逃げた先に
「っっっ!!」
室井はじめの降り下ろしたナイフが僕に刺さろうとしていた、その時だった。
バン!!
掃除用具入れの戸が突然、開いた。中から人が出てきて、室井の顔面に思いきり蹴りを入れた。室井はその衝撃で、教室の机に激突した。
「ジョウくん、今だ!逃げろ!」
「安室さん…!?なんで…」
「いいから早く!この男は私がおさえる!助けを呼ぶんだ!」
なんと、朝から姿を見ていなかった安室さんが、掃除用具入れの中から出てきた。その理由を聞きたかったが、今はそんな余裕はない。机に激突した室井が、ふらつきながらも起き上がろうとしている。蹴られても室井はナイフを手放さなかった。安室さんもうかつに近寄れないでいる。
「早く行け!ジョウくん!」
安室さんに叫ばれ、僕は教室を出て廊下を走った。そして階段を降り、一階の廊下まで来た。
「……!」
一階の廊下は地獄だった。無惨にも室井はじめに刺された生徒の血まみれの体があちらこちらに倒れている。生きているのか、死んでいるのかもわからない。二階の廊下もおそらく同じ状況だろう。ほとんどがうつ伏せで倒れていたこともあるが、逃げるのに夢中で、被害にあった生徒の顔までは確認しなかった。
とにかく逃げた。無我夢中で走り、気がつくと内履きのまま、校門の前まで来ていた。安室さんはどうなったのだろう…?
「亀梨ジョウ…無事だったか」
「…笹井…さん?」
校門の外側から、笹井が現れた。
「安心しろ。今、警察に通報した。この場所ならギリギリ携帯電話が通じるんだ」
笹井は今日も黒スーツを着ている。その下に着ている白いワイシャツは、血で汚れていた。
「その血…笹井さんも、中で襲われたんですか?」
「中で…?いいや…?」
笹井は左手で携帯電話を持っていて、右手はズボンのポケットに突っ込んでいた。その突っ込んでいた右手を笹井はポケットから出し、僕の胸に押し当てた。
「………え?」
鋭い痛みが全身に走る。僕の胸から血がゆっくりと流れ出ている。
よく見ると、笹井の右手にはナイフが握られている。
「笹井…さ……」
目の前が霞む。笹井が少し笑っているように見えた。
僕は地面に伏した。しだいに、目の前が真っ暗になった…。
何処からか飛んできたカメムシが、僕の体のどこかに止まった。その感触が、最後まであった。




