濡れ衣
気まずい一日が終わろうとしていた。後ろの席だったのが幸いだった。前の席に座っていたら、皆の冷たい視線を浴びながら一日を過ごさなければいけなかったからだ。もともと、僕に対してあまり話しかけてくる人はいなかったから、その辺はいつも通りだ。しかし、やってもいないことを一方的に疑われるのはモヤモヤする。
放課後、教室には僕だけが残った。朝登校するのは一番乗り、放課後帰るのも最後。これでは疑われるのは当然だ。朝、早く来るのには理由がある。皆の注目を浴びるのが嫌だからだ。教室のドアを開けた瞬間、皆の視線を浴びるのが苦手だ。それなら逆に最初から教室にいて、来る人に挨拶してた方がいい。そんな些細な理由だ。放課後は別に拘りはない。ただ今日は、他の誰かが僕の机にイタズラするんじゃないか、もしくは真奈美が勘違いで仕返しするんじゃないかという恐れから、最後まで残っていた。僕は席を立って、教室を出た。
「また何もしてないでしょうね?」
僕が教室を出ると、教室前の廊下に真奈美が立っていた。彩香も一緒だ。
「何もしてないよ」
僕は捨て台詞のようにそう言うと二人から背いて玄関に向かった。そして下駄箱から靴を取り出し、僕は足を入れた。
「…?」
足を入れた瞬間、ゴリッと変な感触がした。靴の中で何かが潰れたような、そんな感触が…。靴を脱いで中を確認しようとした瞬間、靴のなかから異臭がした。
カメムシだ。
最後まで残っていたのが裏目にでたようだ。誰かが僕の靴のなかにカメムシを入れたのだ。それも両足に。いったい誰が…?
真奈美と彩香も玄関に来た。
「ねえ、なんかカメムシ臭くない?」
「ほんとだ。どこから臭ってるの?」
まさか真奈美がやったのか?僕への仕返しに?僕はとっさに、下駄箱の反対側の陰に隠れた。しかし、このまま二人が帰るのをやり過ごすつもりだったが、僕の下駄箱は開けっ放しだ。まずい。
「見て真奈美、亀梨くんの下駄箱、開けっ放し。でも、内履きあるけど下足もある。なんで…?」
「アイツの下駄箱から臭ってるよこのカメムシのニオイ。」
真奈美は僕の下足を取り出して確認した。
「うわ、ちょっと彩香!これ…潰れたカメムシ入ってる!キモいんだけど!」
「なにしてるの!?そこの二人!」
いきなりの怒号だ。玄関前を通りかかったクサギだ。
「まさか結城さん?自分に嫌がらせをした犯人がわからないから、手当たり次第に仕返ししようとしてるんじゃないでしょうね?」
「違います先生!マナミは何も…」
「聞く耳持ちません。前田さん、あなたもグルでしょう?」
「勝手に決めつけないでよ!わたしは亀梨の下駄箱が開いててカメムシの臭いしてたから確認しただけだし、彩香はただ一緒に見てただけ!」
「見苦しい言い訳ね。ちょっと二人とも、こっちに来なさい。」
二人は、クサギに連れていかれた。僕は、それを隠れて黙って見ていた。




