作戦会議をするんです!
その洋館は山の麓にあった。
貴族の邸宅のそのままの荘厳さと豪華さを持つ。その主人であろう二人の男、いや少年か、彼らには少々似つかわしくないものだった。
「……あ―ヒマ。マジ、ヒマ」
リビングに添えつけられたソファーにだらしなく寝そべりながら少年は呟く。
「ヒマヒマゆーなよ。マジでヒマなんだし」
彼の向かい側には同じくソファーにだらんと横になっている少年が一人。
「ってもよー、マジでヒマなんだし」
少年は愚痴るように返す。
そう、確かに彼らは暇を持て余していた。
やることが何もない。その気になれば、勉学に励むなり体や武術、魔法を鍛えるなりしようものが、彼らにはその意思が全く感じられない。
いや、そもそもそんな事は必要がない。彼らは十分すぎる強力なスキルを保持している。それこそ人が努力しても一生手に入らないような強力なもの。
それを天から与えられた彼らにこれ以上何をしようという気にはなれなかったのだ。
そのため、彼らは時間を多大に持て余すことになる。
ここには彼らを満足させるような娯楽ーーーゲームや漫画、映画やドラマといったものが取り揃えられていない。いや、そもそもこの世界には存在しない。
勢い、彼らの暇つぶしは酒、女、ギャンブルといったところになるが、今はまだ日が高い。そんな時間ではない。
「そーいやさ、この間の女、どーなったん?」
「ん?ああ、あれか。
ちょっとキメてやったらブッ飛んでたし」
「マジマジ?」
ようやくこの時間の肴が決まったらしい。
彼らは自身の女遊びをネタに下品な笑いで盛り上がった。
「だから、なんでそうなるんですか!?」
「だからって何よ、だからって!!」
「だから言ってるじゃない!!」
二人の少女が火花を散らす。
ここはギルドの仕事受付所。
俺はここでいつものように仕事の受付をしようとしていたのだが、
「だから、いつもなんでコーマさんに絡んでくるのよ!!?」
「そんなのあたしの勝手じゃない!!なにか文句あるの!!?」
「大ありよ!!」
二人の勢いは止まることはない。下手に仲裁しようとしたら確実に飛び火するなこりゃ。
俺は二人の少女、エルフィナさんとモニタが言い終わるまでとりあえずおとなしく待つことにした。
そもそも、なんでこんな事になったのかというと、原因は例によってモニタであった。
「はぁい、低レベルな冒険者さん」
「誰が、レベルが低くてそこらのしゃもじより役に立たないクソ人間だと!?」
「誰もそこまで言ってないでしょ!?」
と、いつものように絡んでくるモニタ。ぴくっ、と誰かのこめかみが動いた。
「相変わらず冴えない仕事ばっか探してるのねーー」
「うっさい」
ぴくぴくぴく。
「そんなアンタにちょっと割のいい仕事がーーー」
「いい加減にしてください」
抑揚は抑えられていた。しかし、確かに相手を威嚇するその声。
「彼はすでに別の仕事を受諾しております。これ以上の仕事の受諾は負担にしかならないと思いますが」
冷静に装っているつもりが、かなり険のある声になっている。
「へえ、そうなんだ」
彼女ーーモニタはそれに対して気にも留めようとはしない。
「で、その仕事っていうのはーーー」
「いいって言ってるでしょ!?」
ついにその受付嬢ーーーエルフィナさんがキレた。
「大体、貴方はいつもなんなんですか!!コーマさんの事を無能でドジで屑で錆びた剣よりも役に立たないって…。そんな言い方ありますか!?」
「そこまで言ってないでしょそこまで!!?」
売り言葉に買い言葉。ここから二人の口喧嘩が延々と始まるのだが。
「モテる男は辛いですね」
モニタの従者、オルトが苦笑交じりに聞いてくる。
目の前のこの修羅場に、どこにモテ要素があるというのか。
受付所の側にある酒場の連中が物珍しそうにこっちを見てひそひそ話してやがる。どうせならひとこと言って二人の矛先にでもなってほしいものだが、あいにくそういう物好きはいないらしい。
「分かりました!!」
バンッ、と机をたたくエルフィナさん。
「その仕事、あたしも受けさせて貰います。それでいいでしょ!?」
あの、なんでそんな流れになっているんです?
「はっ!いいわよ、上等じゃない。アンタ程度の力じゃ精々足手まといにしかならないだろうけどー」
「なんですって!?」
収まりかけたのにまたまた余計な一言で場を煽るモニタ。
この二人の口喧嘩はこのあとしばらく続くのだった。
「何よこのお化けおっぱい!!」
「何よへちゃむくれおっぱい!!」
「誰がまな板ですって!!?」
似たような場面で恐縮である。
ここ、セルフィナさんの酒場で現在我々が行っている作戦会議、と言う名の口喧嘩はまさに絶好調であった。
モニタの持ってきた仕事というのは、盗賊ガンボに対するリベンジマッチである。
それだけ聞くと彼女の個人的な感情から来たものに思えるが、そうではないらしい。
前回の作戦ではガンボ配下の魔獣を撃破したことは大きな収穫だったらしい。しかし、ガンボ自身の捕縛については全くの空振りである。
このままガンボを放置しておくと再び金貨が狙われるのは必至。
そのために早期に反撃を行うことにしたらしいのだが、今度は人手が集まらない。
前の作戦前まではガンボについてこの町の冒険者たちが甘く考えていたらしい。しかし、実際は想像もつかない戦力だった。今回は首尾よく撃退出来たものの次もうまく行くとは限らないし、そもそも前回は懸賞金目当ての連中が大半だったわけで、そいつらが怖気づいてしまっては人が集まろうにも集まらない状態になったのだ。
そこでモニタは少人数で盗賊を捕縛するための作戦を練ってきたというのだが、いつの間にか二人で大喧嘩。つかみ合いにならないのが不思議なくらいである。
それを見ていたカトリナが、
「お二人って仲が宜しいのですか?」
「ええ、とても」
おいおい、聞こえてたらますます揉めるような事を言うんじゃないオルト。
「ところで今更なんだけど、ガンボってどんな奴なんだ?」
本当に今更な質問である。しかし、俺はそのガンボとやらをほとんど知らないのだ。
細い顎に人差し指を当てる黒髪の従者。
「そうですね、ガンボというのは元々はこの辺りを荒らしていた盗賊の一人なんですよ」
「そうなのか?」
「ええ。でも、精々コソ泥程度のものですけどね」
と苦笑する。
「でも、コソ泥さんがそんな強力な魔獣を扱えるとはおもえないんですけど…」
カトリナの指摘はもっともである。
「ええ、だから我々も驚いたのですよ。なぜ奴があんな強力な魔獣を召喚出来るのかってね」
「召喚魔法なんですか?」
「ええ、そうですよ」」
カトリナの疑問に澱みなく答えるオルト。
確かに、あの場所に現れたのは召喚魔法により呼び出されたものだった。
普通、使役されている魔獣は何であれ、死んだらやはり死骸が残るものだ。しかし、あの時倒された魔獣たちはその遺体ーーー実体を残さなかったのだ。
撃破された後は霧のように消えた。それは、奴らが魔力によって投影されただけの存在に過ぎないからなのだ。
そして、それはもう一つの重要な情報となる。あれだけ強力な魔獣を一度に複数、召喚出来る魔法使いが一体どれ位いるのだろうか?
「そいつが魔獣を使い始めたのって何時頃からなんだ?」
俺は引っかかることを確かめるために念のために聞いてみる。
そうですね、とオルトは一拍置き、
「今から二か月ほど前からです。
当初は然程強力な魔獣ではなかったのですが、一月もたてば強力な魔獣を呼び出すようになり、今やあのざまです」
この間のことを思い出してか、苦々しく答える。
「?どうしたんですか、コーマさん」
「……いや」
俺の変わった顔色を見てか、カトリナが心配そうに聞いてくる。…心当たりが有るんだよなぁ。是非とも外れて入れほしいけど。
「じゃあ、これでいいのね!?」
「仕方ないでしょ!?」
どうやら二人の方も落ち着いたらしい。
「それじゃ、作戦を発表するけど」
本当に作戦を練っていたのか。
「それはーーーー」
作戦を語り始めるモニタ。その内容は、
……ありがちなものだなぁ。
一抹の不安を抱えながら俺たちは盗賊打倒の作戦を練り続けた。
そして、ついに決戦の時が訪れようとしていた。




