双子の先輩と頭脳戦
シリアスっていうか、黒いです。(苦笑)
『ようこそ、ネレム総合学院へ!』
赤髪の少年が開けた扉の先に居たのは、二人の少年でした。金に近い茶髪に翡翠色の目をした、そっくりな見た目の一卵性双生児ーーつまり双子のようで、外見だけを見ると見分けるのは難しいでしょう。
二人は並んで立っていて、ニコニコと笑っています。
「僕は初等部生徒会庶務を担当している、初等部二年生の『ソルファス』だよ!ソルって呼んでね!」
言い忘れていましたが、学園内では、学園外の影響を受けないよう、名前のみ名乗ることができます。それ以上のことーー所属国や家名などは自分で調べなければなりません。この辺りは生徒の情報収集能力がものをいいます。
右側に立っていた少年ーーソルファス様が言い終えると、左側の少年がその翡翠色の目を輝かせます。
「僕は『アルファス』!アルって呼んでね!ソルの双子の弟で、同じく初等部二年生!初等部生徒会会計を担当してるよ!」
アルファス様が言い終えると、ソルファス様とアルファス様が顔を見合わせて、悪戯っぽく笑います。
『では、新入生のレクト君に質問!』
声をぴったりと揃えて、ソルファス様とアルファス様はその場で何度も場所を入れ替えます。
『さて、僕らの見分けがつくかな?』
ソルファス様とアルファス様は場所を何度も入れ替えて、少なくとも見た目は先程と同じように並びました。
ですが、流石に魔力の質は違うので、魔力を感じることができる方なら、直ぐに見分けることができるでしょう。ーーそう、レクト様のように。
「歓迎感謝します。ーー左側にいるのがソルファス先輩、右側にいるのがアルファス先輩ですね」
魔法のエキスパートであるレクト様にとって、魔力の違いを見抜く事など造作もありません。
迷う素振りもなくピタリと正解を口にしたレクト様に、ソルファス様とアルファス様は笑ったまま微かに目を細め「正解~!」とはしゃぐふりをします。
その様子に気付きながらも、気付かないふりをして、緋い目を満足気に細めて微笑むレクト様。
……まったく、これですから新しい場所へ行く時は気を抜けません。レクト様を試そうとしているのです、何があるのかは知りませんが、しばらくは忙しくなりそうですね。
ですが、まだこれも想定の内のひとつでしかありません。
レクト様に充実した学園生活を送っていただくためにも、レクト様の障害となるものには可及的速やかに消えていただきましょう。
……そのためにレクト様は、わざわざ変装までして学園に来ているのですから。
「それじゃあ、学園の寮まで案内するね!」
「レクト君は確か……1年のSクラスだったっけ?」
学園のクラスは実力順で、AAAクラスからAAクラス、Aクラスで3クラス合計100人、通称「Aクラス」となり、Bクラス計150人、Cクラス計200人、Dクラス計250人、Eクラス計300人と続きます。
その中でも、Sクラスとは国からの推薦者(各国一人)か、筆記試験と実技試験のトップ、もしくは学園側の基準を満たした者及び魔力の発現による編入生、もしくはその他特別な事情がある者、そして生徒会のみが入れる特殊クラスで、各学年で30人も在籍しない、一般生徒の憧れのクラスです。学術院に上がるのも、殆どがSクラスの生徒です。
他にも、Zクラスという特殊クラスがあり、そのクラスは研究クラスと呼ばれています。その中でも学術院に上がる生徒もいるでしょう。このクラスは、研究職や国の要職に既に就いている生徒が入ります。
他クラスとの交流が少なく、謎に包まれたクラスと言われています。
っと、話が逸れましたね。
レクト様は筆記と実技試験のトップと学園基準を満たした者としてSクラスに入ることになっています。
「じゃあ、リーチェ寮かぁ……」
ソルファス様がそう言うと、くるりと踵を返して歩き出しました。
アルファス様はソルファス様の様子に苦笑すると、レクト様についてくるよう促してソルファス様の後を追いました。
ちなみに、「リーチェ」とは花の名前で、桜のような花のことです。
リーチェ寮とはSクラスとZクラスの専用寮ですから、自動的にレクト様もそこに入ることになるようです。
「ラディアス」
「心得ております、レクト様」
こちらを見た目線に礼をすれば、その鋭い目を一瞬だけ緩めるレクト様。
しかし纏う空気は厳しいもので、苛立ちを隠す気は皆無のようでした。
それでも、一呼吸の間に気持ちを切り換えたレクト様は、私が既に感付いている事を知り満足げに笑った後、ソルファス様とアルファス様の後を追っていきました。
ーー言外に、「手加減無用」と伝えて。
「ーーいってらっしゃいませ、我が主」
主も相当苛立っているようだと、漸く冷静になった私は気付き、主に対する扱いに薄く嗤いました。
隠していたはずの苛立ちを、よりにもよって主に気付かれてしまったという気まずさを振り払うように軽く頭を振り、私もまだまだ精進せねば、と一人苦笑しました。
気持ちを切り換えて徐々に小さくなっていく主の背中に深々と礼をし、その気配が十分に離れた後で顔を上げます。
ーーここから先の道は、使用人の立ち入りが禁止されている区域。よって、使用人は別のルートを辿って寮まで行かなければなりません。
スッと目を眇て思い出すのは、先程ちらりと此方へ視線を向けたソルファス様とアルファス様。
お二方も立ち入り禁止は既にご存知のはずで。
私は事前にある程度の情報を得ていたが為に失態を避けられましたが、知らなければお二方に対して、レクト様が要らぬ借りを作ってしまっていた事でしょう。
ーー使用人立ち入り禁止区域に、無断で使用人を連れて行った、等と言う事があっては、今後レクト様にとって不利益なことになるのは必須。
貴族にとって醜聞は天敵。リトヴィー家も例外ではありません。
知らなかった、等と言う言い訳は通じないでしょうし、むしろそれは自身の情報収集能力の未熟さを暴露しているようなものです。
今回の件についての真意も、先程と同様レクト様の見極めの為でしょう。
先程はレクト様の魔力探知能力を探り、今回の件で情報収集能力を問う。そしてあわよくば、レクト様に対して大きな借りを作ってしまおう、という魂胆が透けて見えるようです。
初等部にしては良くできている策だと言えます。
ですが、前世で呆れる程の頭脳戦をこなしていた私と、幼少の頃からその手解きを得て英才教育を施されてきたレクト様では、相手にもなりません。
素直に相手が悪かったと諦めていただきましょう。
しかし、学園に入って直ぐにこれとは、一体どれだけレクト様は厄介事に好かれているのでしょうか。
いくら何でもこれはただの見極めにしては過剰過ぎますし、何かがあると見るべきです。
だからこそレクト様は、お二方……いえ、学園や学園の生徒会に対する疑惑を膨らませているようです。
はてさて、一体何があるのでしょうか。
……少し、調べ直す必要がありそうですね。
我が主の充実した学園生活の為に、障害となるものには、消えていただかなければなりませんから。
……それも、可及的速やかに。
そう言って、酷く冷たい目で嗤った執事に気付いた者はいない。
ーーさて、レクト様をお迎えしなけれぱ。
執事がそう呟いた次の瞬間、一陣の風と共に、その姿はかき消えていた。
ーー各々の思惑を乗せながら、歯車は漸く廻り出す。
全てを知る者は、未だ居ない。
ありがとうございました~。
誤字脱字等ありましたら、知らせてくれると嬉しいです。(苦笑)




