ササイな出欠確認
見間違いではない。いま目の前で教壇に立っているのは、あの笹井ナコトだ。探偵であるはずの彼女が何故、臨時教師としてここにいるのだろうか?そもそも、教員免許は持っているのか?
「今日から三ヶ月間、短い間ですがどうぞ宜しくお願いします。では早速、出席をとりたいと思います」
笹井は出席簿を開いて、名前を読み上げていた。そして、次は僕が呼ばれる番だ。
「亀梨…シズカ!」
わざとだ。絶対わざとだ。昨日まで僕のことはジョウって確かによんでいたじゃないか。何人かの小さな笑い声が聞こえてくる。
「亀梨シズカ!いないのか?」
「…はい」
訂正させることなく、返事をしてしまった。いちいち否定するのも面倒だ。どうせ笹井も、僕をからかうため、知っててわざと間違えてるんだろうから。すると笹井は、こっちを見てニヤリとしながら、残りの名前を呼んでいった。
「保科マサト!」
教室はシーンとしている。というか、僕の名前は間違えておいて、真里の名前は間違えないのか。さっき桐谷先生は、クサギの意識はあると言っていた。おそらく昨日のうちに、病院でクサギと生徒の名前とか、いろいろと打ち合わせのようなものをやっていたのだろう。
「保科くんは休みか。誰か、何か聞いていないか?」
誰も答える様子はない。笹井は出席簿を閉じて、教卓の上に置いた。
「まあいいや。じゃあ学級委員さん、号令お願い」
「はい。起立!」
彩香の号令で、朝のホームルームが終わった。笹井は教室を出るとき、また僕の方をチラッと見てニヤリとし、戸を閉めた。
放課後、教室には最後、僕と真奈美が残った。いつも真奈美と一緒に帰る彩香は、今日は先に帰ったのか、既にいない。
「今のところ、パトカーの音とかは聞こえてこないわね。まだ死体、見つかってないのかしら」
真奈美が僕に話しかけてくると、再び、今朝の記憶が甦ってきた。
「ねえ、今から森に、死体がどうなったか見に行かない?」
「え?」
「もし一緒に来てくれるなら、アンタのこと信用してあげてもいいよ。疑うのやめたげる。どう?」
真奈美は取引を持ち出してきた。僕をまた面倒ごとに巻き込むつもりらしい。しかし、行かなきゃ行かないで、これから先、ずっと僕は真奈美に犯人扱いされるだろう。
「わかったよ…」
「アンタ、わりと素直ね」
僕と真奈美は教室を出た。そして誰もいない玄関から外に出て校門を抜けると、いつもの帰り道とは反対方向にある、今朝の現場へと向かった。そう。千里の兄の死体がある現場へ。
「どこへ行く?」
門を出て数歩歩いた、その時だった。後ろから、誰かに呼び止められた。振り返ると、そこには笹井ナコトが立っていた。
「笹井さん…?」
「そっちはお前らの家とは反対方向だよな?どこへ行くつもりだ?」
笹井は、疑いの目で僕と真奈美を見ている。




