ナイフと怯え
「お前ら、千里にお供え持ってきたわけでも無いらしいな。何故ここに来た?」
千里の兄が、何故真奈美の靴を持っているのか。
「本当はただ、この靴が欲しかっただけだろ?やるよ。ほら!」
千里の兄は真奈美の靴を、真奈美の足元に放り投げた。
「な、なんでそれをあなたが持ってるんですか?」
真奈美が尋ねると、千里の兄はスーツの裏ポケットから、紙を取り出した。
「この紙とその靴が、昨日俺の家のポストの上に置いてあったんだよ」
その紙を見せられた僕と真奈美は驚愕した。
室井千里を駆除したのは、結城真奈美だ。
確かめたければ、この彼女の靴を持って明日の明朝、室井千里が死んだ場所に来るといい
寄生蜂
その怪文書は、寄生蜂によるものだった。千里を駆除したのは真奈美?どういうことだろうか。
「警察は足を滑らせた事故だろうと言ってたが、俺は納得出来なかった。なせ千里が、こんな人気のない所に来ていたのか…お前らクラスメイトに聞いても皆、知らんの一点張りだ。そればかり考えてるうちに二年が経っちまった。驚いたよ。この紙を見た時
な!寄生蜂って奴がどんな奴か知らんが、結城真奈美、お前にはもう一度、話を聞かなくてはならない」
真奈美はチラッと僕の方を見た。『これもアンタの仕業でしょ』みたいな目だ。まだ僕を寄生蜂だと疑っているのだろうか。僕は首を横に振って否定した。
「さあ言え結城真奈美!いったい千里に何をした?」
「わからない!わたしは何も…!」
千里の兄は、スーツの裏ポケットから果物ナイフを取り出した。そして刃先を、真奈美に向けた。それを見た真奈美は逃げようとしたが、腕を掴まれて、首もとに刃先をピタリとつけられ、少しでも動くと刺さりそうだった。
「ひ…」
千里の兄の目は正気じゃなかった。真奈美を今にでも殺しそうな目だ。僕は立ち止まったまま、動けなかった。警察を呼びたくても、その勇気がない。スマホを取り出した瞬間、ナイフの矛先が僕に向くと思うと、恐くて出来なかった。
ここでもまた、傍観者になっていた。




