流れない水
兄の続きです。
登場人物
アイラス
建前だ。全て、建前なんです。
本当は、どこにも行ってほしくない。だって、命をかけた競り合いに自ら飛び込んでいくんですよ?
馬鹿げていると思わないですか?
またあなたは血みどろになって僕の目の前に現れるんですね。
それなのに。
それなのに…!
笑顔で「いってらっしゃい」という自分がとても悍ましい。妬ましい。
城の中で、今日も僕は待っています。あなたが帰る日を、あなたのお顔を見るのを。
窓から、ずっと願っています。あなたが地に頽れないことを、あなたに神の御保護があることを。
辛い。恐ろしく怖い。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。
僕はいつも通り祈りを捧げ、窓の側から離れた。これから、何をしよう。
あなたのことが心配で、夜も寝付けないのに、食事も喉を通らないのに、祈ることしかできない自分が堪らなく悔しい。
ああ、神様はどうしてそんなに僕に意地悪なのですか。
なぜ僕にだけ苦しみを与えるのですか。
こうしている間にも、時間はゆっくりと、それでも早く流れていく。
僕は魔法で氷のあなたの像を造った。冷たく、銀色の肌。早くあなたの手に触れたいです。
僕よりも頭一つ分大きなあなたの背丈。それすらも愛おしいです。
狂ってしまいそう…。
どれくらい見つめ合っていただろうか。
不意に、自室のドアが控え目に開き、
「王子…?」
召使いの女性が覗き込んでくる。
「そろそろお休みになられた方が宜しいのでは…?」
それが彼女なりの精一杯の警告だったのだろう。僕は軽く頷いたか何かして、女性を部屋から追いやった。
そして、また空に祈る。
時が流れている限り、水は低いところに向かって流れる。
時が流れている限り、水は流れて砂に消える。
時が流れる限り、僕の心もどこかに流れていくのだろうか…?
あなたの虚像は静止したまま、時の流れに呑まれている。
ありがとうございました。