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透ける想い

 出会ってからそれほど時を重ねた訳ではないけれど、文を交わしてその分だけ、文字は積み重なって……。


だから…由布の気持ちは疾うに決まってる。

後は、筆にのせて文字に連ねるだけ。

薄紅の陸奥紙は、薄く透けていてその紙にふさわしく、雪の下の紅梅を詠む。



    ゆき透かし 春まちわびる 紅梅の

      花芽は萌ゑて 息吹は甘く ※⑨


  [※⑨ 雪を透かして、

     春を待ちわびる紅梅の

     花の芽が萌えだして

     その息吹きは甘く感じられるほどです]



『私のあなたを想う気持ちは、雪を透かして見える芽吹く花芽のように春の気配がしています』


この文を、太樹丸に預けたそんな日は鼓動が息苦しいくらいに早鐘を打っていて、朝霧はどんな風に由布の和歌を受け止めたであろうかと……。


居たたまれず思わず御簾を上げさせて、廂まで出て寒い中の梅の蕾を探してしまう。朝霧は、咲きそうな梅の枝を由布の為に探してくれたのだろうか……。


由布の為に。


そう思えば、部屋の中で蕾をほころばせようとしている梅の枝は愛らしく、特別な物だった。


(あの梅の花が、開く頃……、その時が来たら……)


由布のこの想う気持ちも、雪解けをまって花開くように。

鮮やかに花開くだろうか………。



内大臣家は嫁き遅れの由布が、いよいよという空気があるものだから、少しずつ部屋の調度類が新しいものとなっていく。


新しい布に変えられた御帳台や、几帳。漆塗の美しい髪箱、褥、そして真新しい鏡と鏡箱、それに脇息。

春らしい物に変えられた屏風は、美しい桜。


 頼人からは何も聞かされてはいないが、朝霧と由布の結婚について話はあったのだろうか?

何もかもが当たり前だけれどはじめてで、どきどきとそわそわが止められず、車宿の方が騒がしくないかとつい窺ってしまう。


そんな由布の気持ちは、きっと菜葉にも吉野にも、それから千穂と咲々にまで伝わっているようで、あれやこれやと都合をつけては

「お姉様、双六をいたしましょうよ」

「咲々、それよりも絵巻物がきっと良いわ。ああ、そうだわ、源氏物語を持って来ましょうよ。お姉様にはきっといまはそれが必要よ」


千穂と咲々がくると、ぱっと花が咲いたように華やかでそして絵巻物や、お道具たちが散らばり、それに女房たちも集まって、部屋が狭く感じられるほどで。


「こちらはずいぶんと賑やかになりましたね」


「夏風」

「入っていらっしゃいよ、夏風ももうすぐ元服をしたら中には入ってこれないのですもの」


「それを狙ってやって来ました」

童姿である下げ角髪(みずら)も水干もこれで見納めだ。

あどけないのに、しかし華やかな容姿の夏風は、溌剌としていて生気がみなぎっている。


姉達に囲まれて育ったせいか、夏風は妙に女性に慣れていて、元服前だというのに、遊び人になりそうな気配がする。


「姉上、姉上はせっかく愛らしくていらっしゃるのだから、もっと朝霧の中将さまにも、遠慮なく振る舞われれても良いくらいですよ」

「夏風……」

「宮中の、女性たちは男あしらいも上手いですよ。それを四六時中見ている朝霧の中将さまは、姉上が多少遠慮なしに振る舞われたとしても、可愛らしくうつるでしょう」


「まあ、夏風ったら。知ったような事を言って!」

千穂が笑えば

「この童姿というのは、なかなか便利で。可愛がってもらえるし、気軽に話しかけてもらえて便利なのですよ」

にっこりと微笑むと


「もう、こうして姉上たちの可愛らしいお顔を見れないかと思うと、残念でなりません」

「夏風ったら、本当に口が上手くなって、鍛えすぎたかしら?」

千穂がいえば

「いいえ、大変いい学門でした」

「でもねぇ、夏風みたいに口のいい男は本気のお相手にしたくないものだわ」

咲々が言えば、

「うむむ、それは問題かな……、でも僕はこうして素敵な女性たちと会話をするのが楽しいので仕方ないですね。たとえ、後々色好みと言われようとね」


「夏風ったら」

どっと笑い声が起こって、よりいっそう華やいだ空気が満ちあふれた。

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