誰がために鐘は鳴る
昨日から一睡もしていないせいか、教室に入ってから小一時間眠ってしまったようだ。目が覚めると教室の時計は八時をまわっていた。
おかしい。いつもなら八時をまわれば、クラスの連中ほとんどが教室に集まる。しかし今日は誰も来ない。もうすぐショートホームルームが始まるというのに…。
不思議に思って僕は窓の外をみた。誰の姿も見えない。三年の教室は三階で、いつも校庭にいる生徒が小さく見えて、誰が誰だかわからない。しかし今日誰の姿もない。
そういえば今日は安室さんに会わなかった。いつもなら僕が校門をくぐれば、箒を持った安室さんと会う。毎日冷たい秋風に当たって外にいたので風邪でもひいて休んだのだろうか?
コツーン、コツーン…
誰かが廊下を歩いて、こっちに向かってくる足音が聞こえる。笹井だろうか。もうショートホームルームの時間だ。
足音が大きくなっていく。
「悪い子は…いねがぁ~?」
男の声。笹井では無かった。しかし、聞き覚えのある声だ。
ガラガラガラ…
教室の戸が開いた。
「…え?」
教室に入ってきたのは、笹井でもなければ、うちのクラスの誰でもない。ましてやうちの学園の生徒でも、教員ですらない。しかし、知っている。昨日会ったばかりだ。全身血まみれで、右手に紅く染まった刃物を持って教室に入ってきたその男を…。
「ここにいたか…亀梨…ジョウ」
「あ、あなたは…」
その男は、頭に包帯を巻いている。数日前、森で転落して頭を打ったときのものだ。昨日会った時は白かった包帯は、誰かの返り血で紅く染まっていた。
チャイムが鳴った。ショートホームルーム開始のチャイムだ。
しかしチャイムが鳴る前から既に、始まっていた。僕が教室で寝ている間に始まっていたのだ。
室井はじめによる、姉湖学園殺人ショーが……!




