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チート勇者さまをやっつけます!

部屋の中に充満する白煙。それに視界を奪われた勇者の一人、近衛下が怒鳴り声を上げる。


「くそっ、前が見えやがらねえ!?どこ行ったクソマサ!!」


俺の放った煙幕弾は効果が薄い一時しのぎかと思っていたが、どうやら二人には効果覿面だったらしい。


未だにこっちの姿を捉えられず、きょろきょろと姿を探している。


思ったより上手くいくかもな、そう思いながら、更に予備の閃光弾をお見舞いしてやる。


焦りながらこっちをその場から動かずに探している、二人の足元に転がる弾が一つ。


視界の悪さも重なってそれに全く気が付かない。やれやれ、注意散漫な奴らだ。


ーーー3、2、1


カッ!


閃光弾が弾け飛ぶ。中からあふれた光に足元から照らされ驚きの表情と共に完全に注意が奴らの足元に向く。


今だ!


俺とモニタはソファーの陰から一気に飛び出す。狙うは奴らの首一つ。


「わ、わわわっ!?」


俺、いやむしろモニタの勢いに気づき、反射的に近衛下が固定魔法を放つ。


「---ぐっ!?」


強力な魔法の波動が彼女を襲う。その影響で空間すら歪むような感覚に陥らせる強力な波動。


その感覚にたじろぎながらも彼女の勢いは止まらない。先ほどかけておいた対抗魔法が威力を発揮する。


強力な魔法を突破してさらに近衛下に迫る。が、


うにょん


あいつの足元から伸びた何かーーーあれは、影か!?


「な、なに!?」


恐らく、近衛下が意識して放ったものではない。あいつは既に腰を抜かしてへたり込んでる。それなのに、伸びた影はモニタの足に絡みつき、体を縛り上げるように絡みついていく。


足元から絡みつく黒いゼリーのようなものーーー近衛下の放った影に拘束され身動きが取れない。


「うっ、くっ、このっ!?」


体を動かし、何とかへばりつく影を払おうとするが、もがけばもがくほど体を締め上げていく。


それが隙となる。


モニタの横に展開される魔法陣。そこから這い出るように突き出されたのは龍の咢。開かれた口に溜められるエネルギー塊。


それを見た彼女の顔が驚きと恐怖に染まった時、俺の放った礫が龍の喉を打ち破る。


打ち抜かれた龍は発射寸前のエネルギー塊と共に魔法陣を崩壊させながら消滅する。


しかし、それで安心できるわけではない。同じような魔法陣が一つ、二つ、いや更に速いペースで次々と展開されていく。しかも、そのどれもに強力な魔獣が潜んでいるのだ。


「くそ!?」


俺は次から次に礫を放ち魔法陣を破壊していくが、キリがないぞこりゃ!?


これほど大量の魔法陣生成も、蓮本が意識してやってることではない。あいつ自身、緊張で目が泳いでるのがここからでも分かるし。


なら、この大量の魔法陣は何なんだ。まさかこいつを守るための自動能力かよずるい。


俺の怒りを込めた礫の一撃が蓮本の顔面に突き刺さる。


ガンッ!と小気味いい音を立ててもんどりうつ蓮本。ざまみろ。


それに釣られてか、モニタを縛る影の力が一瞬緩む。


「---フッ!」


短い気合と共に剣を振るい、まとわりつく影を振り払い、縋り付こうとするものも切り伏せる。


邪魔のなくなった彼女が見据えるのは、近衛下。


「ひぃっ」


情けない悲鳴を上げ、それと共にあいつを守るように影が広がる。まるで、卵を守る殻のように。


しかし、それはもはやモニタの剣の前では何の役にも立たない。


放たれた剣閃が影の殻ごと近衛下を切りつける。一瞬抵抗した影は破裂した風船の散り散りになり空に消える。


「あ」


その声とも呟きともとれないものを発したのが最後だった。体の中心に衝撃波が叩き込まれ、情けない崩れた顔のまま、床にどうっと倒れる。


うつ伏せに倒れた顔から流れる大量の血。


それを見た蓮本は顔を青ざめさせ、おもむろにこう叫ぶのだった。


「ひっ、




ひとごろしいいいいいいいいいいっっっっ!!!」


今さら何言ってるんだこいつは。


「あんたねぇ…」


モニタも頭痛を抑えるように頭を押さえている。


「大体、あんただってさっき盗賊の一人を殺したじゃない」


ずばりそのものの指摘を受けるが、


「ち、ちがう!!あれはあいつが悪かったんで俺は本当は殺したくなかったし!!」


じゃあ殺すなよ。


「それに、これまでの襲撃事件でも何人も犠牲が出てるのよ。それについて、あんたはどう思うわけ?」


さっきより言葉に怒りがこもったモニタ。


「ち、ちがう!あれはアルハンブラがやれって!!?」


「---アルハンブラ?」


思わぬキーワードを聞き、思わず反芻するモニタ。蓮本もしまったと悔やんでも悔やみきれない顔をしている。


「で、どうするのよ」


彼女は感情を押し殺した目でこいつの顔に切先を突きつける。ひとつ間違えればそのまま剣が喉元に吸い込まれそうだ。


「---俺は悪くねえ」


ぎりっと歯を食いしばる音が聞こえる。


「俺は悪くねえ!!!!」


言葉より早く、いつの間にか開かれた魔法陣から光が放たれる。


「しまっーーー」


今度はこっちの視界が焼かれる番だ。思わず目の前が真っ白になる。


「---くっ!?」


この隙をついて蓮本は一目散にホールから逃げ出す。


「逃がすか!!」


俺はその後をすかさず追おうとするが、


「あ、ちょっと待って」


と何故か呼び止めるモニタ。


何の用かと思えば、近衛下の体をごろんと、足で仰向けにする。


「こいつ、どうするの?」


無様な姿を晒す勇者様のお一人に向かってぞんざいな言葉を投げつける。


「そうだな、とりあえず簡単に縛っておくか」


手際よく両腕を後ろ手に縛る。これで簡単には動けない。


そう、近衛下は死んだわけではない。モニタの一撃を食らって気絶して倒れただけだ。その際、華と前歯が折れてそれなりに出血したから見間違えたのかもしれないが。


「よし、それじゃ追おう」


下手したら他の連中と合流するかもしれない。面倒なことになる前に追いつけるか。俺たちは急いで蓮本の後を追った。




「はぁ、はぁ、はぁ…」


久しぶりの全力疾走に少年は思わず息を切らした。まさかこんな事態になるとは。


自分たちはこれまでも、いや、これからも安全な場所から退屈な仕事さえこなしていればそれでいいはずだった。なのに、何故。


思い出しても腹が立つ。しかし、今はとにかく逃げ切るのが先決だ。


が、目の前には三人の人間が立ちふさがっていた。


「ひっ」


思わず情けない声を出して後ずさる。そのさい、足がもつれてしりもちをつくが、起き上がろうにも足が竦んで動けない。


「あら、どうなされました?」


一人の女性、いや少女がそれに気づき、優し気な声で語りかけてくる。


怯え竦んだ表情の蓮本。震えて上手く言葉も出せない彼を安心させるように、そっと頭をなでる。


「かわいそうに…余程怖い目にあったんですね」


思わず自分より年下の少女にしがみ付いた彼を見て、別の女性が気の毒に、と彼を慰める。


「何せ凶暴な盗賊の棲み処ですからね。捉えらえていた人がどのような事をされていたのやら…」


やや背の高い黒髪が相槌を打つ。


「とにかく、こちらも盗賊が一掃出来たのです。早々に合流しなければ」


一掃?合流?


その言葉を耳にして、彼の顔色はますます青白く冷めていった。


「どうなされました?」


心配そうに聞く彼女の声も耳に入らない。彼は勘違いしてたのだ。彼女たちは救い主などではない。自分にとって敵だ。あいつらの仲間だ。


それに気づき、ますます体が震える。動悸がし、息が切れる。


「だ、大丈夫ですか!?」


様子の急変に思わず慌てる三人。


「と、とりあえず回復魔法を」


誰かが何かをしたようだが、そんなもの全く彼には感じられない。とにかく、何とかここを脱出しないと。


待てよ。


彼にある考えが浮かぶ。


今、この三人は俺がこいつらの敵だとは分かってない。それどころか慌てて治療までしようとしている。


これはチャンスではないか?


そうだ、こいつらを人質に取ってしまえばあいつらも手を出せないはずだ。彼は反射的にそう判断すると、三人を拘束するべく魔法陣を展開する。


展開した、筈だった。


「あ、あれ!?」


魔法陣が、展開しない。


「どうしました?」


少女に聞かれても、彼は情けない顔で口をぱくぱくと動かすのが精いっぱいだった。


「あの、大丈夫ですか本当に?」


ますます青ざめる顔を見てもう一人の女性も心配そうに顔を覗き込んでくる。


「うっ、うわああああああ!!?」


それを見て、しがみついていた少女から反射的に飛び離れる。


「もう一度、安定化魔法を使った方が良いのでは?」


黒髪が心配そうに二人に相談する。


ーーー安定化魔法?


精神安定化魔法。それは情緒不安定なものや錯乱状態の者を治療するために使われる魔法。副作用として、一時的な魔法行使の停止。


「ああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!?」


彼は絶望のあまりに発狂した声を上げた。


「ど、どうしました!!?」


少女が涙目になりながら聞いてくるが、彼には何も届かない。


「いやだあああああああああああああああ!!!!くるなくるなちかづかないでくれえええええええええええええええ!!!!」


その変貌ぶりにまるで手が付けられない。


「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいやあああああああああああああああああああああ!!!!!!!」


頭を抱えてうずくまるその姿に対処のしようがない。


おたおたするだけの三人。


その彼の体の真下に、突如魔法陣が開かれる。


「へ?」


その間の抜けた声の主が自分であるとは蓮本は一瞬気づかなかった。


ずぼっ


幾つもの黒い触手が、彼の華奢な体にとりつき、縛り付けていく。そのまま魔法陣の中に引きずり込もうというのか。


「危ない!?」


少女がとっさに手を伸ばすが、


「だめっ、カトリナ!!」


女性に制されて、手を伸ばすことは出来ない。


「ーーーあ」


体の半分までが引きずり込まれた少年。彼は恐怖に引きつった顔でもう一度、叫んだ。


「いやだあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」


その声の直後、


げろん


虫を飲み込む蛙のように、魔法陣は少年を飲み込んだ。


後には呆然とする少女たちが残されただけだ。


「大丈夫!?」


その時、追いついてきたモニタたちが声をかけてくる。


彼女たちは茫然とした様子で、はい、と答えたのだった。



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