イタコ
「どういうことよこれ…?誰かが死体をどこかに隠したの?それともまさか生きてたとか…?」
もし彼が生きているとしたら、真奈美に復讐しに来るかもしれない。彼が死んでいて彼の死体を隠した者がいるとしたら、僕らの一部始終を目撃していた可能性もある。
「そこでなにしてるの?」
「うあっ!!」
いきなり後ろから誰かに声をかけられ、ビクッとした。
「亀梨くんに、結城さん?」
「志摩…?」
振り向くと、そこにいたのはクラスのイタコ少女、志摩レイカだった。赤い着物に身を包んでいる。そのうえオカッパ頭なので、日本人形のコスプレに見える。
「ビックリさせないでよ!アンタこそなにやってんのよレイカ!まさかアンタがやったんじゃないでしょうね!」
「私がやったって…何を?何の事を言っているの?」
よく見ると、志摩レイカは右手に数珠を持っている。ひとりで何をしに来たのだろうか。
「とぼけないでよ。じゃあアンタ、ここに何しに来たのよ!」
「怒りを鎮めに来たのよ。ここにいる霊達の」
「はあ!?」
何を言うかと思えば、また霊の話だ。クラスで彼女は『イタコ』と呼ばれているが、霊能力者の孫の意味もあるが、痛い子という意味でも呼ばれている。クラスで浮いた存在だ。
「あなたたち、あまりこの森に入らない方がいいわよ。とくに夜はね。さもないと、千里のようになるかもしれないわよ?」
「どういうことだよそれ…?」
志摩の口から千里の名前が出ると、無関心そうな真奈美が真剣な顔で志摩を見た。
「ここは、孤独な死者の集う『カメムシの森』。この森は、呪われているのよ。」
志摩レイカが口走った『カメムシの森』とはいったい何だろうか。それが、千里の死と何か関係あるのだろうか?あたりはどんどん暗くなっていく。冷たい秋風が、僕の体に突き刺さるような気がした。




