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全身を貫く一言
「あなたは?」
私に話しかけてきた女の人は、全身を黒いスーツに身を包み、ポニーテールの髪型に黒縁眼鏡、タラコ唇。葬式にでも行ってきたような服装。
「私は、こういう者です」
その女の人は、名刺をみせてきた。笹井探偵事務所所長、笹井ナコト。
「探偵さん?」
「室井千里の、いとこです…」
彼女が黒服を着ていたのは、千里の通夜にでるためだった。その笹井という女の人は、千里に私のいじめ捜査を頼まれたことを話した。
普通の探偵ならともかく、千里のいとこ。彼女にも言えない。わたしが千里を置き去りにしたことを。しかし、このあとだ。
「盗聴器で聞かせてもらったよ。君と千里の、最後のやり取りをね」
その言葉が、私の全身を凍らせた。




