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せめて夢で会いたい

 朝霧の少将からの文はほとんど毎日のように届いて、そのほとんどが今日は、こんな事がありました、という他愛ない物で、

『今日は弟の月影と蹴鞠をしたのです。月影に勝たせても良いのですが、やはり兄としては負けることは出来ませんね』

と言った感じなのだ。


そして、この日は

『秋も深まって、色づく紅葉を拾い集めてあの庭の事を思いだします』

その文にはきれいな赤色の紅葉が添えられていて、由布の為に拾ったのだと思えば由布の顔も朱色に染まってしまう。


お礼の文を書いて、返事を待っていた、すでに馴染みの顔となった文使いの童 太樹(たいじゅ)丸に菜葉が

「お願いね」

といいお菓子を渡す。

「はい!お任せください!」

元気よく言って風のように駆けてゆくのがあどけなくて可愛らしい。


「元気のよいこと」

吉野がくすくすと笑う。


そろそろぐっと気温も下がってきて冬の足音が聞こえてくる。


冬が来ても、朝霧からの文は…引き続き来るのだろうか…。


「あら…誰か来ますね」


菜葉と吉野が几帳(きちょう)を動かして室内を整える。


「お姉様~!」

来たのは妹の中の君 千穂姫と三の君 咲々(ささ)姫である。

千穂と咲々は由布と違い、華やいだ容姿とそして明るい気性は夏風と似て、文のやり取りをする相手もたくさんいるとか。そんな二人はまるで双子のようだ。


その手腕はいつも見習わなくてはと、父 頼人からは言われていた。

「中の君、三の君どうぞ中へ」

御簾の中に入ってきた千穂と咲々はにこにことしながら


「お姉様にもついに文を交わす人が出来たのですって?」

わくわくというように目を輝かせて言うのは咲々の方。


「それもあの(・・)朝霧の少将さまなんですって?」

千穂がそっくりな表情を見せる。


「「わたしたちがお姉様に色々と手解きをしてあげなくては」」

「てほどき?」

「そうですわ」


「お姉様は、揺さぶりなんてご存知ないでしょうから」

千穂が言えば

「簡単に返歌を出してはだめですよ」

「少しくらいやきもきさせなくては」

「色好い言葉なんて書いたりしてはだめですよ」

咲々と交互にしゃべり、由布は二人の勢いに押されて『もう、色好い言葉を書いてしまった』なんて言うことは出来ず


「後はそう、夜這いが決まったらお姉様。寄り添って寝るだけじゃないんですよ、いろいろとあるのですって」

こそこそと、小さい声だけど、千穂の声は興奮して早口だ。


「そ……そうなの……教えてくれてありがとう。千穂、咲々」


「お姉様が結婚してくれないと、千穂は安心出来ないわ。お姉様がちゃんと誰かを通わせるようになったら、私もきちんと考える」

「咲々も千穂とおなじ気持ちよ」


「ありがとう、千穂、咲々。心配してくれてるのね」

「朝霧の少将さまがうちに来るようになったら、きっと素敵な方を連れて来るようになられて」

千穂が言えば

「わたしたちも素敵な方と結婚できるに違いないわ」


千穂と咲々は微笑み合って、由布の手を握った。


「な………なぁに」

「お姉様、手をわたしたちに握られたくらいで、……」

ふぅ、とため息をつけば

「こんな調子では、朝霧の少将さまに握られた日には倒れてしまうわね、きっと」


「お姉様の所は静かすぎます。これからは毎日わたしたちの部屋の方までお越しくださいな」

「まあまあ、中の君さま三の君さま。それくらいになさって………、朝霧の少将さまもこういう由布姫を良いと思ってくださっているようですから……今しばらくそっとしておいてあげてくださいまし」


「菜葉……」

助け船を出してくれた菜葉に由布はホッとした。

二人の部屋は賑やかすぎて、そのやり取りについていけない。


「そうなの?……たしかに、だから朝霧の少将はこれまでお相手がいらっしゃらなかったのかしら?」

千穂が言うと、

「それじゃあ、仕方がないわね」

咲々もしぶしぶうなずいた。

「お姉様は可愛らしいから、きっともっとお知りになったら、お好きになられるに違いないわ」

「だってわたしたちのお姉様なのですもの」


言いたいことを言って満足した千穂と咲々は、立ち上がって嵐のように去って行った。


「………はぁ~」

「お疲れ様でした、姫様」

くすくすと、笑って吉野が白湯をさし出してきた。

「あのお二人も、ご心配なのですよ」


「ええ、わかってるわ」


由布はそう言って、文机に置いた文を見た。

いつしか増えた朝霧からのその文の数。


覚えてしまった朝霧の手磧。墨と、筆運び……。


そんな風に、しんとした部屋の中に長い黒髪を、風がなぶり

「あら、風が強いですわ」

捲れ上がる御簾を見て、由布はもうすぐ秋も終わるのだなと感じた。


******


夕暮れが過ぎて暗い闇を月が顔を出した頃、太樹丸は今日最後の仕事なのか文を届けにやって来た。

「お返事は明日、受け取りに参ります!」

「ご苦労様」

きりりとと言った太樹丸は、ペコリとお辞儀をするとまた元気よく走っていった。



    月明かり 水面に映りて ゆららかに

       あつめて渡る 夢の浮き橋 ※④


 [※④ 月の明かりが、 

    庭の池に映って揺れて光っています。

    その光をあつめて

    夢の浮き橋を渡って、

    あなたに会いに行けるでしょうか]




「夢で………」

(どうしよう………夢でさえ、上手く話せなかったら……)


「ま、姫様の頬は早くも雛祭り」

くすくすと菜葉が声をあげた。

「桃の節句には早うございますね」


「返歌は明日で良いということですし、ゆっくりと考えなされませ」


灯りを点していくと、ぼんやりと橙色の柔らかな視界が広がる。

また、明日……。


庭へ目をやれば……由布の目にも、小さな池に月影が映って風で揺らいできらきらとしていた。


“あつめてわたる ゆめのうきはし”


本当に………そんな橋がかかると良いのに………。

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