理由
室井はじめは、血まみれのナイフの刃先を僕に向けた。僕が寝てた一時間のうちに、下でいったい何が起こっていたのだろう…?僕は携帯を取り出した。
「無駄だよ。知ってるんだぜ?この学園は山に囲まれていて、電波が届かない。俺もこの学園の生徒だったからなぁ…」
じりじりと僕に近づいてくる刃先。
「何が起こったのかわからないって顔だな。なんで教室に誰も来ないのか、不思議に思っただろう?え?」
恐怖のあまり、声が出ない。
「下にいた生徒は、手当たり次第にこのナイフで一突きした。ヘラヘラと幸せそうに廊下を歩いてる奴には数回刺した。刺される前のあの怯えた顔、スカッとしたぜ…」
「……!」
さっきまで寝ていたせいか、脳がまだ事態を把握できていない。まだ、夢でも見ているような感覚だ。いや、夢なのかもしれない。夢であってほしい。
「なんで…ですか…?千里の復讐ですか…?」
「復讐…?ああ、そうかもな。俺は、憎んでいる。千里を死に追いやっておいて、自分はのうのうと笑って生きてやがる。そいつを俺は許せない」
「だからなんで…僕もあなたにナイフを向けられなければならないのですか…?こないだ転落したあなたを置き去りにしたからですか?」
「いいや?あれは俺の自業自得だと思っているさ。お前らはあの時、俺に殺されかけたからな」
「じゃあなぜ…僕は千里の死とは関係ない!何もしていない!」
「そりゃそうだろうな。お前は関係ない。だから千里が死んでも傷ついたりもしなかったろうさ。昨日線香をあげに来たのも、ナコトに強引に付き合わされただけだろう。千里がお前を好きだったとしても、それは千里の勝手な片思い。お前は千里に関心はなかった…そうだろう?それがむかつくんだよ!」
彼は何を言いたいのか…?言ってることがよくわからなかった。僕が殺されなければいけない理由がわからない。
「カメムシが駆除されるのには理由がある。触れるとニオイを出してしまうからだ。お前もそうだ。お前は今、ニオイを出した。自分だけ助かろうと、必死に自分は関係ないと、抵抗した。自分さえよければ他人はどうだっていい。それがお前が出したニオイだ」
室井はじめはナイフを突きだした。僕は必死でよけた。
「ナコトから聞いた。ナコトはお前らのクラスの誰かの親から、娘がいじめられていると捜査を依頼されていたそうだな。そしてナコトは、いとこである千里に頼み、机に盗聴器を仕込ませた。それが、千里が死んだときには無くなっていた。お前もそれは聞いているだろう。その依頼してきた親ってのは、学級委員の前田彩香の親だったのさ」
「え…?」




