些細な体調不良
「何だ!?今の悲鳴は!」
笹井は玄関のドアを開けようとしたが、ドアには鍵がかかっている。笹井は呼び鈴を何度も鳴らし、ドアを叩いた。
「おい!どうした!保科くん!おい!」
「うあああああああ!」
家の中から、廊下を叫びながら走るような音と、そのあとにバタンとドアが閉まるような音が聞こえた。マサトの身に、いったい何が起きたのか…?
「よし!このドアをぶち破ろう。三人がかりで体当たりすれば、鍵がぶっ壊れるだろう。いくぞ!せーの…」
ドオン!と、三人でドアに体当たりした。しかし、ドアは思いの外頑丈で、ビクともしない。
「ねえ、窓は?庭に行けば窓から中の様子みえるんじゃ?」
真奈美がそう言うと、僕と笹井はうなずいて庭へ行った。しかし、どの窓も厚い布のカーテンがかかっていて、中の様子が見えない。
「くそっ!どうすれば…」
笹井は、庭に落ちてる石を拾った。
「窓をコイツで割って入るしかないか…」
「え?それはやめた方がいいですよ!空き巣と間違えられるかも…」
「そんなこといってる場合か!既に誰かが保科を襲ってるかもしれないんだぞ!」
そう言って笹井が石で窓ガラスを割ろうとすると、それを見ていたのか、五十代くらいのオバサンが声をかけてきた。
「何してるの!?」
「え、いや…」
「私の家になにか?」
「あ、あなた、保科真里くんのお母さんですか?」
「はい…そうですけど」
マサトの母親が、家に帰ってきた。
「いま、中から息子さんの悲鳴と物音が!」
「なんですって?」
マサトの母親は、急いで持っていた鞄から、家の鍵を取り出した。そしてドアを開けた。
「あれ?」
ドアを開け、みんなで中をみると、誰の姿も無い。さっきまでの騒ぎか嘘のように、静まり返っている。
「マサト?いるんでしょ!」
母親が叫ぶと、どこかで何かがカラカラ動く音がした。そしてその後、ジャーッと水が流れる音がした。
「ふう…」
トイレから、スッキリした表情でマサトが出てきた。言うまでもないだろうが、カラカラはトイレットペーパーを引っ張る音で、ジャーは水洗の音だ。何が起きてたのかいまいちよくわからない僕らに対し、マサトの母親は笑いながら謝った。
「ごめんなさい皆さん、お騒がせしました。この子、玄関の呼び鈴の音に弱いんですよ。いつも呼び鈴が鳴ると、腹を下してトイレに駆け込むんですよ。ごめんなさいねえ…」
「は、はあ…」
「ところで、あなたたちは?」
「ああ、わたし、久佐城先生に代わって息子さんのクラスを受け持つことになった、笹井と申します。あと、この二人はクラスメイトの亀梨シズカと結城真奈美です。息子さんが今日、学校を休んだもので心配で伺いました」
「あら、そうでしたの!すみませんねご迷惑かけて。この子いつも体を壊しちゃって…」
マサトは、母親に合わせて頭を下げると、無言で二階へ昇っていった。二階に自分の部屋があるらしい。
笹井はマサトと話をしたかったようだが、結局会話はせず、帰ることになった。そして笹井は約束通り、僕らをラーメン屋に連れてきた。




