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白椿

 秋は瞬く間に冬となり、由布の衣は初冬らしく装いは氷重(こおりがさね)(一の衣は鳥ノ子色、ニの衣は白色)になり、凛とした冬の景色のようで、透き通る氷のよう。


そんな由布の元を、朝霧が訪れていた。秘色(ひそく)(瑠璃色に薄青)の直衣がまた、洗練されて、目に鮮やかである。


すでに時おり訪ねてくるのも、この邸では数日おきの事となり、また文の絶えた日もなくて、屋敷中がそわそわとしている。


「大君の衣は、氷重ですね」

「はい、冬にこの色合いは……好きなのです」


御簾のそとに少しだけ出した裾が、目に触れたのだ。その新しい装いに気づいてもらえたのが嬉しい。


由布はさらに続けた。

「妹たちも新調して、椿の(かさね)(蘇芳に赤)なのですけど、とても鮮やかです」

「そうですか、私は赤の鮮やかな椿も綺麗だと思いますが、雪の白さと溶け込むような白椿も好きですよ。ちょうど大君の衣のような」


白椿が好きだと言われて思わず頬を赤らめる。まるで由布の事を言われた気がして。


そんな風に、少しずつ由布は話せる事が増えてきて御簾ごしだけれど、いつの間にか近くに、次第に近くに座るようになっていて、いつしか距離は香の匂いがすぐ側になっていた。


朝霧の声は、暖かみがあって心地よくてずっと側で聞いていたくなる。

「龍笛を持ってきたのです、先程、弾かれていた箏の琴と合わせてみませんか?」


練習が聞こえていたのかと思うと、すこし恥ずかしい。


「あ、……はい」

懐から出した、袋から龍笛を取りだし朝霧はさっきまで由布が弾いていた楽を奏でた。


心得たように、菜葉が現れて琴を由布の前に置くと朝霧の笛と合わせて弾く。


しんとした空気に、音が澄んで響く。


一曲奏で終えると、静かに笛から唇を離した。

「時にはこうして、合奏も良いものですね」

「はい……、練習していて良かったです」


こんな風に合奏の誘いがあるのなら練習にも身が入りそうだ。


*****


そして、そんな風に合奏をした翌日はうっすらと雪が降って冬の到来をつげる。


「おはようございます~!」

冬の寒さに負けない、太樹丸は元気な声で挨拶をする。


「いつもの文です」


文は、白椿の枝に結ばれていてそしてその和歌もまたとても、ときめく物だった。

   

   君思ふ 光りさす日の 白椿

      薄雪かぶり きららかに咲く


  [※⑥ 光がさして白い椿が

     薄く雪をかぶって 

     きらきらと咲いているように、

     (私は)あなたを思っています。]


昨日話したばかりの、白椿が好きだと、また氷重の衣になぞらえてその和歌を詠んだのだと思うと、否応なく朝霧の気持ちを期待してしまう。


    白椿 蕾ほころび 雪のなか

      ながめし人を 想ひては咲く ※⑦


   [※⑦ 白い椿は蕾がほころんでいても、

      雪の中では目立たないけれど、

      眺める人 (あなた)がいるからこそ

      その人の為に(私の想いも)

      咲くのではないでしょうか]



こんな……恋の和歌……。

書いていて、筆が震える。


朝霧の見ている、白椿は、どんな景色にあるのだろう……。そんな風に物思いに耽ってしまう。


「じゃあ、お願いね、太樹丸」


ぼんやりとしているうちに、太樹丸に菜葉が文を渡してしまっていた。


「あ……」

「春頃には、姫様も人妻ですかね」

むふふ、と吉野が笑っている。


雪に鮮やかな赤い椿。

それよりも、深い緑の葉と白の椿を、、、、好きだと……。


前よりももっと、氷重の色合いも白椿も好きになってしまいそう。朝霧が好きだと言ってくれたから……。


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