要因
結城真奈美の机の中の無数のカメムシ。僕はそれを見て二年前のチサトの死に様と、チサトが受けていた陰湿ないじめを思い出した。
「静かにしなさい!いったい何事ですか!」
真奈美の悲鳴と机の倒れた音を聞いたのだろう。クサギが戻ってきた。倒された机の中から紅いカメムシまみれの教科書が数冊飛び出して、床に散らばっている。それをみてロッカーの側で怯える真奈美。それを見たクサギは、床に散らばっているカメムシまみれの教科書のうち一冊を手に取り、叫んだ。
「誰ですか!?こんなことをしたのは!」
全員は黙ったまま。クサギは生徒全員の顔を伺うが、目があった生徒はみな、そっぽを向いた。クサギは大きな溜め息をすると、震えている真奈美の顔を見た。
「結城さん?あなた、なにか心当たりは?」
「え…?」
「こんなことをされるくらいです。誰かに恨みをかってるとか…ないのですか?心当たりは?」
その質問をきくと、学級委員の前田彩香は、怯える結城真奈美の前に立ち、クサギに反論した。
「やめてください!マナミが恨まれてるなんて…あるわけないです!」
「あら?前田さんあなた、よっぽど結城さんと仲がよろしいんですね。でも前田さん、いくら友達とはいえ、あなたは結城さんの全てを知っていると言えるのですか?」
「え…?」
「知ったつもりでいるだけじゃないのですか?」
「それは…そんなこと…」
彩香は反論しようとしたが、反論できなかった。
「人間、誰でも人には見せない裏の顔があるものですよ?それに、いじめというものは、いじめられる側にも何かしら要因があるものです。本人に自覚が無いだけで、いじめる側が思わずいじめたくなるような要因がね。気が弱いとか人と仲良くなれないだとか…」
それを聞いて、再び彩香が反論した。
「まるで先生、いじめる側の肩を持ってるみたいですね!」
「なら、皆さんに聞きますが、カメムシは何故嫌われているのでしょう?」
クサギの質問に、いつもクサギと対立している沢口大我が答えた。
「そりゃ、匂い出すからじゃねえかよ!解りきったこと聞くなよ」
「そう。カメムシが嫌われているのにはちゃんと、そういった理由がある。人間だって同じこと。嫌われるのには嫌われる理由がちゃんとあるものです。さ、さっさとその机を起こして一時限目の準備をしなさい!もうチャイムが鳴るし、教科の先生が来るわ」
クサギは言いたいことをいうなり、教室を去った。