手を振る彼女にこっちも手を振ってやる。


「あ、一つ忘れていたわ」


モニタは踵をくるりと返し、


ちゅっ


俺の頬に軽く口づけをした。


「はい、これでおしまい」


彼女はいたずらっぽく笑うと、今度こそ立ち去ってーーーいけなかった。


「な、なんなのよ今のは!?」


今の行為に猛然と抗議するエルフィナさん。


顔を真っ赤にする彼女をあしらう様に笑い、


「あらぁ、何怒ってんの?」


いちいちそこで煽るんじゃない。


「だったらあんたもしてみればいいじゃない?」


その声に、はっとしたエルフィナさんの表情。


彼女は俺の顔を両手でがしっと掴むと、


「コーマさん!」


「は、はいい!!」


「あ、あたしとキスをしぐわぁ!!?」


血走った彼女の後頭部に盛大な突っ込みを入れるモニタ。


「何すんのよ!?」


「誰がそこまでやれっていったのよ!?」


「あんたがしろって言ったんじゃない!?」


そこで始まる二人の喧嘩。それを見ながら従者は楽し気に笑っている。


今日は平和だなぁ。


俺は体を伸ばしながら、呑気にそう思った。


この先どうなるか分からない。


でも、とりあえずはこの生活を楽しむかな


(終)

ここまで読んでいただきありがとうございました。

また、いつか続きを書ければと思います。

本当にありがとうございました。

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