レクト様、10歳。そして…
遅れてすいません!
お待たせしました
ーー
レクト様に初めて魔法をお教えしてから、7年の歳月が流れました。
この7年、語り尽くせない程濃密な時間を過ごしました。
レクト様が魔法を暴発させられたり、
レクト様が正式に現国王様から王位継承権を与えられたり、
レクト様の魔法の腕が、いつの間にか宮廷魔法師団(シグルト王国で最も魔法に優れた機関)から誘いが来るほどにまで上達していたりーー
等々、数え始めたらきりがないほどです。
しかし私にとって、何より重要なのはーー
「ラディアス」
「何でしょうか、レクト様」
レクト様が、(全体的に)成長なされたことでしょう。
そして、今日は…
「ーー行くぞ」
「はい。…では、クロアル様、奥様、皆様。行って参ります」
レクト様が、執事の私、従僕のネロ、侍女のマイリーン、護衛のカーツとミュカを伴って、リトヴィー家から出発する日です。
私は、リトヴィー家の皆様に頭を下げてレクト様専用にと私が作った馬車に乗り込みます。
向かう先は、通称『学園』と呼ばれる、「ネレム総合学院」です。
大陸中から生徒が集まる学校ーー『学園』は幸いにも、ここシグルト王国から近く(といっても、馬車で片道一週間近くかかりますが)にあり、夏と冬にある長期休暇の間には、リトヴィー家に戻ってこれそうです。
だからこそ、クロアル様も奥様ーーレクト様の母親であり、元第二王女のシュナリア様ーーも、それほど寂しくは思っていないようです。
まぁ、学園との距離が遠すぎれば、卒業までの数年間は会うことができなかったかも知れないですし。
そう思えば、片道一週間は短い方に入るのでしょう。
リトヴィー家の屋敷の皆様からのお見送りが一段落した頃を見計らって、馬車を出すように御者に指示した私は、レクト様のもとへ向かいます。
魔法によって拡張された馬車の中は広々として、振動や音もほとんど感じないようにしています。
自分で作った馬車の出来に満足した私は、レクト様に今後の予定を告げて、マイリーンに後を任せて馬車の外へ出ました。
馬車の外には、馬車の上に上る為の足場があり、そこを上ると、周囲を警戒するカーツと、仮眠をとるミュカの姿がありました。
カーツは男、ミュカは女で、共に18歳ですが、その武術の腕は、下手な大人よりもよほど強いです。
「……異常は?」
「四時の方向に、尾行してくる気配が3」
「やはり、狙ってきますか…」
私の質問にも、落ち着いて答えるカーツ。
その答えに眉を寄せます。
レクト様ーー『蒼い目を持つ子供』を狙う輩がいることは、私直属の闇部ーー『黒狼』の者達からも報告されていたので知っていました。
が、こうもあからさまに狙ってくるとは…。
「………仕方ありません。少々『お話し』させていただきましょうか」
「……遊び過ぎないようにして下さいよ」
嗤って告げた言葉に何かを感じたのか、カーツが苦笑いで私を送り出します。
それでも私を止めないことからして、彼も『ネズミ』ーー大方暗殺者の類でしょうーーの存在に思うところがあるのでしょう。
私と同じく、レクト様に忠誠を捧げた彼らしいと言えばそれまでですが。
ですが。
「カーツ、私はあくまでも、『お話し』しに行くのです。間違えないで下さいね?」
「はいはい。了解しました、執事殿。」
そう。
あくまでも私は『お話し』しに行くのです。
間違っても、『遊び』ではありません。
『そういうこと』にしておかなければいけませんし。
……本音と建前は重要なのですよ。
「ーー此処は任せます」
主一筋の私が、此処を任せる。
その意味に気付いたのでしょう。
カーツの笑みが深くなります。
「任されました。…安心して行ってこい」
「えぇ。頼もしい限りです。
ーーでは」
カーツにひらりと手を振って、私は学園に向けて走り続ける馬車の上から飛び降りました。
ーーその後
「……敵わねえなぁ、ラディアスには、さ」
「当たり前でしょ。ラディアス先輩とあんたじゃあ、月とすっぽん……いえ、比べるのもおごがましいほど、歴然とした差があるわよ」
「ぅお!?起きてたのか、ミュカ」
「当然。ラディアス先輩が来た時から起きてたわ。……先輩には気付かれたようだけど」
「はぁぁ、マジかよ…。……遠いな、ラディアスまでの距離は」
「だから護衛が私達『二人』なんでしょ」
「『二人』でやっと一人前ってか?」
「…でしょうね」
「「……はぁ」」
等という会話がされていた事を……私は『知らない』。
だから。
「ーーふふっ」
思わず零れてしまった笑いは、『お話し』に対するもの。
私はスピードを上げて、ネズミのもとへと向かいました。
新キャラが続々……。
登場人物のまとめでも作ろうかな…。
作ったら、活動報告でお知らせしますね。




