表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

欲しいものはただ1つ

作者: TAKAHA

前々に書いていたものが出てきたので書き足して投稿してみました。


取りあえず、長編にするにはいろいろ難しいのでぎゅ~~~っと詰めて短編に・・。


練習がてら書いたものなので、あまり突っ込みは勘弁してください。


『―――――ぇて―――』

『ぎゃはは――――ねよ』


怖い怖い怖い・・・私を取り囲んで、みんなは何故そんな事を言うの?


『―――でに―――よっ』

『へっ――――うっぜぇ』


怖くて震えが止まらないのに・・・どうしてみんなは私を指さして笑うの?


『―――お前など―――』


パパもママもなんで私を打つの?ごめんなさいごめんなさい・・許して・・悪いところは直すから!!


『―――ぇも――――っ』


いやっ・・聞きたくないっ!


『産まれてきたことが罪なのよ!!』


うっ・・うぅぅ・・どうしてなの?



私は・・私は何で、誰からも愛されることはないの・・?!



いたい・・・痛いよ・・・心が、とても痛いっ





いや、もういやあああぁぁぁああぁぁ――――――――――――――――っ!!!












「――――の?」



――――――・・・え?



「―――どうし――?」


暗いくらい闇の中にうずくまっていた私の耳に聞こえた優しそうな声に、私はゆっくりと顔を上げ―――――。


「ひぎゃぁぁぁーーーっ」

「えぇぇ?!」


何故か仰向けに寝かされていた私は、見上げた先で目にした太い眉と恐ろしいつり目の大柄な男に驚いて泣き叫ぶ。


私が何をしたって言うの?!お願いっ、お願いだから打たないで!


「あぁ、驚かした?ごめん、ごめんね・・泣かないで、僕のフェアリー」

「ふぇぇ・・ふぇ・・・・えぅ?」


パニックになって泣き叫ぶ私の頬に触れる暖かな掌・・・そして、予想外のまだあどけなさの残る優しい声とひょいっと抱っこされたことに私は驚いて涙が止まる。


男、の子にだっこ・・・されてる?


「僕のフェアリー・・・フェリシミア、驚かしてごめんね。もう2度と驚かせないって、泣かさないって誓うよ」

「・・・?」


きりっとしてきつい印象だった眉も情けなさそうにへにゃりと垂れて、とっても傷ついたような表情。

そのまま持ち上げられておでこにキスされたことで、私の涙は完全に引っ込み・・・唖然として私はその男の子を見上げる。


日本人には見られない綺麗なミルクティーブラウンの髪の毛に、深い緑色の宝石のような瞳の・・・かっこいい少年。


「だぁぇ・・・?」

「どうしたの、フェリシミア?」


誰ですか?って言ったつもりだったのに、言葉にもならない音が私の口から洩れ・・・ハッとして男の子につかまっている自分の手を見ると、どう見ても幼児の様な大きさに目を見開く。




そうだ、私・・・親や姉弟からの虐待と、学校での虐めに合って―――自殺したんだった。




ってことは、生まれ変わった――――の?




「――――――からね」

「ぅあ・・」


暫く茫然としていた私だったけど、男の子が何か喋っていたらしく・・・聞いていなかったことで、男の子の顔をじっと見上げて首を傾げた。

見上げた私と目が合うと、男の子はギュッと私を抱きしめて私に頬擦りをするように頬を寄せた。


「フェリシミア・・・かわいいかわいいフェリシミア。辛かったね、よく頑張ったねっ。絶対に、これからは絶対に僕が・・・父上と母上の代わりに、君を守ってあげるからね。兄様がずっとずっと一緒にいるから寂しくないよ」


男の子の・・・私の兄だと言うこの人の言葉に私は限界まで目を見開いた、と思う。


「え?」(今、なんていったの・・)


このお兄さんがお父さんとお母さんの代わりにまもる?守る?私を?

私のお父さんとお母さん?・・・お父さんとお母さんの代わり?


なんで代わりなの?


泣いているお兄さんを見上げることしかできない私の頭もこの状況に付いて行けずに、疑問だけがグルグルと頭の中を巡っている。


「ぉにぃちゃ・・?」

「フェアリーっ」


お兄さんの瞳から流れているきれいな涙にそっと手を伸ばしてほほに触れると、お兄さんは私をさらにギュッと抱きしめた。


「敵はとるから・・・フェアリーを必ず守るからっ・・・だから、だからっ」

「?」


何があったのかがいまいち理解できないけれど、この部屋の中には私以外はこのお兄さん1人だけ。

最初はただただ恐ろしいと思ったけど、暖かくて --よくよく見るとーー かっこいいお兄さんはまるで縋り付く様に私を抱きしめる。


「お願い、兄様を一人にしないでっ・・父上母上っ、フェアリーまで連れて行かないで」


嗚咽を我慢するように少し震える声だけど・・・お兄さんはギュッと抱きしめていた腕を緩めると、涙がとめどなく溢れていて真っ赤にした目だけど、それでも笑みを作ろうとしているのがわかった。


額と額をくっつけるようにされると、近すぎて顔がよくわからないけど・・・とりあえず、もう私の中にはさっきまでの恐怖はなくなっている。ただただ、暖かいモノが私を包んでくれている安堵感。


「愛してるよ、僕のフェアリー・・・父上と母上の分まで僕が君を守るから。絶対守ってあげるから!父様たち以上にフェアリーを愛するって誓うからっ・・・ずっと、兄様のそばにいて」


私を・・あい、してくれるの?傍に居て良いの?


―――――――・・私を、必要としてくれるの?


ギュッと抱きしめてくれる腕の中、とっても暖かい。


「にぃちゃ・・・そば・・(お兄ちゃんの傍に居てもいいの)」


お兄さんに抱きしめられながら、何とか見上げて口を開くものの・・震える声は片言でしか出てこなかった。

彷徨っていた手をお兄ちゃんの腕に添わせて服をぎゅっと握る。


「かわいい僕の妹・・・大切な大切な僕の家族」

「うえぇぇ・・にーちゃ」


舌っ足らずだけど、嬉しくて・・・お兄ちゃんに精一杯抱きついてすり寄る。私がぎゅっと抱きつくと、同じようにお兄ちゃんは抱き締め返してくれる。

本当なんだ・・・嬉しい、嬉しい!この人は私のお兄ちゃん!私を愛してくれる私だけの家族!


「フェリ・・あぁ、父上と母上がいなくて悲しいね。でも、大丈夫・・兄様がいるからね」

「にーちゃ・・・にぃちゃぁぁぁ」




ずっとずっと欲しかったものがあったの。




皆じゃなくていいの、1人だけでもいいからってすっと願っていた。




それをかなえてくれるの?私の家族なんだよね、お兄ちゃんが私を無条件で愛してくれるんだね?!







+++






「ごきげんよう、フェリシミア様」

「フェリシミア様、今日も素敵なお召し物ですこと」


私が前世とは違う世界に生まれ変わったと気づいて早14年。16歳となった私は今日も行きたくもないが、昨年デビューしたことでイヤイヤその会場に足を踏み入れる。


「まぁ、フェリシミア様」

「フェリシミア様、お会いしたかったですわ」

「ごきげんよう、フェリシミア様」


私が姿を現すと、弾けるような笑みと共に色とりどりのドレスを纏った令嬢たちが私を囲む。


彼女たちの中心は私。


前世の私のこの状態は、悪口を言われたり暴力を振るわれたりと虐められていた時だった。

勿論最初こそは恐怖心に竦んでしまったけど、今はすこ~しだけは平気。


「まぁ、遅れて申し訳ありません。ごきげんよう皆様」


令嬢達が私に話しかけてくるので、私はいつもの様に笑みを返す。


彼女達は“まだ”セーフな人たち。彼女たちは、信じてもいいかなって思っている人達で、お友達になれたらいいなって思ってる。


――――――――ご令嬢たちはフェリシミアを友達と思っていて、いつかフェリシミアがトラウマを克服してくれたらと願っていることを本人だけは知らない。


そんな風に頭の隅で評価をし、大好きな兄に恥をかかせない為に、大切な兄に誇ってもらう為に―――私は恐怖心を令嬢としての仮面を被ることで封じ込める。


私がこの世に生を受け、心から信頼しているのは家族と我が家の使用人以外を除いてはたったの2人だけ。

彼女たちのその笑みには何も感じないから“まだ”付き合いがあってもいいって思う。


だけど―――


『無表情姫のご登場だ』

『お高く留まって、何様のつもり?』


などなど、口さがないような連中がいるのも知っているの。


『お聞きになりました?王太子殿下もあのような鉄仮面姫に愛想を尽かし、例の伯爵令嬢にぞっこんの様ですわ』

『あらまぁ、まだ婚約もに発表されて3年もたっていないじゃない!』

『でも、気持ちは分かりますわ。天使の笑みと評判のご令嬢と・・・はっ、侯爵令嬢といっても片や鉄仮面の冷血姫じゃあねぇ』


ふん。王太子殿下との婚約なんて・・・亡くなったお父様と陛下のただの口約束じゃない。

伯爵だろうがクジャクだろうが、どこへでもさっさと行って欲しいものだわ!


だって、私――――。


「フェリシミア・・・待たせてしまったか」

「お兄様!」


暫くいつものご令嬢達と話していたら、お兄様が漸く私を迎えに来てくれた。お兄様が来てくれたことで私は多少だけど、緊張のために入っていた力が抜けた。

お兄様と私は10歳違うから、お兄様の年齢は現在26歳。そして、僅か12歳で両親を亡くしてからテイカー侯爵を名乗っていて、20歳の王太子殿下の近衛騎士の上の方の役柄でもあるの。


ただ私はお仕事に関して詳しいことは聞いてないから説明できないわ。


でも、大きな夜会では騎士の(仮に)団長であっても侯爵として出なくてはいけない義務があるから、今日のお兄様の仕事はお休み!


元々大柄ではあるけれど、騎士をしているだけあってお兄様はまるで筋肉の塊。太めの眉ときりっとした猛禽類の様な目で怖がられているけれど、お兄様はとても優しくって、しっかりと見れば顔だって整っているのがわかる筈なんだけどね。

ただし、私に対しての口さがない噂が少しでも聞こえるような場所ではまるで般若の様に眉間にしわを寄せるから、大半の令嬢が怖がっているのは―――お兄様を盗られないですむから気にしないわ。


「さぁ、フェアリー。少し早いが陛下に挨拶をしてから帰ろうか」

「はい、お兄様」


私に対してにっこりと微笑むお兄様に、お友達のご令嬢たちはぽーっと顔を赤らめる。


「では、みな様お早いですが失礼いたしますわ。後日お茶会の招待状を送りますわね」

「えぇ、お待ちしておりますわ!ごきげんよう。フェリシミア様」

「またのお茶会楽しみにしておりますわ、フェリシミア様」

「テイラー侯爵様、フェリシミア様またお会いできますこと願っておりますわ」


夜会なんて出たくないけれど、我が家は侯爵位を持っている上位貴族である以上、面倒くさいけれど最低限だけは出席しなくちゃいけない。

でも、お兄様は私が人前に出るのを怖がっているって知っているからこうやってやっさと連れ出してくれるの。嬉しくってお兄様の腕に抱きつけば、お兄様は優しい笑みで私を見下ろして空いているもう片方の手で私の頬をそっと撫でてくれる。


お兄様と一緒のときや自分のテリトリーの我が家で仲の良いご令嬢達を呼んでのお茶会では普通でいられるのだけど、私は一歩外に出ると前世の恐怖や極度の緊張で顔がこわばって声が出なくなってしまうんだもの。


みんなは両親が殺されてしまった現場に私が居合わせたせいだって思っているみたいだけど、本当のところ肖像画で見た両親がとっても優しかったってことは覚えているんだけど、それ以上の事は前世きおくを思い出した以前の事はほとんど覚えていないの。


「今日は・・・その・・・」


両陛下にあいさつした後に馬車に乗り込み、お兄様が私を心配そうに見つめて重々しく口を開いた。


「殿下に・・傷つけられたのではないのか」


おずおずと言ったように話し出したお兄様の言葉に少し肩がびくっとはねてしまったけど、私はお兄様と離れていた時のことを思い出して重いため息をつく。


『はぁ・・・相変わらず話せもしないのか?愛らしいグレイス程とは言わないが、表情を取り繕うとする努力ぐらいしたらどうだ?まぁ、お前など微笑んだところでグレイスの足元にも及ばないだろうがな!』大げさにため息をつかれて、傍らに彼女を連れて私の前に立つ王太子殿下は、彼の最愛とフェシリミアをとことん見比べて蔑んだ目で見た。


「いつもの、事だもの。私はお兄様がいればそれでいいの・・・ねぇ、お兄様。殿下は好きあっている方がいらっしゃるの、お兄様ならこの婚約辞退を陛下に申し出ることができますでしょう?私、会うたびに蔑んだ目で見られるのだもの・・殿下が怖いの。お兄様が仕えている方だからって思って・・・でも、無理なの。ごめんなさい」

「フェアリー・・・うん、そうだね。僕も可愛い君を仕える主とはいえ、望まれてもいない相手に差し出すのは嫌だしね」




+++++




「あ~あ・・・お兄様まだ帰ってこないのかなぁ~・・・寂しいよぉ」


厨房のカウンターにべったりと寝そべるなんて令嬢にあるまじき姿だが、コックや侍女達は微笑ましそうに私を見てクスクス笑う。

前はそんな風に笑われるのは嘲られていると思っていたが、使用人たちは『まったくもう、うちのお嬢様は』って暖かい感じの表情だから好き。


「そうですね、旦那様が出かけられて今日でもう2週間たちますものね」

「本日には国へはお戻りとのことでしたので、早くても夜にはお戻りになられるのではないでしょうか?」

「そうかなぁ~・・・昨日からお兄様が帰ってきたらと思って、お茶会するためにお菓子を作りすぎちゃったわ、ん・・いい出来よね!」

「えぇ、えぇ!お嬢様のお菓子は世界一ですわ!」


前世の記憶を頼りにつくったクッキーにマドレーヌを始め、プチタルトにお兄様の好物のアイスクリーム!見た目は堅物硬派なお兄様だけど、わたしにデレデレの大の甘党なのよ。


ついさっき作ったばかりのアップルパイを味見ついでに食べて、フフッと笑えば、侍女やコックたちみんなが称讃してくれるからちょっと照れくさい。でも、嬉しい!


「僕のフェアリー?それは一緒にお茶会をするための物じゃないの?」

「え・・・まぁ!!お兄様っ!!おかえりなさぁ~い!!」

「甘えん坊だね。ただいま」


背の高いがっしりしたお兄様に駆け寄って飛びつけば、お兄様は私を難なく受け止めてぎゅって抱きしめてくれる。

「もぉ~・・うちの妹は可愛いなぁ」って言って胸元にすり寄る私の頭をそっと撫でてくれる。


因みにお兄様は3年前から婚約しているけど、結婚する日がまだ決まっていない。

義理のお姉様になるアイリス様はお兄様が選んだだけあって、私をとっても可愛がってくれて、とぉ~っても甘いくてとぉ~~っても優しい方だから大好きよ!でも、隣国の方だからそんなにお会いできないのが寂しいの。


それでも、お義姉様はお兄様が遠征などで長期留守にするときなどに時間を見つけては私の為に遊びに来てくれる。

あ、勿論お兄様もお義姉様はラブラブで見ていて照れるくらい。


「だってだって!お義姉様はまだお兄様と結婚されてないからずっと一緒に居られるわけじゃないし・・2週間もお兄様に合えなかったんだもの!会いたかった~、だぁ~い好きなお兄様だもの!ずっとずっと心配だったの!お怪我はなぁい?」

「ふふ・・うん、ないよ。寂しい思いさせてごめんね、フェアリー」

「もう、もう!早くお義姉様と結婚してお兄様!みんなよくしてくれるけど、寂しいの!」

「あと少しでが片付くから、そうしたらアイリスと結婚できるから、ね?」


私の額に唇を寄せるお兄様に、笑みを向けて了承を伝える。今から楽しみでたまらない!


「ねぇ、お兄様!もうゆっくりできるの?!」


お兄様が何かチラチラと背後を気にしていたけど、私はお兄様しか視界に入れてなかったから気が付かなかった。


「んっとね、ちょっと寄っただけなんだけど・・・一度城に行かないといけないから。ちゃんと帰ってくるのは深夜になってしまうんだ」

「え・・・そう、なの?」

「でも、そうしたらしばらく休みだから。今ピートに迎えに行かせているから、アイリスも来てくれるからね、3人で一緒に過ごせるよ」

「ほんとぉ?嬉しい!大好き!!」


「「「へぶっ!」」」


嬉しくって、思わずにっこりと微笑んだらお兄様の後ろからなんか変な音が聞こえてきた。


「ん??なぁに・・今の音?」

「・・・はぁぁぁ」

「お兄様?」


お兄様に抱きついたまま覗き込もうとしたけど、大きなため息をついたままお兄様がさらにぎゅ~っと抱きしめてくれたから私は嬉しくってまた微笑んだ。


「そうだ、フェアリー」

「ん?」

「陛下にどーーーーーー・・・しても!!って頼んだらね、殿下との婚約は破棄できることになったよ・・・ちょっと条件付きだったけど(ぼそっ)」

「きゃぁっ嬉しい!!お兄様大好き!!」


嬉しさのあまりお兄様に抱きついて ――私が何をしたいか察して屈んでくれたお兄様の―― 頬にキスをする。

お兄様の逞しい胸に頬を摺り寄せ、背中に腕を回してギュッと抱きついたまま口を開く。


「お兄様の為ならだれに嫁いでもいいって最初は思ってたのよ?それに、家の為っていうのも分かるけど・・・あんなに私を蔑んで始めっからお前は2番以下だっていうような方は嫌悪しか出ないの。私、結婚するなら愛し愛される人と!・・・とまでは行かなくてもいいから、せめて向き合おうとしてくれる方がいいわ」


我儘すぎるかもしれないけどって舌を出して言うと、そんなことないよってお兄様は頭を撫でてくれる。


王太子殿下あのひとは伯爵令嬢に愛をささやいているってもっぱらの噂。火のないところに煙は立たないし、私自身もあの2人がいちゃいちゃしているところをこの目で見ている。

思わず眉間に皺を寄せてしまったのを自覚しているけど、お兄様が優しく私の頭と背中を撫でてくれるとホッとして力が抜ける。


婚約者わたしがいるにもかかわらず、最愛の人が出来たって隠そうともしないでいちゃいちゃするあんな不潔な人ともう2度と会わなくていいのね?とっても幸せ!私に会っては蔑んでくるだけの尊敬にも値しない殿下なんて論外だわ」

「そ・・そこまで嫌いだったんだ。ごめんねフェアリー・・守るって言ったのに悲しい思いをさせて」

「お兄様のせいじゃないわ!私だって望んで婚約者って立場になったわけじゃないのに・・・見覚えのないことで私を悪者にして、まるで蛆虫のように寄って集って1人女性にデレデレするような王太子殿下も側近候補の方々みんな気持ち悪い!」

「それは僕もかい?」

「まさか、お兄様は例外よ!お兄様が浮気性で誰彼かまわず愛をささやく様な方だったらイヤだけど、お兄様はお義姉様にぞっこんだもの!ふふっ」


お兄様はそんな最低なことしないものと、頭を撫でてくれるお兄様の手が気持ちよくて、ギュッと抱き着いてさらにすり寄れば「そうだね。キスだけとしても・・手を出した挙句に愛をささやいたならばその相手を伴侶としないと誠実とは言えないよね」とどこか黒さ漂う“ん?”って思う笑みを浮かべるお兄様は――――どんな表情でもかっこいいわ!



お兄様と2週間ぶりに会えた嬉しさで舞い上がっていた私は知らなかった。



『そこまでいうのでしたら婚約破棄をして下さって結構です。というか僕の最愛の妹とさっさと婚約破棄しろよイラつくな。あの子にとって不名誉なことだろうと、あの子を嫁に出すくらいなら一生面倒見る口実になるから僕もアリーも嬉しいし。それと今後2度と僕のフェアリーを蔑むのをやめて下さいね?あの子は極度の対人恐怖症で家から一歩でも外へ出ると緊張で顔がこわばってしまうのだから』


殿下から手渡された書類にさらさらとサインをしながら、近衛騎士総団長ことフェリシミアの兄ルアートはまるで雑談の軽さでそんなことを口にした。


『へ?対人恐怖症?』

『そ、そうなのか?あの無表情の裏にそんな理由があったのか?』

『なんで私らに早く説明してくれなかったんだ?』


初めて聞いたその話に、殿下を始めルアートの同僚の宰相候補達も目を点にしたようにして無表情で書類を殿下に手渡すルアートを見つめる。


『・・・確かに妹は勤勉で愛らしく見目も美しく女神のようですし、両陛下に王妃としての器だと認めて頂けましたが、貴様らなんぞに渡すわけないだろうが』

『私の質問をさらりと無視するなよ』

『目に入れても痛くないほど愛してやまない最愛の妹を差し出すような真似するか』


『え、自分の妹をそこまでいう?!』っていう自分の同僚の側近候補を一撃で黙らせ、ルアートはため息交じりに続ける。


『父上と母上が殺された現場にあの子は居合わせたんだ。本人は覚えていないと言っているが、まだ3歳にも満たない幼児だったとしてもその脳に記憶が刻まれているのかもしれない。例え、記憶から排除していようとも人が怖いのは当たり前だろう。それを寄ってたかって鉄仮面だの冷血姫だの・・・一人残らず殺してやろうか』

『あぁ・・・テイラー前侯爵夫妻は、確かにそうだったね―――って、物騒な事は言うなよ!信じれないけど君がそういうなら信じるし謝るから!噂の収拾に努めるから』

『じゃ、あんたと妹の婚約も取り消してくださいね。グレイス嬢がお好きなんですよね?』

『そうだね、願ったりだよ』


同僚たちは思案顔をしているが、晴れ晴れとしたような顔の殿下との話に、ルアートはまれに見せるとてもさわやかな笑顔を見せた。


『言質は取りましたから!あぁ良かった!僕のフェアリーよりも大幅に劣っている様な糞女でもちょっとの好意を見せただけでコロッと行ってしまうような不誠実な糞男なんかに大切な妹を渡したくないですから心底から安堵しました。父上と母上にもようやく顔向けできる』


爽やかな笑顔なのにものすっごい毒を吐く男を見上げて殿下の顔は引き攣った。


『・・・君、不敬罪って言葉――――シッテルカイ?』


引き攣ってはいるがそのままの笑顔を向けた殿下に、ルアートはありえないくらい凍てつかせた視線だけを殿下向ける。


『貴方を主として仕えていますが・・・今はプライベートだと言ったのはあんたですよ』

『・・・・・・・ごもっとも』


そんな会話がなされていたことに・・そして。


『亡き親友との口約束と言えばそうだが・・・あの笑顔がほっこりして、可愛らしいフェリシミアが俺の娘に欲しかったが、仕方なかろう。あの子が悲しむのは俺も王妃も心から不本意だ』

『本当ですわ。あの笑顔を見ていますととっても癒されますものね・・・なんて嘆かわしい息子なのっ』


ルアートから報告を受けた陛下が緊急家族会議を開いてこんな会話をされていた事・・。


『・・・グレイス嬢ってあのグレイス嬢でしょう?あれがわたくしの娘になるとか、冗談でしょう?あのご令嬢はまるで毒婦の様との噂じゃないの』

『そうだな妃。あのような女に現を抜かすこ奴は人を見る目がなさすぎる・・・まだ王子は3人もいるのだし、フェシリミアと結婚したものを王太子にするか』


冷え切った視線を第一王子である王太子に向けつつそんな会話をしていた事。


『兄上はフェアリーの事見ようともしてませんでしたから』

『ぼくはふぇありーのほうがすきだよ』

『フェリシミアではない女が義姉上になるのでしたら自分は臣下に下るよりは一般市民になって他国に移りたいですよ』


第二王子以下第三王子にまだ7歳の第四王子ですらさまざまな噂を独自に集めて、とてつもなく冷めた目を兄王子に送っていた事。


『え・・父上?母上?お、お前らも・・・グレイスの何が・・・』

『え?』

『兄上、それ本気で言っているんですか?』

『ありえないわ』

『兄上が国王になったらこの国も終わりですね』

『ぼく、いちにいさまがそんなひとっておもわなかった』


色々とショックを受けた王太子殿下が、家族から見放される寸前で自身の視野の狭さとわずかな魅了の禁忌魔法にかかっていた事にショックを受けた事。


婚約破棄の見返りとして自然なままのフェリシミアを見せることと、ルアートが陛下の命令で殿下たちに見せる約束をしていた事で、殿下たちを連れて一時帰宅しただけってことを・・・。


ルアートの帰宅に無邪気に喜ぶフェリシミアを彼の背後で王太子殿下とその配下 ――次期宰相候補と財務大臣候補達―― がフェリシミアの微笑を見て鼻血を出し、その上フェリシミアに見惚れていて事。


フェリシミアの言った無邪気な言葉に心を極限まで抉られて、赤かった顔を真っ青色に変えていたことを。


その後、フェリシミアの笑みに一発K.O.した王太子殿下を始めルアートの同僚が、プライドも何も殴り捨てて好感度マイナスMAXから怒号の巻き返しを図ろうともがいたりしているみたいだけど・・ルアートの妨害と周りのガードによりフェリシミアをその視界に入れることすらかなわなくなった事。


そして、地に落ちたフェリシミアの中の殿下達の好感度なんか一ミリたりとも上がっていないって事。


「さぁ、おばちゃまの元へいらっしゃい」

「あいっ!」


あの時から2年たった今現在のフェリシミアの目下興味は、かわいい甥っ子に注がれている。




殿下の恋人だったグレイス嬢が乙女ゲームというものの転生ビッチヒロインで、もうすぐで落とせるはずだった王太子殿下+側近たちを奪われた腹いせをしようとして逆に ――激怒した殿下に―― 没落されられてしまうとか・・・―――――――フェリシミアは何も知りたくもないし、未だ優しく大好きなお兄様夫婦から離れようとは一切思っていないし兄夫妻も手放そうとは思っていない。




さぁ、凍て付いた彼女の心を融かせられるような人は現れる?









気力もないので長編にはしません・・・。

最後の方は色々詰め込みすぎて分かりにくくて申し訳ないです。


ブラコンシスコンとか兄弟姉妹の仲がいい話って好きなんですけど、これはちょっとやりすぎたかなって思ってますが、後悔はない!


これで練習がてら書いていたものはストック切れしました。


ちょっと時間がかかると思いますが、次回の更新から書き直した長編を投稿していきたいと思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ブラコンシスコン最高です、、、! 超好み!!! 素晴らしいブラコンシスコンをありがとうございました!
[良い点] ヤバイ 好み! 大好きです!続編はどこですか?! [一言] シスコンブラコン大好きです!むしろ禁断愛……はっここはなろうだった(お帰り)…いやいや…せめて義理だったなら…っ…(理性は方向…
[気になる点] 誤字報告 「目に入れても居たくない」になってます。 [一言] 感想じゃなくてすみません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ