ラーメンにカメムシ
ピチャン!
「ん?…おおおああー!!まだ半分も食ってないのにぃい!!ふざけるなあああ!!」
空中を飛んでいたカメムシが、笹井のラーメンに落下した。スープに溺れてパチャパチャ暴れている。そしてスープの匂いに混ざってカメムシのニオイがだんだん漂ってきた。
「要するに保科は甘えん坊のビビりってことでしょ!ごちそうさま」
真奈美が席を立った。
「おいおい、もうちょいゆっくりしてけよ。帰りはワタシが車で送るからよ」
「いえ、外まだ明るいし。食べたぶん運動したいから、歩いて帰る。行くわよ亀梨」
「え?あ、うん…ごちそうさまでした」
僕も立ち上がると、笹井はニヤニヤしながら聞いてきた。
「お前ら仲いいな。付き合ってんのか?」
「そんなんじゃないわよ!バカじゃないの?」
真奈美は少し動揺しながら言い返した。
「気をつけて帰れよ」
真奈美と僕は、店をあとにした。
「とんだ邪魔が入ったわね。さ、今度こそ、行くわよ亀梨」
「ねえ、やめないか?」
僕は何か、嫌な予感を感じていた。
「は?なに?アンタもビビり?いいから来なさいよ」
店から三十分歩いて、ようやく例の森に入った。森を歩いているうちに、だんだん薄暗くなってきた。
「この下ね」
現場の前まで来た。真奈美はおそるおそる、傾斜地の下の方を覗きこんだ。
「う、うそ…?」
「え?なに?」
僕も真奈美の後ろから下を覗いた。
「ない…」
石の上を枕にして横たわっていた室井千里の兄の死体は、忽然と姿を消していた。石を赤く染めた紅い血を残して…。




