潰れたカメムシ
私立高校姉湖学園。放課後ひとりの男子生徒が、校庭で枯れ葉を集めている用務員に声をかけた。
「安室さん、背中にカメムシついてますよ」
「ん!本当か?すまないがキミ、この箒で潰さないように祓ってくれないか?背中のどの辺か、私からは見えないんでね…」
安室は持っていた箒を男子生徒に手渡した。
「いいですよ。じっとしていてください」
男子生徒は、安室の背中のカメムシにむかって箒を振った。ところが、失敗してカメムシを潰してしまった。安室の背中には潰れたカメムシと、茶色に近い色の汁が付着していた。
「どうだ?うまくとれたかい?」
「…はい。問題ないです」
「そうか。ありがとう。君はたしか…えーと…亀梨シズカくんだったかな?」
「いえ、ジョウです。亀梨静。静かと書いてジョウと読むんです」
「そうだったのか。ごめんよジョウくん。どうも最近のコの名前は、キラキラネーム?というのかな?読み方が難しくてね」
「いえ…。それにしても、カメムシ多いですね」
「ああ。この学園は特にだ。森のなかに建っているから仕方ないだろうが、だから生徒たちにも【カメムシ学園】と呼ばれているんだろう。それにしても、なんか匂わないか?」
「…そうですか?ボクはあまり鼻が利かないほうなので別に…」
「まあいいや。ありがとう。気をつけて帰りなよ!」
「はい。さようなら」
去っていく亀梨ジョウを見送る安室。亀梨の姿がみえなくなると、安室はジョウから返してもらった箒の匂いをかいだ。
「やはり匂う…あの小僧もしや…」
「どうしたんですか?安室さん?」
後ろから、白衣を着た養護教諭の桐谷まひるが安室に声をかけた。
「あ!安室さん!背中に潰れたカメムシが張り付いてる!」
「本当ですか!」
「ちょっと待っててくださいね。いま、ティッシュで取りますから」
「有難うございます。すみませんね桐谷先生」
桐谷まひるは、安室の背中についたカメムシを取り除くと、ティッシュでまるめて自分の胸ポケットにスッとしまった。
「少しシミになってますね」
「ああ。気にしないでください。汚れてもいい服を着てるので。それより先生、亀梨静くん、どういう子なんですか?」
「え?亀梨くんですか?彼がどうかしたんですか?」
「いや、変わった名前の子だなあ…とね」
「ああ確かに!最初名簿みたとき女子かと思いましたもん。絶対シズカって読んじゃいますよ。実際静かな子だしね」
「そういえば生徒の中にもうひとり、名前を読み間違えた子がいました。たしか名前は…」