閑話 ラディー(四歳)の1日 (下)
お待たせしました。
ーーこれは、ラディーがロイスと交代した後に部屋で交わされた会話。
「ーーで、あいつが例の?」
「…あぁ」
静かな部屋で、唐突に始まった会話。
客である男の問いに対して、この屋敷の主であるクロアルは、言葉少なに同意した。
主語のない問いだが、二人の間では意味が通じている。
「確かに、『鬼才』と呼ばれるだけはありそうだな」
どことなく機嫌よく呟かれた男の言葉に、クロアルは反応した。
「お前がそこまで言うとは…。珍しいこともあるんだな…」
「あ?…ったり前だろ。俺を誰だと思っているんだ、クロアル」
若干不機嫌そうに答えた男は、苦笑するクロアルの顔を睨む。
「悪かったって…。そんな顔をするな、『ジーク』。お前はーー」
「おっと、そこから先はまた後で、な?」
「ははっ。了解」
一瞬だけ目を細めた男ーージークは、冗談めいた言葉でクロアルの言葉を遮った。
小さく笑ったクロアルは、だが…、と続ける。
「あの子ーーラディーはお前には渡さないぞ?」
「わかっているさ。ただ…『鬼才』ーーラディアスと言ったか。彼本人の顔を、一度見たかっただけだ」
鋭いクロアルの言葉を、ジークは苦笑して受け止めた。
クロアルも、それ以上何かを言うことなく、言葉を続けた。
「へぇ……。
ーーで。どう思った、ジーク」
「そうだな…。今のところだがーー『リトヴィー』の不利になるようなことはしないだろうよ」
「……へぇ?」
先程までの空気を一変させ、鋭い言葉で尋ねるクロアル。
ジークも纏う空気を重くして、クロアルの問いに答えた。
ジークの答えに低く返事を返したクロアルは、方眉だけを器用にあげて、ジークの言葉の真意を探るように目を細めた。
「リトヴィー“の”、か?」
「あぁ。今のところは、な…。…俺にはそう見えた」
「……。シグルトではなく、リトヴィーを優先する可能性が高い、と」
「そうだ。その可能性が僅かにでもあるのなら、俺は『鬼才』を引き抜こうなどとは思わん」
きっぱりと言い切ったジークに、僅かに微笑んだクロアルは、称賛の声をあげた。
「流石は、『ジーク』……いや、シグルト王国の十八代目現国王、といったところか。」
リトヴィー家に来た客の正体を、さらっと暴露したクロアル。
しかし、部屋に空気の如く存在感を消しながらも給仕を続ける使用人達は、誰一人として動揺しない。
その事が暗に示すのは、リトヴィー家の使用人の能力が高いのか、既に知っていたのか。
きっと、恐らくは両方なのだろう。
「ふん、当たり前だ。これでも俺は、初代国王の次に賢王と呼ばれている身だからな」
「知っているさ。ーーさて、」
「本題に入ろう」
視線だけで、使用人のほとんどーー執事であるロイスのみを残して、全ての使用人を部屋から下げたクロアルは、ジークの言葉に頷いた。
ーーその後、部屋で交わされた会話。
その内容は……『蒼い眼を持って産まれた子供』について。
ラディーの知らないところで、既に運命の歯車は廻り始めていたーー
今回で閑話は終了です。
今後、国王様は多分出て来ません。(笑)




