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リトヴィー家の執事  作者: 蒼咲猫
リトヴィー家の…執事見習いです。
6/18

私、執事見習いになりました。

本日6話目。

 三歳になって、一月ほど経ったある日。

 私は、普段行くことを禁止されている場所に立っていた。


 執事長の父、キウラムと共に。




「ラディアス。失礼の無いようにな」

「かしこまりました、執事長」


 そう言いながら、執事長(仕事中はそう呼ぶように言われた)が大きな扉をノックする。


 今、私と執事長が立っているのは、執事長の主の部屋の前。

 つまり、リトヴィー公爵本人の部屋だ。



 余談だが。

 リトヴィー公爵は、28歳という若さで宰相補(つまり次期宰相)という地位まで登りつめた、相当な切れ者だ。

『鬼才のセヴァン』とも呼ばれているのだとか。

(ちなみに、リトヴィー公爵の正式名は、『クロアル・セヴァン・アヒリノス・リトヴィー』と言う。)

 最近は特に忙しく、領地(公爵領)の運営を、弟であるジークフリート様に一部任されている(らしい)。



 そんな忙しいリトヴィー公爵が、わざわざ、執事長の息子である私に会いたいと、時間を作ってくださったそうなのだ。


「クロアル様、キウラムです。ラディアスを連れて参りました」

「ーー入れ」


 執事長は、しばらく間を置いて返ってきた返答に一礼すると、一瞬私の方を見てから、静かに扉を開けた。




「……君が、キウラムの息子か」


 部屋に居たのは、威厳のある声に反して、まだ若い美丈夫。

 自然と人を従わせることのできる、カリスマとも言うべき力を持った声に、姿勢を正した。


ーー試されてる。


 ふと、私を見るその目の鋭さの意味に気付いた。


ーーでも、何故。


 リトヴィー家は、私のような三歳児を試す必要がないはず。

 結局、その答えは出ないまま、リトヴィー公爵に挨拶する。


「お初にお目にかかります。キウラムが一子、ラディアスにございます。」


 いい終えると同時に、上半身を腰から真っ直ぐ、42°前に傾ける。

 …ここら辺は、前世と違うのですよねぇ。

同じなようで、細かなところで違いがあったりする。


「……顔を上げなさい、ラディアス君」


 見極め終えたのだろう。部屋の空気が一気に弛んだのを感じた。

 自然に顔を上げると、面白そうな顔をしたリトヴィー公爵。

 私と目が合うと、急に笑い出した。


「っ、ははっ!キウラム、君の息子は優秀だな!こんな奴は久しぶりだぞ」

「誠にありがたく、クロアル様。して、用件とは」


 一度深々と頭を下げた執事長の言葉に、公爵の纏う空気が張り詰めたものに変わった。


「ーーキウラム」

「畏まりました」


 リトヴィー公爵の、声の意味を理解できたのだろう。

執事長は一礼して、静かに部屋を出て行った。


「ーーラディアス。君は、リトヴィー家に何を求める」


 部屋に沈黙が降りて、しばらく。

唐突に、リトヴィー公爵が私に尋ねた。


ーーまた、試されている…?


 先程とは、比べ物にならないほど鋭い視線を向けてくるリトヴィー公爵。

 中々の迫力だが、正直ゲーム時代のスキュラーー平均Lv48,993、討伐推奨レベルは、転生5回(T5、とも)のLv8,000~9,000が6人という、極悪仕様の魔獣。蛇の上半身×3に、狼の下半身を持つ。バジリスクの強化バージョン。(石化能力持ち)ーーの睨みの方が怖い。


 …と、私がリトヴィー家に何を求めるのか、だったか。

 それは既に、一歳の頃に決めていた。


(わたくし)が忠誠を誓う許可を」

「ーーほぅ…?誰に、だい?」


 リトヴィー公爵が目を眇めると同時に、空気が比喩ではなく物理的に重くなる。

 嘘偽りは許さないとでも言わんばかりに、空気に殺気が混じる。


ーー『威圧』の技能(スキル)…?


 その空気はゲーム時代にも、幾度となく経験したもので。

久しぶりに、ゲーム時代の頃を懐かしく思った。

 私は、懐かしい思い出に気をとられつつ。

リトヴィー公爵の殺気に反応した対抗技能(カウンタースキル)が自動で立ち上がりかけるのを、遠い思考で止めた。


 私が、誰に忠誠を誓うのか。

それはーー


「リトヴィー家の、私が忠誠を誓うに値する方に」


 私がそう言うと、リトヴィー公爵は呆気に取られたようだった。

 同時に『威圧』のスキルの効果も切れ、静かな沈黙が部屋を覆った。


「……っ、く、くはは、あははは!」



 数秒後。

リトヴィー公爵は、壊れたように笑い出した。

 今度は、私が呆気に取られる番だった。


ーー何か、変なことを言ったっけ?


 そもそも、三歳児がこんなにはっきりと、自分の意見を言う訳がないということを。

この時の私は失念していたのだ。




「あははははっ!くっ、くはは、はは」

「ーークロアル様、一体…?」

「執事長!」


 いつの間にか帰って来ていた執事長は、主であるリトヴィー公爵が笑い続ける様子に、困惑しているようだった。


「はは、キウラム、君の息子は最高だよ、ははっ!」

「……?」


 リトヴィー公爵は、執事長の問いに答えることなく、微妙にずれた答えを返した。


「ーーラディアス、君をレクト付きの執事として認めよう」


 先程までの笑いから一変して、リトヴィー公爵は静かに告げた。


ーーレクト…?


 聞き覚えのない名前に、内心首をかしげる私に構うことなく、執事長が息を呑む。


「っ!クロアル様、それは…!」

「キウラム」

「……いえ、何もありません。失礼致しました」


 慌てて物申そうとした執事長は、リトヴィー公爵の厳しい声に、口を閉じた。


「ラディアス・リューレ・シリカヴィルス。

 我がリトヴィー公爵家は、君を執事見習いとして迎えよう」




 ありがとうございました。


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